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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 15

クライマックス「100万円到達と、最初のビジネスパートナー」

「……倉科くん、本当に大丈夫かな……? もし相手が怒って、ネットに私の本名とか住所を晒したら……」

 カフェのスタッフ休憩室。

 パイプ椅子に座る白石詩織は、不安そうに指先を絡ませ、割れたタブレットの画面を覗き込んでいた。

「心配するな。ネットで威勢よく吠える連中ほど、法律と規約の文字を見せられた瞬間に泡を吹いて逃げ出すチキンだ。

 ――貸してみろ」

 俺は詩織からタブレットを受け取ると、画面に表示された悪質な依頼主――金の鎖を巻いたアイコンの自称動画配信者への返信フォームを開いた。

 『明日までに無償で全部描き直せ。さもなくば詐欺絵師として晒す』と脅迫してきた男だ。

 俺は冷徹なキータッチで、相手の急所を的確に射抜く文章を打ち込んでいった。

『突然のご連絡失礼いたします。当アカウントのマネジメントおよび法務対応を担当しております、倉科と申します。

 貴殿よりいただいておりますご依頼の件につきまして、当方にて取引ログおよび契約内容を精査いたしましたので、以下の通り最終通告を申し上げます』

 詩織が「えっ、倉科くん、マネージャーなんて肩書……!?」と目を丸くする。

 交渉において「第三者の代理人」を立てるのは鉄則だ。当事者同士の感情的な泥沼を遮断し、ビジネスライクな力関係を強制的に構築できる。

『1.【請負契約における仕事完成と修正回数の上限について】

 当初の募集要項において、修正対応は「ラフ段階で原則2回まで」と明記されております。貴殿はすでに5回の大幅な仕様変更を要求されており、民法第六百三十二条における請負人の義務はすでに優に履行されております。これ以上の無償修正に応じる法的根拠は一切存在いたしません。

 2.【刑法上の脅迫罪・恐喝未遂罪への抵触について】

 貴殿の「SNSで詐欺絵師として拡散・晒す」旨の文言は、刑法第二百二十二条(脅迫罪)、および有償の役務を無償で強要しようとする行為として刑法第二百四十九条(恐喝未遂罪)の構成要件に完全に該当いたします。

 3.【当方の対応方針】

 貴殿の度重なる理不尽な要求および違法な脅迫行為を受け、本取引を「契約不履行・重大な背信行為」に基づき直ちに【契約解除】とさせていただきます。

 仮払い済みの2,000円につきましては、プラットフォームの規定に従い全額返金処理に同意いたします。

 ただし、これまでに提出したラフ画・設定画の一切の著作権は制作者に留保されており、無断使用された場合は著作権法第百十九条に基づき刑事告訴および損害賠償請求を行います。

 なお、本メッセージの送信と同時に、これまでの全チャットログ、貴殿のアカウント情報、および脅迫文面をプラットフォーム運営事務局の悪質ユーザー窓口、ならびに所轄警察署のサイバー犯罪相談窓口へ証拠保全として提出済みです。

