第二章 生成AI×Webメディア量産!労働から「資産構築」への転換
源蔵のダメ出し「せどりはただの肉体労働だ」
五月上旬、五月晴れの心地よい風が新緑の木々を揺らしていた。
十七時零二分、三晃紙器工業のタイムカードを切り、俺は夕暮れの街を軽快に自転車で駆け抜けていた。
目指す先は、小高い丘の上に建つ九条源蔵の大豪邸だ。
ペダルを踏み込む足取りは、いつになく軽い。
それもそのはず、胸ポケットに入ったスマートフォンの画面には、昨夜確定したばかりの、燦然と輝く七桁の数字が刻まれていたからだ。
『預金残高:1,024,500円』
高校卒業時、手元にあったのはわずか三万二千円。
そこから不用品販売、セルフバック、そして中古せどりと詩織とのデザイン受託を猛スピードで回転させ、わずか一ヶ月で百万円の大台を突破した。
(手取り十四万の工場勤務だろうが、資本主義のルールさえ知っていればここまで来られる。
……さすがのあの偏屈ジジイも、今回は文句のつけようがないはずだ)
九条邸の重厚な門扉をくぐり、玉砂利を踏みしめて玄関ホールへ進む。
吹き抜けのリビングの奥、欅の一枚板テーブルの前には、作務衣を着て優雅に高級中国茶の湯気を楽しむ源蔵が座っていた。
「じいさん、約束通り来たぞ。――これを見てくれ」
俺は少しばかり誇らしげな笑みを浮かべ、ネットバンキングの残高画面を開いたスマホをテーブルの上に差し出した。
源蔵は老眼鏡を鼻の頭にずらし、画面に表示された『1,024,500円』という数字をじっと見つめた。
そして――。
「……ふん」
鼻を鳴らし、スマホを指先でポイと押し返してきた。
称賛の言葉どころか、その目には退屈そうな呆れの色すら浮かんでいる。
「なんだ坊主、鼻の穴を膨らませてドヤ顔しに来たのか? 反吐が出るほど安っぽいツラだな」
「なっ……! ドヤ顔って……言われた通り、時給労働は一秒もせず、手取り十四万の給料にも頼らずに、自分の力で百万円の種銭を作ったんだぞ!? 普通なら半年以上かかる数字だ!」
「普通? ケッ、有象無象の凡人と比べて勝った気になってんじゃねえよ」
源蔵は茶器をコトッと置き、獲物を射抜くような冷たい眼光で俺の喉元を睨みつけた。
「いいか倉科湊。てめえがこの一ヶ月でやったことはな、資本家の仕事じゃねえ。
ただの【自営業という名の肉体労働】だ」
「肉体、労働……?」
「そうだ。
耳の穴かっぽじって、俺の質問に答えてみろ。
――もし明日、てめえが猛烈なインフルエンザにかかって、四十度の高熱で二週間ベッドから起き上がれなくなったらどうなる?」
「え……? それは……」
「せどりの仕入れに行けるか? 行けねえよな。
仕入れたジャンク品をヤスリで磨いて清掃できるか? できねえよな。
ヤフオクやメルカリの購入者に梱包して発送できるか? クライアントから請け負ったイラストのディレクション指示を出せるか? 全部ストップだ!
