第三話
「はい、塗ったぞ。うんじゃ、帰ってくれ」
ムヒを塗り終わると、南雲は立ち上がり、膝についたほこりをはたいていた。
「はあああ? 嫌です! ここ、私が見つけたんだから!」
「……はあ」
強情なやつだ。居座る気らしい。かといって俺も譲るつもりはない。おれは長らくのこのキャンプ生活のために準備を重ねてきたのだ。親からもらえる小遣いだけでは心許なかったので、バイトも始めていた。
「……あ、あんたも家出なの?」
「え?」
「あんたも家出してここに来たのかって聞いてるの!」
「まあ家出といえば家出だな」
「なにそれ」
「おまえも家出なのか」
そういうと、少しうつむいて真面目な顔になる渚。
「う、うん」
「なんで、家出なんかしたんだ?」
「……それは……教えてあげない」
「あ、そう」
よし、じゃあ、ドラム缶風呂でも作りに行きますか。
「な、なによ! もう少し食い下がりなさいよ!」
「いや、まあとりあえず聞いておいたほうがいいかなって。ほら、社交辞令ってやつ」
なんだよ。こいつ、聞いてほしかったのかよ。
「も、もう言ってあげない!」
別に聞きたくもないが。
おれは、軍手をはめて戸口に向かった。
「あんた、どこ行くの?」
「ドラム缶風呂を作るんだ」
というと、南雲は顔をぱぁっと明るくさせた。
「なにそれ! 面白そう!」
「べ、別にお前には関係ねーよ。おれがここに住むために作るんだ」
そういうと、南雲はしばし、考え込むような顔をした。
「……分かった。分かりました。いいよ」
「へ?」
「だから、いいよって言ってるの! あんたと住むの」
「はああああ?」
「あんた、無害そうだし。小動物だし」
「ちょ、ちょっと待て待て」
おれと、南雲が?
共同生活? ここで?
「ほら、あんただって悪い気しないでしょ? こーんなに可愛いギャルと一緒に住めるんだよ?」
そういって、南雲は少し姿勢をかがめ、おれと目線の高さを同じにした。
「……っ!」
小悪魔の笑みを浮かべる南雲。
南雲がぐっとおれに近づいてくる。
「ねぇ、いいでしょ?」
ふわりと、嗅いだことのある匂いが鼻孔をくすぐった。
汗とシャンプーのまざった夏の女子の特有の匂い。
体がなぜか、かっと熱くなる。
「ね、いいでしょ」
南雲の顔が近くにきた。
南雲は、俺の耳元でそっと、ささやく。
「近くで見るとほんとに背、ちっちゃいね」
「……う、うっせ」
南雲の息を感じた。南雲の熱を感じた。
そして、南雲は、また、小声でこうささやいた。
「可愛いね、ワンちゃん」
おれの体温は一気にあがった。
思わず、おれは南雲から、距離を取る。
「犬塚って下の名前、なんだっけ?」
「……え、英二」
そういうと、南雲は、ニカッと笑った。
「よろしくね、えーいじっ!」
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