第1話
犬塚さんはですね、18歳になる前にですね、法律を破ってみようと思いました。あ、犬塚ってのは俺のことです。18歳になったら、書類送検レベルの犯罪でも、今なら注意されるだけ。この権利を行使しないわけにはもったいないと思ったわけです。
はい、アホですね。
「よし、これで準備完了と」
犬塚さんが今から犯そうとしている犯罪は、多分、不法侵入という犯罪です。
「うんじゃ、行きますか」
スーツケースを手に、登山用のリュックを背負った犬塚さん。しばらくだれもこの家には帰ってこないので、戸締まりはしっかりしました。それでは、出発進行です。
*
「あちー」
親に反抗してみたくなったからというのが、家出の理由ではない。両親がずっと海外で仕事をしていて、長らく放置されているのも、家出の理由ではない。
ただ、ふとキャンプ生活でもやってみたいぁ、なんて思ったのが、家出のきっかけだ。
不満といえば、この暑さだ。
汗だくのシャツで汗だくの顔面を拭い、重たいリュックに下敷きになりながら、スーツケースを引きづる。
家から歩いて20分。
駅に着いてホームにあがり、すぐ来た電車に乗り込む。
「生き返るー」
電車のなかは、キンキンに冷えてやがった。
高校二年生の夏休み。まさに青春の象徴とも呼べるそんな時期。でもでも、俺は部活にも入っていないし、友達もさして多くない。
で、なにか青春をしようとあがいているわけなんです。一人で。それって青春なんかよってツッコミはさておき、スーツケースをドア前に置き、はぁと息をついた。
今、両親はまた海外に出張に行っていて、あと一ヶ月は帰ってこない。そんなわけで、この家出はバレルことのない完全犯罪というわけだ。
電車が隣駅に止まるとすぐに降車して改札に向かった。そして、そのまま、またウォーキング。目的地は車窓から見えた、駅から徒歩30分ほど離れたデカい山だ。
多分、私有地。
そこに今から侵入して、一ヶ月くらい寄生と思っています。
ちなみにその山に行く途中に、俺の通っている東山高校がある。で、学校の帰りにたまたまその山に侵入したところ、というかすでに目的があって侵入したわけなんだけど、小さな小屋を見つけたってわけ。もちろん、電気もガスも通ってないぜ?
そう、みんなが憧れるキャンプ生活を、1ヶ月やってみよう、それが俺の一夏の青春ってやつなのだ。
*
「しぬー」
ようやく山の麓についた。
普通に歩いて30分。でも、今はクソ重リュックくんとタイヤがいかれているポンコツスーツケースくんを連れているから、倍の60分もかかってしまった。
この山はもう長らく放置されていて、道という道はない。虫除けをずぶぬれになるまで散布して、雑草が生い茂る中を気力だけで進んでいく。
虫除けおかまいなしに襲ってくる羽虫が鬱陶しい。この山、多分ヘビも出るんだよな。
「ぜぇぜぇ」
草に絡まったスーツケースのタイヤはほとんど動かないし、リュックは相変わらず重いし、暑いし。
人間、ほんとにヤバイときってはぁはぁではなくて、ぜぇぜぇってなるんですね。
意識が飛びそうです。でもでも、帰宅部部長の犬塚さん、無我夢中で頑張りました。
彼の足腰は日々の帰宅で鍛えられていたわけです。ただ、帰っているだけだけど。
「……ついたぁ」
家を出て三時間。ようやく目的の小屋に到着した。
見た目はぼろぼろ。木製だが、もちろん外壁は穴だらけ。肝心の屋根も、横から見ただけで三カ所も穴が開いている。まあでも冬でもないし、住めないことはないだろう。当面の目標はこの小屋のリフォームである。あ、よい子はマネしちゃだめだよ。
「今日はとりあえず、寝床を確保するか」
前に来たときに調査済みだが、ドアの鍵は閉められていなかった。
中に入っても外との空気は変わらない。というのも、外からの夕日が何本も差し込んでくるくらい、外壁と屋根はぼろぼろなのだ。でも、床は板張りになっていて、少々腐っているところ以外は問題なさそう。
喫緊の課題は、寝床だ。こんな穴だらけの小屋に寝ていたら、無数の虫に噛まれる。俺は、スーツケースから蚊帳を取り出して設置を始めた。
「よいしょっと」
布がついたフレームをポキポキと伸ばしていく。
「ぐぬぬ……」
しかし、体が小さいので、思ったように作業が進まない。そう、俺のコンプレックスは、背の小ささなのだ。高校2年生にもなるのに、身長が150センチしかない。おかげでどのスポーツをやってもパッとしないし、クラスの女子からは「ワンちゃん、かぁわいいっ!」なんてからかわれる。あ、ワンちゃんってのは俺のあだ名ね。犬塚だから。安直だ。
一時間ほど奮闘して、なんとか蚊帳が完成した。
「ふぅ、すっかり暗くなったな」
今日は、近くの森にあらかじめ隠しておいたドラム缶で、露天風呂でも作ろうと思っていたのに。
「さすがにあしただな」
夜の森は危ない。野生動物が動く時間だし、それに視界が悪くて崖から落ちてしまうかもしれない。
「今日は寝るか……」
俺は、リュックから軽食を取り出して、5分そこらでむさぼったのち、寝袋を広げた。蚊帳があるので、虫の心配は、まあないだろう。
寝袋に入り込み、空を見上げた。
「わぁ……!」
町のほうから少し離れているからかもしれない。屋根の穴から見える星空は、きらびやかに輝いていた。
「おやすみさんと」
ゆっくりと目を閉じる。
*
「ふぁあああああ」
朝。鳥の鳴く声で目が覚めた。そう、俺が求めていたのは、こういう────
「……ん?」
視界に、妙なものが映り込んでいた。
「え、えええええええええええっ!」
思わず、大声をあげてしまう俺。
その声に反応してか、
「──なああに? 朝ぁ? てか、かっゆ」
起きた。そいつが。
「だ、だれだよ! おまえ!」
「……え? あ、あんたこそだれよ!」
目が覚めたら、なぜか目の前に、金髪ギャルがいた。
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