つまり、てめえが寝込んだ瞬間――てめえの事業からのキャッシュフローは【完全にゼロ】になるんだよ!」
ドンッ、と源蔵の拳がテーブルを叩いた。
重厚な欅の板が低く唸る。
「てめえがやってるのはな、時給労働のアルバイトを、より単価の高い『自分の小遣い稼ぎ作業』に置き換えただけにすぎねえ。
自分が動かなきゃ一円も入ってこねえものを、投資の世界じゃ『資産』とは呼ばねえんだよ、この大バカ野郎が!」
頭のてっぺんから冷水を浴びせられたような衝撃だった。
百万円を達成して浮き足立っていた俺のプライドが、粉々に打ち砕かれる。
「……じいさんの言う通りだ。
せどりは、仕入れて、直して、売るという作業を繰り返さなきゃいけない。
部屋には仕入れた商品の在庫段ボールが積み上がって生活スペースを圧迫してるし、売れるまでは現金がモノに固定されて身動きが取れなくなるリスクもある。
……身体を酷使して稼ぐという意味では、工場のライン作業と構造は変わらない」
「やっと気づいたか」
源蔵は表情を緩めず、立ち上がるとホワイトボードを引き寄せてペンを走らせた。
「中学生でもわかる算数を教えてやる。
世の中のビジネスモデルには、【フロー型】と【ストック型】の決定的な二種類が存在する」
源蔵はボードの左に『フロー(流れ)』、右に『ストック(蓄積)』と殴り書いた。
「フロー型ってのは、お前がやったせどりや、クライアントからの単発の受託制作、そしてサラリーマンの給料だ。
狩猟採集民と同じで、獲物を仕留めたらその瞬間に肉(金)は手に入るが、食い尽くしたらまた次の獲物を追いかけて森を走り回らなきゃならねえ。
一生、走るのをやめられない回し車の上で生きるハメになる。
だが、資本家が目指すべきは右側の【ストック型】だ。
一度仕組みを作り上げちまえば、自分が寝ていようが、南の島でバカンスを楽しんでいようが、過去に積み上げた『資産』が勝手に二十四時間働き続けて金を運んでくる」
源蔵はペン先をホワイトボードの中央に突き刺した。
「いいか湊。誰かが昔提唱した、資本主義における【儲かるビジネスの4原則】を知ってるか?」
「儲かるビジネスの、4原則……?」
「そうだ。持たざる者が起業して勝つための、普遍の鉄則だ」
源蔵は指を一本ずつ立てながら、淀みなくボードに書き込んでいった。
①【小資本(初期費用が極めて少ない、またはゼロ)で始められること】
②【在庫を持たない(または極小である)こと】
③【利益率が圧倒的に高いこと】
④【定期的な収入(継続的・ストック性)が見込めること】
「この4つを照らし合わせてみろ。
せどりはどうだ? 在庫を抱えるから②に反するし、仕入れ原価がかかるから③の利益率にも限界がある。定期収入でもねえから④も満たさねえ。
飲食店やカフェの開業はどうだ? 店舗の内装や保証金で何千万円もかかるから①で即死、食材の廃棄で②もダメ、家賃と人件費で③もカツカツだ。
世の中の愚かな起業志望者はな、この4原則を何一つ満たしていねえ地獄のビジネスに全財産を突っ込んで、借金まみれになって討ち死にするんだよ」
「じゃあ……この4原則を、完璧に満たすビジネスは何なんだよ?」
「決まってんだろ」
源蔵は獰猛な笑みを浮かべ、ホワイトボードを指で叩いた。
「――【デジタル空間に建てる、Webメディア(特化ブログ)】だ!」
◇ ◇ ◇
「Webメディア……特化ブログ?」
「そうだ。
インターネットの上に、特定の悩みを解決する情報サイトを構築するんだ。
サーバー代とドメイン代なんて、月々千円か二千円程度で済むから【①小資本】だ。
データとしてサーバーに置くだけだから、部屋にダンボールが積み上がることもねえ【②無在庫】だ。
原価はほぼゼロ、売上の九割以上が丸々利益になるから【③利益率90%超】だ。
そして一度書いた記事は、ネットの海で二十四時間三百六十五日、文句も言わずに読者を集め、商品を紹介し、チャリンチャリンと広告収入を口座に運んでくる【④ストック収入】になる!
まさに、デジタル空間に設置する【自動販売機】そのものなんだよ!」
「デジタルの、自動販売機……」
目から鱗が落ちるような感覚だった。
そうだ。せどりは一個売ったら終わりだが、Web上に置いた記事は、何百人、何千人もの読者が同時に読んでも擦り減らない。
物理的な限界を超えて、自分の複製人間が二十四時間営業活動を続けてくれるのだ。
「お邪魔します……! 湊くん、遅くなっちゃってごめんなさい……!」
その時、リビングの扉が遠慮がちに開き、鈴を転がすような澄んだ声が響いた。
入ってきたのは白石詩織だった。
黒縁メガネの奥の瞳をパチクリさせながら、大事そうにトートバッグを抱えている。
前話で俺が「今日、源蔵さんの屋敷で今後の事業戦略の打ち合わせをするから来てくれ」と呼んでいたのだ。
「おお、詩織ちゃんか! よく来たな、そこらへんのふかふかのソファに座りな」