 以後、制作者への直接の接触は一切禁じます。異議がある場合は、当方の顧問弁護士宛てに書面にてご連絡ください』

「……送信」

 ポチッ、とエンターキーを叩く。

 詩織は息を呑み、ゴクリと喉を鳴らした。

「こ、こんな強い文章送っちゃって……本当に大丈夫なのかな……?」

「見てろ。三分以内に決着がつく」

 時計の針を見つめる。

 一分後――画面のステータスが「既読」に変わった。

 そして、送信からわずか二分後だった。

 ピロンッ♪

『取引がキャンセルされました』

『相手ユーザーによってブロックされました』

『相手のアカウントは利用規約違反の調査のため一時停止中です』

「え……?」

 詩織がポカンと口を開けた。

 あんなに横暴で、執拗に詩織を追い詰めていた男が、警察と刑法の条文を突きつけられた瞬間、一言の反論すらできずにブロックして逃亡したのだ。

「き、キャンセルされた……! 晒されることもなく、本当に終わっちゃった……!」

「言っただろ。ネットの悪質クレーマーなんて、知識のない弱者を脅してタダ働きさせたいだけの寄生虫だ。

 法と規約の急所を突けば、自分から尻尾を巻いて逃げ出すんだよ」

「う……うわぁぁぁんっ、倉科くん……っ! ありがとう……! 本当にありがとう……っ!!」

 張り詰めていた糸が切れたのか、詩織はその場に泣き崩れ、俺の作業着の裾をぎゅっと握りしめてきた。

 大きな瞳から大粒の涙が次々と溢れ、頬を濡らしていく。

 華奢な肩が、小刻みに震えていた。

「……おい、泣くなって。カフェの店長に見られたら、俺が泣かせたみたいだろ」

「だって……本当に怖かったんだもん……っ! 毎日夜中まで描いて、怒られて、私の絵なんて誰にも必要とされないんじゃないかって……ずっと真っ暗だったんだもん……っ」

 俺は小さく息をつき、ポケットから清潔なハンドタオルを取り出して詩織の手元に置いた。

「お前の絵は、誰にも必要とされないどころか、喉から手が出るほど求められる本物のダイヤの原石だ。

 ――さあ白石、泣き止んだらビジネスの話をしよう。

 さっき言った通り、お前の才能を正当な市場へ連れていくぞ」

 ◇ ◇ ◇

 詩織のバイトの休憩時間が終わるまでの三十分間、俺たちはカフェの奥の席でノートPCを開いた。

「白石、中学生でもわかる算数をしよう。

 なぜ、お前の神がかった絵が今まで二千円にしかならなかったのか?

 そして、どうやってそれを【一撃5万円】の案件へと化けさせるのか?」

 俺は画面に、一本のシンプルな図式を描いた。

『個人の趣味(アイコン・ヘッダー) = 【消費】 = 価格帯:数千円』

『法人の事業(LP素材・広告クリエイティブ) = 【投資】 = 価格帯:数万〜数十万円』

「いいかい白石。

 個人がSNSのアイコンを買う時、それは単なる『お小遣いからの消費』だ。

 財布からお金が出ていくだけだから、客は一円でも安く値切ろうとするし、単価の上限は数千円で頭打ちになる。

 だが、企業やWeb事業者が絵を買う時はどうだ?」

「企業……? 会社のホームページとか、広告用の絵……?」

「そうだ。企業にとって、イラストの発注は消費じゃない。

 売上を増やすための【投資】なんだよ!」

 俺はキーボードを叩き、ランディングページ(LP)の成約率シミュレーションを表示した。

「例えば、月に広告費を百万円かけて、商品を売っているネット通販会社があるとする。

 ページを訪れた読者のうち、購入に至る確率――いわゆる成約率(CVR)が、一般的なフリー素材のせいで『1%』だったとしよう。

 だがそこに、お前が描いたような圧倒的に美麗で、ターゲットの感情を鷲掴みにするオリジナルイラストを導入したらどうなる?

 成約率がわずか【0.5%】改善して『1.5%』になるだけで、企業の月間売上は一気に【百五十万円】跳ね上がるんだ!」

「ひゃ、百五十万円……!? たった0.5%で……!?」

「そうだ。

 売上が毎月百五十万円増えるなら、そのきっかけを作ってくれたイラストレーターに、一回きりの制作費として『5万円』や『10万円』を払うことなんて、企業からすれば【安すぎてお釣りが来る最高の投資】なんだよ!

 相手に百万円の利益をもたらす絵を描けるなら、五万円の請求書を出すのは強欲でもなんでもない。正当な対価だ」

 詩織は息を呑み、メガネを指で押し上げながら画面を凝視した。

 自分の描く線の一本一本が、「誰かの売上を爆発させる装置」になり得るという事実に、目から鱗が落ちたような表情を浮かべている。

「でも倉科くん……私、どんな絵を描けば企業の人に喜んでもらえるのか、全然わからないよ……」

「だから、俺と組むんだよ」

 俺はニヤリと笑い、自分の胸を親指で指差した。

「お前は、絵を描くことだけに百パーセントの情熱を注げばいい。

 市場のリサーチ、競合ページの分析、どんな構図が成約率を高めるかというペルソナ設計、営業文の作成、単価交渉、そしてさっきのようなクレーマーの撃退……そういう泥臭いビジネスの全工程は、すべて【ディレクター】である俺が引き受ける」

