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97.【向けられた矛先】 改

ブクマありがとうございます。

 顔を赤くしたまま出かけていくユイを見送ると、俺はシャワーを浴びようとベッドから立ち上がった。しかし寝間着を脱ぎ脱衣所に入ったところで、突然竜太子様の思念が送られてきた。


『どうされましたか?』

『ユイを監視している奴を見つけた。直ぐに下りて来い』


 慌てて討伐服に着替え食堂に向かうと、竜太子様が俺が来るのを入口近くで待っていた。

『ユイを頼む』


 それだけ言うと竜太子様は俺が開けた扉から勢いよく飛び出し、廊下を歩いてくる騎士の間を通り抜け外へ出た。


 竜太子様の気配が空高く昇っていくのを感じながら、その先にいる生き物の気配を探ったが、小さ過ぎてはっきりとは掴めない。

 そして、心配して彼の後を追うように外に出ようとするユイを引き留める。


「竜太子様なら、直ぐに戻ってくる」


 追った相手がどんな奴なのか分からなかったが、彼なら直ぐに戻ってくるという確信が俺にはあった。


 空高い場所で繰り広げられている空中戦。彼なら一瞬で相手を消すことも可能だろうが、今回は捕まえることを目的としているのだろう。相手を弱らせる為の攻撃を繰り返しているのを感じる。


 そしてそれから暫くして竜太子様が戻ってくる気配を感じ、俺は食堂の入口の扉を開けた。

 どこに行っていたのか。何故何も教えてくれないのかと憤るユイ。


『外にいる騎士に奴を渡した。カラスに姿を変えているが、間違いなく帝国の魔術師だろう。殺してはいない。ケリーのところへ連れて行け』


 竜太子様に返事を返すと心配そうにしているユイを残して、俺は王城の地下牢へと向かった。外にいた騎士から受け取ったカラスを手にして。


 ちなみに、魔術師と魔導師の大きな違いは、他人や人外に変化出来るか出来ないかだ。






 受け取ったカラスは騎士が着ていた上着に包まれ、人目に付かないようにされていた。


 王城の入口に立つ騎士に魔導師統括長に大至急地下牢へ来てもらえるよう伝言を頼み、俺は地下への階段を駆け下りた。薄暗く冷たい張り詰めた空気の中を進み、魔力を抑え込む魔法陣が描かれた地下牢へと入る。


 地下牢の看守をしている騎士に魔導師統括長が来られたら、直ぐにここに案内するように頼み、俺は魔法陣の上に手にしているカラスを置いた。すると魔法陣は青白い光を放ち、それと同時にカラスは竜太子様の予想通り黒ずくめの男へと一変する。


 意識を失たったままの男の服を脱がし手掛かりを探すが、これといったモノはなにもない。


 暫くするとバタバタと走って来る複数の足音が聞こえてきた。


「クラネル卿、お待たせしました。竜太子様から、説明は伺っております。その男がそうですね!?」

 俺は竜太子様が思念を飛ばせる距離を、更に伸ばしていた事に驚いた。


「気絶しているだけのようです。身体を調べたのですが、手掛かりは何も見当たりません」

「ここからは私の仕事ですね」

 魔導師統括長はそう言って男の身体に魔法を掛け、隠された印や手掛かりがないかを調べ始めた。


「どうやら魔術が掛けられているようですね。この男から聞き出せることは何もないでしょう。無理に聞き出そうとすれば、絶命するはずです。ただこの男が帝国の魔術師なのは間違いないでしょう」


 魔導師統括長は、そう言って俺の知らなかった事を教えてくれえた。


 動物に姿を変える魔術は帝国の魔術師が使う術で、帝国以外の近隣諸国では禁忌の術とされていること。そしてこの術を何度も使えば人としての理性を失い、いずれは人に戻れなくなること。


 よってこの男は帝国にとって、ただの駒に過ぎないと......。


 自国の人間をただの駒としてしか扱わない皇帝が治める国。それがこの国を脅かそうとしていることは間違いない。そしてその矛先は竜母であるユイに向けられている。


 唇を噛みしめ爪の痕が残るほど手を握りしめると、魔導師統括長が俺の名前を呼んだ。


「クラネル卿、このことはユイ様にはお伝えしますか?」

「竜太子様の意向をお伺いしたいと思っております」

静かに頷く彼の瞳が、メガネの奥でギラリと輝いた。


 今後の事を話合う為に魔導師統括長の執務室に移動することになり、男の処遇は任せることになった。


 まぁ、命尽きるのも時間の問題だろう。一思いにと思ったりもしたが、他に何か情報を聞き出せる方法はないか試したいとのこと。その辺りは専門外の俺に口出しする権利などない。