源蔵は俺に対する鬼瓦のような顔から一変、孫娘を迎える好々爺のようなデレデレ顔で目を細めた。態度の格差が酷すぎる。
「こんにちは、九条さん。……あの、湊くん、先週納品したコスメ会社のバナー素材、追加で二件も発注が来ちゃったよ! 『白石さんのイラストのおかげで、広告のクリック率が前月比で三倍になった』って、クライアントの社長さんがすごく喜んでくれてて……」
「そうか。お前の画力と俺のマーケティング設計が、完全にハマった結果だな」
「うん……! 私、自分の絵でこんなに誰かの役に立てるなんて、夢みたいだよ……っ」
嬉しそうに頬を染める詩織。
だが、俺は彼女が差し出してきたトートバッグから、チラリと見えた私物に目を留めた。
高校時代から使っている、角の塗装が剥げ落ちた重そうなペンケース。
そして、手首には百円ショップで買ったと思われる使い古したヘアゴムが巻かれていた。
先週、制作報酬として十万円を彼女の口座に振り込んだはずなのに、自分のためには一円も使っていないのが丸わかりだった。
(……こいつ、また自分の時給をゼロで見積もって、全部貯金に回してやがるな)
俺は心の中でため息をつき、ポケットから高級なミントタブレットを取り出して詩織の手のひらにポンと置いた。
「ほら、糖分補給だ。
言っておくが、これはお前に作業を頑張らせるための『初期インセンティブ経費』だからな。勘違いするなよ」
「あ、ありがと……ふふっ、湊くんの『経費』、甘くて美味しいね」
詩織は嬉しそうに目を細め、口元を綻ばせた。
その天使のような破壊力抜群の笑顔に、俺の心臓が不自然なリズムで跳ね上がったが、俺はわざとらしく咳払いをして誤魔化した。
「ケッ! いちゃつくのは勝手だがな坊主、お前、この優秀なデザイナーの才能を、いつまでも単発の受託制作で浪費させる気か?」
源蔵の冷やかし混じりの一撃に、俺は居住まいを正した。
「させませんよ。
俺が作ろうとしているWebメディアに、白石のイラストと図解デザインを完全な【看板・独自コンテンツ】として組み込みます。
文字だけの退屈なブログなんて、今のネット社会じゃ誰も読みません。
白石の圧倒的なビジュアル表現と、俺のロジックを掛け合わせることで、競合が絶対に真似できない唯一無二のメディアを構築します」
「ほう、言うじゃねえか」
源蔵はニヤリと笑った。
「だがな湊、ブログってのは参入障壁が低い分、ライバルも星の数ほどいる。
世間の情報弱者どもは『毎日一記事、心を込めて手作業で書けばいつか報われる』なんていう精神論で消耗し、三ヶ月でアクセスゼロのまま挫折していくんだ。
手取り十四万の工場勤務で、夜の六時間しか使えねえお前が、専業のプロブロガーや大手のメディア企業に記事の量と質で勝てると思ってんのか?」
「真正面から手作業で戦う気なんて、最初からありませんよ」
俺は薄く笑い、持参したノートPCを開いた。
「じいさん、昨日送ってくれたメッセージに書いてありましたよね。
――【月額3,000円で雇える最強の社員】って」
「へっ、ピンときたようだな」
源蔵は身を乗り出し、俺のノートPCの画面を指差した。
「時代は変わったんだよ、坊主。
今、世界中の資本家たちが最も注目し、凡人と天才の生産人格差を何百倍にも押し広げているチートツール――
――【生成AI】だ!」
画面に映し出されたのは、最新の人工知能プラットフォームのログイン画面だった。
「凡人が三日かけてうんうん唸りながら書く記事構成案やリサーチを、この『月三千円の社員』はわずか【三分】で完了させる。
種銭百万円を手に入れたてめえが次にやるべきは、自分の手を動かすことじゃねえ。
AIという名の超高性能エンジンの手綱を握り、圧倒的な速度で質の高いメディアを量産することだ」
「生成AIを手綱で操る……」
「そうだ。
明日、工場の馬鹿どもがどんな無駄金を使ってカモにされているか、その目で確かめてみろ。
そしててめえは、月三千円の最強の武器を使いこなし、労働から『資産構築』へと一気に次元を引き上げるぞ!」
源蔵の咆哮が、静かなリビングに響き渡った。
手取り十四万の工場男子と、時給六十六円から救い出された天才絵師。
種銭百万円を突破した二人の前に、今、次世代のテクノロジーを駆使した「デジタルの不労所得要塞」への扉が開かれようとしていた。
【現在の倉科湊ステータス】
・年齢/肩書:18歳/食品工場ライン工(手取り月14万8,000円・種銭100万達成)
・総資産残高:1,024,500円(前話比:±0円)
・月間不労/事業キャッシュフロー:+0円(せどり在庫整理中・第2章Webメディア構築へ移行)
・【今日の源蔵のマネー格言】:「自分が寝込んだらゼロになる稼ぎは資産じゃねえ、ただの肉体労働だ。小資本・無在庫・高利益率・定期収入――この『儲かる4原則』を満たす自動販売機をネットに建てろ」
読んでいただきありがとうございます。
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