「ディレクター……」

「高級寿司屋と同じだ。

 極上の魚を捌く神腕の職人(お前)と、銀座の一等地に店を構えて富裕層を呼び込み、一貫三千円の値段をつけるプロデューサー(俺)。

 二人が揃って初めて、芸術は莫大な資本へと昇華するんだ」

 俺はクラウドワークスとランサーズの法人向けアカウントを開き、即座に営業用のパッケージプランを作成した。

【Web制作会社・D2C事業者向け特化パッケージ】

『成約率(CVR)を極大化する、完全オリジナル高精細キャラクター&LP素材制作一式』

・メインビジュアル用イラスト(差分2種付き)

・WEB広告用スクエアバナー素材(3サイズ展開)

・修正対応:ラフ段階2回まで確約

・価格:【1件 50,000円(税別)】

 ポートフォリオには、詩織が過去に描いた最高傑作の数々を、俺がマーケティング的な視点から「このイラストがどのように読者の購買意欲を刺激するか」という解説文を添えて掲載した。

 そして――俺がせどりや情報収集で繋がりのあった複数のネットショップ運営者、およびクラウドソーシングで「高品質なイラスト素材を求めているが、良いデザイナーが見つからない」と嘆いていた優良クライアント三社へ、一斉に提案メッセージを送信した。

 ◇ ◇ ◇

 結果は――まさに「爆発」だった。

 翌週の月曜日から金曜日。

 工場のベルトコンベアの前で、俺が淡々と段ボールを結束している間にも、ポケットの中のスマートフォンが受注通知で静かに震え続けていた。

『【スカウト】新規メンズコスメのLP素材について、50,000円で正式発注したいです』

『【案件成約】健康食品通販のキャラクターデザイン一式、50,000円でお願いいたします』

『【継続案件のご相談】先日の納品物が社内で大絶賛でした。来月分も同じ条件で予約できますか?』

 提案を送った三社すべてから即日発注が決まり、さらにその制作実績を見た別のWebマーケティング企業から、追加で一件のスカウトが舞い込んだのだ。

 合計四件。

 すべて定価通りの【1件 50,000円】。

 合計売上高は――驚異の【200,000円】に達した。

「……は、発生してる……本当に、一件五万円で買ってもらえちゃった……!」

 金曜日の夜、実家の作業部屋で、納品完了通知を見つめた詩織が震える声で叫んだ。

 彼女の目の下には、少しだけ頑張った証の隈があったが、その瞳はかつてないほどの自信と歓喜の光で輝いていた。

「白石、お疲れ様。

 今回のディレクション契約に基づき、売上二十万円のうち、制作報酬としてお前の個人口座に【十万円】を振り込む。

 残りの十万円は、俺の営業・構成・ディレクションフィーとして回収させてもらうぞ」

「じ、十万円……!? 一週間で、十万円も……!?

 カフェのバイトの半月分のお給料だよ……!? そ、そんなに貰っちゃっていいの……!?」

「当たり前だ。お前が汗水垂らして生み出した正当な価値の対価だ。

 ――ほら、これを受け取れ」

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ買っておいた高級なブルーライトカットメガネと、有名メーカーの首用温熱マッサージャー、そして糖分補給用の高級チョコレートの詰め合わせを詩織の前に差し出した。

「えっ……? こ、これ……?」

「勘違いするなよ。

 お前に肩こりや眼精疲労で倒れられたら、納期の遅延リスクが発生して俺のディレクション利益が毀損する。

 これは、重要なビジネスパートナーの稼働率を維持するための【必要経費(福利厚生費)】だ」

 俺が真顔で言い切ると、詩織は一瞬きょとんとした後、耳まで真っ赤にして口元を綻ばせた。

「ふふっ……く、倉科くんって、本当に素直じゃないんだから……」

「な、なんだよ。極めて合理的な経営判断だぞ」

「うん、そうだね! 福利厚生、すっごく嬉しいよ! 大切に使うね……!」

 詩織はマッサージャーとチョコを宝物のように胸に抱きしめ、メガネの奥の瞳を細めて、天使のような満面の笑みを咲かせた。

 その破壊力に、俺の胸の奥が一瞬ドクンと跳ね上がったが、俺は咳払いを一つして、必死に平静を装った。

(……あぶない。感情に流されるな、倉科湊。

 すべてはROI(投資対効果)の計算の上にある関係だ……たぶん)

