第2話
「だ、だれだよ! おまえ!」
「……え? あ、あんたこそだれ!」
目が覚めたら、なぜか目の前に、金髪ギャルがいた。
「……え?」
「……え?」
あれ、この顔どこかで。
寝ぼけ眼だったが、しっかりと焦点が合うと、その顔はおれが知っている人物だった。
「あ、ああああああああっ!」
「ちょ、な、なんであんたがここにいんのよ!」
そいつは、南雲渚なぐもなぎさだった。おれのクラスの女子のカースト一位のギャル。金髪にピアスに胸元を開けた制服の着こなし。くっきりとした二重まぶたと分厚い唇が印象的。某有名女優のギャル版、みたいな感じの外見である。
「こ、ここはおれの城だ! ここに住むことにしたんだ!」
「はあああ? なに言ってんの! ここは私が見つけたの! 私が住むの!」
どうやら、南雲は昨日おれが寝てしまった後、この小屋にやってきたみたいだ。暗闇の中で、たまたまおれの存在に気づかなかったのだろう。
南雲とはあまり話したことはない。でも、その取り巻きのギャルから俺はよく「きゃー、ワンちゃん、可愛いっ!」とからかわれ、なぜか頭をなでられたり、ハグされたりする。あいつらにしてみれば、おれは可愛い小動物なのかもしれないが、俺の自尊心はボロボロである。おれは可愛いではなく、かっこいい男になりたいのだ。
「ふん、よくそんな装備で住むとかいえるな」
南雲の服装は半袖とミニスカ。寝袋は旅行バッグでもってきたみたいだが、蚊帳を用意していなかった。
「ふぇ?」
「見てみろよ、腕」
「腕……? ────きゃーっ!!!!!!」
おれは思わずニヤリと笑った。
南雲の腕には、無数の虫刺され。
「ていうか、顔もすごいぞー」
「か、顔っ! い、いやーっ! かゆいかゆい!」
いつものおきれいな顔にも無数の赤いプツプツが。
「足には、ゴキブリついてるぞ」
「い、いやーっ! キモいキモい、取って取って取ってよぉおおおおおおおおおおお!」
そりゃ、夏の山の中で一晩すごせば、そうなるだろう。
南雲が慌ててふためる様子を蚊帳の中から、余裕の表情で見つめる。
「もういやぁああああああああ!」
南雲は、全身を使って暴れた。しかし、ゴキブリさんも負けじと南雲の膝の辺りを闊歩する。
「きゃあああああああ」
流石にかわいそうになったので、蚊帳から出て、暴れる南雲の前にしゃがんだ。
暴れる南雲の足を押さえ、
「な、なにすんのよ!」
「暴れるなって、ゴキブリとってやるから」
「ゴキブリ言うなしっ!」
ああもううるさい。
「……っ!」
足を、押さえていたら、スカートの中から、ちらりと何かが。
「う、動くなって。ほら、取れたぞ」
思わず、動揺してしまう犬塚さん。
しかし、犬塚さんは冷静沈着を装って、南雲の左足の上で元気に這いずり回っていたゴキブリを無事駆除しました。
「パ、パンツ、見たでしょ」
「み、見てねーし」
ちなみにピンクでした。
「うぇええええん。虫刺されたし、パンツ見られたー」
「だから、見てねーしっ!」
泣きじゃくる南雲。
あーうるせー。
おれは、いったん蚊帳に戻り、虫刺されに効くムヒを南雲に手渡した。
「それ、使えよ」
「うえええええん」
「はぁ……」
どうしてこんなことになったのやら。
*
10分ほどして、ようやく南雲は泣き止んだ。腕にこれでもかってほどムヒを塗っている。
「……い、今のクラスの子に言ったら殺すからね!」
「……へ、へい」
こ、こえー。
ま、いつもの南雲といえば、男子に対しても強気なイメージ。その南雲が、あのあわてぶりだからな。
「あ、あれ手鏡がない」
なにやら今度は旅行バッグを漁っている。
「うそ! どうしよ、こんな顔でコンビニなんていけないよぉ」
ムヒを顔にも塗りたいらしいが手鏡を家に忘れたらしい。
「……はい、これ」
「あれ、もういいのか」
南雲からムヒを受け取る。諦めたらしい。
「何言ってんの? あんたが、顔に塗ってよ」
「はあああ?」
「お、お願いだから!」
腕は自分で塗れるが、顔はどこが刺されているか分からないというわけだ。
「……へいへい」
また、騒がれても仕方が無い。さっさと終わらせてご帰宅願おう。
おれはムヒのキャップを開け、南雲の顔に近づけた。
改めて見ても、整った顔立ちである。モデルのスカウトもあっても、おかしくないだろう。今はプツプツだらけだけど。
「あっ……♡」
「へ、変な声出すなよ!」
ムヒの先端部分が、顔の突起物に触れると、南雲は小さく声を漏らした。
「だ、出してないし!」
「……」
もう一度、ムヒを顔につける。
「あっ……♡」
「だから、変な声だすなって!」
「ひ、人にやられるとくずぐったいの!」
顔を真っ赤にした南雲。なぜかこっちまでがいけないことをしている気分になる。
「……」
マジでなんなの、この状況。
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