 そして執務室に到着した頃、またもや竜太子様からの思念が届いた。


『イベンツの事を調べろ』

「イベンツとはどなたですか?」


 魔導師統括長の質問に、ユイから聞いた情報を思い出しながら伝えた。

 約一ヶ月前に食堂に入った十九歳の男性の調理人。物腰が柔らかくユイとも直ぐに打ち解け、何かと仲良くしている事を。


「一ヶ月前......それから間もなくしてワイバーンの襲撃がありましたね」

「何か気になることでもあるのですか?」


『この男、少し前にユイに真名を聞いていた。そんな事を聞いた奴、今までにいない。それに、そのカラス男と同じ匂いがする』


「匂いとは?」

『何かは分からない。だけど同じ匂いなのは間違いない』

「分かりました。直ぐに調べさせます」


 魔導師統括長の言葉に返事を返すと、竜太子様は思念を切った。


 王城敷地内で勤務する為には貴族の紹介状、推薦状が必ず必要になる。それは例え王城ではない食堂棟、洗濯棟の人間でも同じだ。


 それならば、彼を推薦した貴族が帝国の手引きをしていた事になる。しかしそんな分かりやすい真似をするか疑問が残る。


「クラネル卿、今後のユイ様のご予定はどうなっていますか?」

「今日の夜、食堂で討伐部隊が婚約祝いの場を設けてくれます。彼女はただの飲み会だと思っていますが。あとは、もう少し暖かくなったら街に行く予定です」


「騎士が多くいる祝いの席は心配はないでしょうが、街に行く時が心配ですね。その時は私が同行しても?」

「是非、お願いいたします」


 少しでも早く子供達に会いに行きたいと言う彼女を説得し、街に出掛けるのはもう少し先にした。竜太子様が言うには『自分が生後半年を過ぎればもっと身体が成長し魔力も増す』のだそうだ。そうなれば、今よりも出来ることが増え、彼女をもっと守ることが出来るのだとか。


 子供達に会いに行くことをどうしても諦めない彼女を守る為に、それが今考えられる最善の方法だと思っている。しかし、それでも不安がない訳ではない。




 その日の夜七の刻半(七時半)から食堂は貸し切られ、八の刻(八時)から宴が開かれることになっている。


 ユイには内緒で進められた婚約祝い。言い出しっぺはキャロルとケントらしい。俺達二人に内緒にするのは無理があると言うことで、相談を受けたウイルが俺にだけ話を持ってきたのが数日前のこと。


 ユイは前回と同じような純粋な飲み会だと思っている。前回と同様に、早めに行って準備をしようとする彼女を引き止めるのが俺の役目。


 七の刻(七時)辺りからソワソワする彼女。

「今日は若い騎士達に準備を任せているから大丈夫だ。俺達が先に行ったら、気を使うだろ!? 俺達は八の刻(八時)に行けばいいんだ」

 俺の言葉に渋々頷くユイ。


 そんな彼女に、内緒で購入していた服を差し出した。

「なにこれ?」

「今日の為にキャロルに選んでもらった。俺には分からないからな」


「なんで今日の為に服を買うの?」

 疑問符を浮かべる彼女に、兎に角着替えてくるようにと促す。


 真っ白いワンピースは袖口と裾に繊細なレースがあしらわれており、不思議そうに俺の顔を見るユイ。


首を傾げながら脱衣所に向かう彼女に「服に合わせて化粧もしてくれるか?」と声を掛けると「そうだね。この服だとお化粧しないと負けちゃうね」彼女は納得しながら扉を閉めた。


 彼女が準備をしている間に俺も討伐服から騎士服に着替え、彼女が出てくるのを待つ。


 服に合わせ髪の毛を後ろで括り髪留めを飾り、いつもより少し華やかな化粧をして現れた彼女は「なんでレオさん騎士服着ているの?」と驚いた表情を見せた。なんと答えようかを考えてる俺に、竜太子様が助け舟を出してくれる。


『ユイ可愛いね。とっても似合うよ』

「ノア、ありがとうね」

 ......竜太子様に先を越されてしまった。こういうところが、まだまだなんだよな。


『キャロルが準備出来たって』

 竜太子様からの思念を受け取ると、俺はユイをエスコートして食堂に向かった。


 



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