 ◇ ◇ ◇

 詩織が笑顔で帰宅した後、時計の針は深夜二十三時を指していた。

 一人になった静かな自室で、俺はパソコンを開き、地方銀行のネットバンキングにログインした。

 今週一週間で回収された、すべてのキャッシュの最終集計だ。

 第12話・第13話で仕掛けていた店舗せどりの在庫――高級フィルムカメラやジャンクアンプ、カスタムゲーム機など、残っていた全商品の受取評価が完了し、売上金が続々と口座へ着金していた。

 さらに、今日のイラストディレクション事業の粗利十万円が合算される。

 画面の右上に表示された【総合預金残高】の数字。

 それを目にした瞬間、俺の全身の毛穴がカッと開き、背筋に強烈な電撃が走った。

『口座残高:1,024,500円』

「……いち、ぜろ、に、よん……」

 声が掠れた。

 七桁の数字。

 ついに――百万円の壁を、完全に突破したのだ!

 高校卒業のあの日、ポケットに入っていたのは、バイト代の残りわずか三万二千円だった。

 親の金融無知で進学を断念させられ、同級生たちに「高卒の工場勤務とか無理w」と嘲笑われ、見下されたあの日から――わずか一ヶ月。

・不用品販売でマーケティングの基礎を学び:+15万円

・正社員属性をハックしたセルフバックで:+20万円

・相場の歪みを突いた店舗せどりの高速回転で:約+57万円

・そして、詩織と組んだディレクション事業で:+10万円

 時給労働のアルバイトは一分もしていない。

 誰にも頭を下げず、自分の健康を削ることもなく、資本主義のルールを正しく理解し、仕組みと知識を武器にして叩き出した、まぎれもない【100万円の純現金(キャッシュ)】だった。

 ピロリロリーン♪

 デスクの上に置いていたスマートフォンが、一度だけ短く鳴った。

 画面を見ると、九条源蔵からのショートメッセージだった。

 時計を見ると、深夜零時ジャスト。まるで俺の口座の数字が見えているかのようなタイミングだった。

『通帳の数字、七桁に乗ったな』

 俺はゴクリと唾を飲み込み、震える指先で返信を打った。

『はい。1,024,500円、達成しました。

 言われた通り、時給労働は一秒もしていません』

 送信して数秒後、源蔵からの返信が届いた。

『へっ、初速だけは合格点をくれてやる。

 だがな坊主、浮かれるのはそこまでだ。

 せどりも受託も、所詮は「てめえの手足を動かして稼ぐフローの小銭」にすぎねえ。

 お前が風邪を引いて寝込んだら、その百万円は二度と増えねえんだよ』

 画面の文字から、老人の獰猛な眼光が透けて見えるようだった。

『明日から第2章だ。

 てめえが寝ている間にも、二十四時間文句も言わずにチャリンチャリンと金を運んでくる【デジタルの自動販売機(Webメディア)】を建設するぞ。

 ――月額3,000円で雇える「最強の社員」を頭の中に叩き込んでやるから、明日の夜、屋敷に来い』

 月額三千円の最強の社員――生成AI。

 そして、労働から「資産構築」への完全なるシフト。

 俺はスマートフォンの画面を胸に当て、深く、力強い息を吸い込んだ。

 同級生たちが大学のサークルで遊び呆け、やがて直面する就職活動という名の品評会に怯えるまでの、残り一、四二〇日。

 種銭百万円という強力なブースターロケットを手に入れた俺の進撃は、ここからさらに次元を変えて加速していく。

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:18歳/食品工場ライン工(手取り月14万8,000円・種銭100万達成!)

・総資産残高:1,024,500円(前話比:+506,500円 ※せどり全回収+デザイン受託利益合算)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+992,500円(累計事業純利)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「自分で手を動かして稼ぐな。神の手を持つ職人を見つけ、てめえは一番高い値札をつけるプロデューサーになれ。それが資本家のレバレッジだ」

読んでいただきありがとうございます。

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