表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/133

96.【見上げた空】 改

ブクマ、誤字報告ありがとうございます。


 久しぶりに食堂で飲み会が開かれる日の朝、私はいつものようにレオさんの腕の中で目覚めた。そして今朝も当たり前のようにレオさんの手は、私の肌に触れている。


 ラグマットが届けられた次の日の朝、ボタンの間から手を入れられると寝返りが出来ないからやめて欲しいと抗議したが、それは無駄な抵抗に終わった。


 その夜からは、ネグリジェの裾から手を入れて私のお腹に触れながら眠っている。当たり前のように......。


 最初は恥ずかしすぎるからやめて欲しいと言ったが「俺も我慢してる。だからユイも我慢して」と言われると何も言えなくなった。


 そしてこれが慣れてしまうと、普通のことのように感じてしまうところが恐ろしい。しかしそれ以上に恐ろしいのが、それ以上私に触れてこないことに物足りなさを感じていることだ。


 あの日からたくさんのキスとハグはしているが、あの時のようにレオさんは私を求めてはこない。お腹や背中にそっと手を当てても、あの時のように触れたりはしない。


 かといって、もどかしさを感じていることを彼に悟られたくない私は、何も感じていないように毎日を過ごしている。


 もしかして、私は自分が思っているよりやらしいのだろうか? そんな不安さえ感じてしまっている今日この頃。こんなこと、さすがにキャロルさんにさえも相談できない。


 小さく溜息を漏らせ隣で眠っているレオさんの頬にキスをすると、起きていないフリをしていた彼に抱きしめられた。


「ユイからキスするの珍しいな」

「そんなことないよ!?」

「朝されたことはない」

 ......そうだっけ?


「いつから起きてたの?」

「ユイが起きる前から」


 私と会話をしながら軽いキスを繰り返すレオさん。時計に目をやり準備をするために身体を起こした私に、彼が言った。


「明日休みだよな?」

「うん」

「楽しみだな」

「飲み会? 楽しみだね」

「そっちじゃねぇよ」


 



 ......そっちじゃないなら、なんだ?

  




 疑問符を浮かべる私を見て、ほくそ笑むレオさん。身体を起こしベッドの背に寄りかかる彼は、頭の後ろに手を回し口元だけを緩ませる。


 うん。今日は飲もう。


 私は密かにそう心に誓って、脱衣所に向かった。







 宿舎のドアを開けて外に出ると、冷たい風に身震いがした。暗い中、白い息を吐きながら身体を動かす騎士さん達と挨拶を交わすと、ノアが『待って』そう言って食堂棟の屋根の上を見上げた。


「どうしたの?」

 まだ暗い中で空を見上げても、何も見えない。

『いや、なんでもない』


 ノアは私の肩の上で怪訝そうな声で答えながら、私に早く食堂に入るように促す。いつもとは違うノアの行動を不思議に思いながらも、私は忙しい朝の準備をする為に食堂のドアを開けた。


 それから暫して、いつもより早い時間にレオさんが食堂に現れた。不思議に思い、料理の大皿を配膳台に運びながらレオさんの様子を伺っていると、入口から然程遠くない場所にいたノアが直ぐに彼の下へと飛ぶ。


 そしてレオさんが開けたドアをくぐり、一人で外に出ていくノア。驚いて駆け寄る私に「心配するな」レオさんはそう言って、私の腰を引き寄せようとした。


 不安を覚えた私は彼の腕を振り解き食堂の外に出ようとしたが、彼がそれを許さない。


「ねぇ、ノアは何処に行ったの? レオさん、教えて!」

「竜太子様なら、直ぐに戻ってくる」


 彼の言葉の通りノアは直ぐに戻ってきたが、その様子が私にはさっきとは違って見えた。いつかの怒りに満ちた瞳に似ている気がする。


「ノアどこ行ってたの?」

『ユイは気にしなくていいよ』

 一瞬で瞳がいつもの色を取り戻すノア。

「どうして、ノアもレオさんも教えてくれないの!?」


 強い言葉を投げかけた私の頭を撫で「大丈夫だ」と一言だけ答えるレオさん。「わかりました」とノアに頭を下げて食堂を出て行った彼の表情も、少し厳しいように見えた。


 私には分からないように会話を交わした二人。そしてレオさんは、そのまま朝食を食べに戻って来ることはなかった。

 一体何があったのか全然理解出来ないまま、その日の朝のお手伝いは終了した。


 


 八の刻(八時)過ぎ、食堂のスタッフ全員が朝食を取ろうと席に座り始めると、イベンツさんが「おはようございます」と声を掛けてくれた。


「どうされたんですか? 少し元気がないようですが」

「ちょっと心配なことがあって。でも大丈夫です」


 私を心配してくれた彼に笑顔を向けると「今日の飲み会楽しみですね!?」と問いかけられた。久しぶりの飲み会を楽しみにしていると言っていた事を、彼は覚えていてくれたのだろう。


「ピアノの練習は完璧ですか?」


 周りに聞こえないように、こっそりと聞いてくるイベンツさん。お皿に料理を山盛りに乗せながら笑顔で頷くと「楽しみですね」と彼も笑顔を覗かせる。


「僕も聞きに行ってもいいですか?」

「そんなに聞きたいですか?」

「ぜひ!」


 騎士さん達だけの集まりだと聞いていた私がどうしようかと悩んでいると『ユイ、早く部屋に戻ろう』とノアが急かすように思念を送って来た。ノアが私だけに思念を送って来た時と、全員に聞こえるように話した時では、声の響き方がほんの少しだけ違うのだ。


『どうして、私だけに話しかけるの?』

『帰ったら説明する』


「今日はどうかわからないけど、いつかピアノ披露しますね。あと、騎士さん達には今日のこと内緒ですよ」

「はい」 


私はイベンツさんと約束を交わすと、急いで食事を終わらせて部屋に戻った。 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