87.【確かな自信】 改
クラウドさんの提案にびっくりし過ぎて、言葉が出てこない。
レオさんと同じ部屋で暮らせってこと? それとも就寝時だけ一緒に過ごせってこと? 今の言い方だと就寝中が危ないってことだよね?
毎日レオさんと一緒に寝るの? ノアも一緒に? いやいや、それはいくらなんでも......。
一人で勝手に頭を抱えていると「ユイ、一緒の部屋は嫌か?」と、隣に座るレオさんに問いかけられた。
「それって、寝る時だけってことだよね?」
「いや、騎士団統括長が言ったのは、出来るだけ一緒にいろって意味だ。俺の部屋で一緒に暮らせってこと」
「......」
一緒に暮らすとなると問題になることが、頭の中に次々と浮かんでくる。
「嫌か?」
心配顔で覗き込んでくるレオさんに「急すぎて頭の中の整理が出来ないというか、色々心配というか」素直な気持ちを伝えると「何が心配なんだ?」と問い返された。
「シャワーは向こうの部屋に戻っていいのかなぁ......とか。服はこっちに全部持ってこれないなぁ......とか。洗濯物干せないなぁ......とか。あとは......えっと」
「ユイ、この部屋に来れない言い訳考えてないか?」
あれこれ考えて混乱している私を膝の上にいるノアが見上げる。
『ユイ、クラウドが言うことが正しいと思うよ。何が心配なのか知らないけど、ユイの命より大切なことってあるの?』
それを言われると、ぐうの音も出ない。
「......わかった」
明らかに渋々と了承した私に『レオとイチャイチャ出来ない事心配してるなら、大丈夫だよ。僕は気にしない』と軽い口調で言ってくるノア。
「そんな心配してません。もしそうだとしても絶対にイ・ヤ!!」
ノアが言ってるイチャイチャがどこまでの事を言っているのかは分からないけど、普段ノアの前でも軽いキスはしているのだから、きっとそれ以上の事をいっているのだと思った。ノアの前でイチャイチャするのも嫌だけど、だからと言ってノアと離れて眠るのも嫌なのだ。
ノアと一緒にいられる時間は限られているのだから、彼との時間も大事にしたい。だから、時々レオさんの部屋に泊りに行くのが丁度よかったのにな。
「一緒の部屋で過ごしてみて、何か問題があったらその時話し合おう」
レオさんは私の不安を真剣に考え、提案してくれる。
「あっ、シャワーは戻ってとかダメだ。それこそ無防備になるだろ」
「大丈夫。いつもノアと一緒に入ってるから」
レオさんは思い切り不満そうな顔で「なんか腹立つな」ボソッと呟き、ノアはちょっとニヤリとした気がした。
それから服はクローゼットごと全部こっちに運ぶことになり、一緒にピアノも移動することが決まった。
明後日届く予定の絨毯も結局レオさんの寝室に置くことになり、業者さんに来てもらったのがレオさんの寝室だったことが幸いした。部屋の広さは充分ある。そこに問題は全くない。
あるとすれば私の気持ちだろう。私がずっとレオさんの部屋にいて、彼は落ち着けるのだろうか。私はちゃんと安らげる空間を、作ってあげられるのだろうか。
私がずっといる事で、彼を疲れさせてしまわないだろうかと不安になる。彼との距離は少しずつ縮めていけばいいと思っていた。結婚するまでの期間で、お互いの事をもっと知っていけばいいと。
婚約したとはいえ、私達はまだ知り合って三ヶ月半しかたっていない。長年付き合った恋人でも同棲や結婚して、お互いの知らなかったことが出てきて、上手くいかなくなることもあるというのに、付き合い始めて1ヶ月弱の私で大丈夫なのだろうか?
彼と一緒に過ごす時間が増えるのは、正直嬉しい。だけど今は不安の方が大きいのだ。
「ユイ、どうしても嫌なら、寝る時だけ一緒でもいいぞ」
「違う! 嫌なんじゃないの。ちょっと不安なだけで」
「不安なら俺もあるぞ。だらしない俺を知ってがっかりされないかな......とか」
だらしないレオさん? 全然想像が出来ないんだけど......。驚いて彼の顔を見ると「ユイの前では、結構カッコつけてるぞ」と彼は頭をポリポリと掻きながら苦笑いをする。
「そう、なの?」
「でも逆に、俺はどんなユイでも好きでいる自信があるけどな」
うん。それは私も自信ある。
「寝相の悪いユイも、寝癖が付いてるユイも可愛いぞ」
意地悪な笑顔を見せるレオさんに、右手パンチをお見舞いすると、その腕を掴んで引き寄せられた。
「俺達は始まったばかりだから、知らない事も多い。それに婚約も一緒に暮らすことも、急に決まったことばかりで不安だろうけど、心配するな。俺達なら絶対に大丈夫だ」
その自信はどこから来るのかと聞きたい。だけど彼にそう言われると、本当にそうなると思えるのだから不思議だ。
「うん。そうだね」
「ところで、ユイが言ってた部屋に干したい洗濯物ってなんだ?」
口角を上げてニヤリとする彼の顔は、確信を得ている顔だ。分かっていて質問しているに違いない。
「意地悪言うレオさんは嫌い」
私を抱きしめたままクツクツと笑う彼は「怒ったユイ、嫌いじゃないんだよな」と私の耳元で囁く。私の膝の上にいるノアは完全に呆れた目をして、私達を見ている。
ごめん。結局ノアにはイチャイチャしてるようにしか見えてないよね。




