95.【優しいキスの先】 改
ベッドに下ろされた私は、既に意識を手放す寸前。それなのにレオさんは「ユイ」......耳元、甘い声で私の名前を囁く。
「......眠いよ」
「いいよ。眠っても。ただもう少しだけ、キスしていいか?」
──── うん。
頑張って開けていた目を閉じると、レオさんの温もりと重みを感じ私は無意識に彼の首に手を回した。柔らかい唇が、閉じられた瞼に、頬に、耳に触れる。頬に微かに当たる彼の髪がくすぐったい。
「もう、ダメ。......眠るの」
「いいよ」
言葉とは裏腹に何度も優しいキスを繰り返すレオさん。首筋をなぞる様に触れる唇に、手放し掛けていた意識が呼び戻される。そして耳たぶを甘噛みされた時、思わず甘い吐息が漏れた。
「あぁっ......ぃゃっ」
聞いたことのないような自分の声に驚き彼の身体を強く押すと、目の前にある深い紫の瞳と見つめ合った。
「ダメって、言ったでしょ!?」
「寝てもいいって言っただろ!?」
──── そんなの無理だし。
唇を尖らせて抵抗すると、それをそのまま食べられた。いつもより激しいキスに、息をするのも儘ならない。そしてキスの途中で漏れる吐息が、自分の耳をくすぐって恥ずかしくなる。
彼の纏う匂いが甘さを増し、身体の芯が熱くなるのを感じて抵抗するが、そんなの彼には何の意味もなさない。熱く柔らかな舌を絡められると、もう考えることを止めたくなる。
このまま彼に身を任せてもいいのではないかと......。
「......ユイ」
耳元に唇を寄せる彼の吐息交じりの声に、身体の中がゾクゾクする。
「レオさんっ......もぅ、ぃゃっ」
なんだか涙目になる。
「キスはいいって言っただろ」
「これは違う」
「違わない。キスは唇だけにするものじゃないだろ」
......騙された。完全に言質を取られてしまった。
「もう寝ないと。明日も朝早いし」
「明日は休みだろ?」
──── バレてる。
「そんなに嫌か?」
彼の紫の瞳が真っすぐに見つめてくる。
「......」
本当は最後までするのだって嫌じゃない。だけど、どうしても彼の魔法の事を考えてしまう。
ただの意地だって分かってる。頑固すぎるって言われても仕方ない。だけど、どうしても嫌なのだ。あの魔法だけは、使われたくない。
私のおでこに唇を押し当て「ごめん」と、睫毛に影を落として謝る彼。その瞳は悲しそうで、私は胸が苦しくなってしまった。
「......じゃないよ」
「ん?」
「最後までするの......嫌じゃないよ。ただ......」
私の次の言葉を促すように、彼は私の頬にキスをする。
「どうしても......その......」
「魔法がイヤなのか?」
──── うん。
「わかった。......じゃあ、そこまではしない」
「えっ......やめないの?」
私がした質問の返事は、熱いキスで返された。
そこまでってどこまでよ?
ど、どうすればいいの?
うゎ、ちょっと待って。
ひゃぁぁぁ、くすぐったいぃぃ。
いつの間にか外された胸元のボタン。差し込まれた彼の手が、私の首から肩を撫でるように滑る。脇腹からお腹を撫でた手は、胸の膨らみの下を添うようにそっと触れる。
ま、ま、まって~!!
心臓の鼓動が激しすぎて、私は思い切りレオさんを押し離した。
「ノアがいるし、これ以上は無理」
ふっと息を吐いて笑うと「そうだな」と言ってレオさんは、今度こそ諦めてくれたようだ。しかし外されたボタンを留めようとすると、それを彼が引き留めようとした。
いやいや、このまま寝たら朝大変な事になるの。わかるでしょ?
言葉にはせず目で訴えると、渋々ボタンを嵌めてくれる彼。しかしベッドに横になり、私を後ろから抱きしめるようにすると、お腹の辺りのボタンが一つだけ外され、彼はまた私のおなかに触りながら眠りについた。
いや、これ私が眠れないんだけど......。
どうやら、どうしても私の肌に触れたまま眠りたいらしい。恥ずかしい気持ちはあるのだけれど、私の想いを汲んでくれる彼にこれ以上我慢させるのも忍びない気がして、私は仕方なくそのまま眠ることにした。
これ、毎日じゃないよね?
私のそんな不安は、的中する事となるのだ。




