19.【マルシェデート②】 改
「ユイさん、俺以外にも離れたところに護衛がいるが、絶対に俺から離れないで」
「他にも護衛の方が?」
キョロキョロと当たりを見回したが、それらしい人は見当たらない。
「まぁ、それは気にしなくていい。どこから回ろうか? 隊長から小遣いを貰ったから、遠慮しなくていいぞ」
ニヤリとして、彼はお金が入っているであろう袋を見せてくれた。
「そうですよね。私この世界のお金、持ってないんですよね。これからのこと、考えなきゃ」
「いや、今後は......まぁ、その話はいずれ出るだろう」レオさんはそう言うと、話を無理やり終わらせた。言いにくいことでもあるのかな? そう感じた私は、それ以上彼に問うことはしなかった。
西の広場に到着すると、そこにはテレビで見たことのある、ヨーロッパのマルシェそのものの風景があった。木で組まれた屋台がずらりと並び、テントの下ではたくさんの野菜や果物、お肉やお魚が売られている。日本では見たことのない、色とりどりの食材も多く、手作りのアクセサリーなんかもある。
向かい合った屋台の間の通路はさほど広くなく、人にぶつからずに歩くのは難しいほど賑わっている。兎に角、ワクワクする気持ちが抑えられない。
初めて見る野菜を手に取ると、お店の人に話しかけられた。どうやって食べるのかと聞くと、機関銃のように一気に話され苦笑いしてしまった。隣のお店にも立ち寄り、気になる商品を手に取り話を聞く。そして隣も......。
あれ、レオさんは?
思い出したように振り向くと、彼が苦笑いをして私を見ていた。
「あっ......ごめんなさい」
「離れるなと言ったよな!?」
優しい口調で、諭すように告げるレオさん。
「言いましたね。確か......」
安全な日本で育ったせいで、危機意識が低いのだろうと、私は自分の行動を日本のせいにすることにした。すると突然レオさんに手を繋がれ「次離れたら宿舎に帰るぞ」と脅されてしまった。手を繋ぐという、見た目的には恋人同士にも見える『完全なる拘束』
迷惑を掛けて、本当に申し訳ない。
シュンとした私を見て「帰ると言うのは嘘だ。ただ本当に離れないでくれ」と心配そうな顔でレオさんに言われた。自分が思っている以上に私は『狙われる存在』なのだと、この時の彼の表情を見て実感した。だからこそ、複数での警護なのだろう。
「気を付けます」
私の言葉を聞き、レオさんは私の頭をポンと軽く叩き、手を繋いだまま歩きだした。
何、今の表情。私が勘違いしたらどうすんのよ。彼の甘さを感じさせる笑みに、私は思わずドキッとしてしまった。
暫く色々なお店を見て回り、少し疲れたタイミングで彼が「何か飲むか?」と聞いてきた。
「おすすめはある?」
「ルフィナ茶のミルク入りなんてどうだ?」
ミルクティーみたいな感じかな?
「じゃあ、それ飲んでみたい」
私がそう言うと、レオさんが少し幅のある銀色で黒い石がついた、飾り掘りの指輪を私に差し出してきた。なに? 思わず首を傾げた。
「魔導師統括長から預かってきた。解毒の指輪だ」
「解毒?」
「外で口にするものは安心できないから、念の為らしい」
彼は私の右手を取ると、人差し指に指輪を嵌めてくれた。少し大きいサイズに見えた指輪は、一瞬光ったかと思うと、シュッと小さくなり私の指にピッタリと嵌った。
「わぁ(魔法って)凄い!」
「これで安心して何でも食べれる」彼はそう言うと、また歩きだした。
彼と手を繋いだまま、ルフィナ茶が売られているという屋台に向かう途中、私の事をジッと見つめてくる女性がいることに気が付いた。はっきりと感じる敵意の篭った目。
咄嗟にレオさんの顔を見上げると、彼もそれに気が付いているようだった。繋ないだ手に、力を込めたレオさん。そしてそのまま何事もないような顔をして、彼女の前を二人で黙って通り過ぎた。
目的のルフィナ茶の屋台に着くと、暖かいものと冷たいものが選べると言われ、冷たい方を選び陶器のグラスを両手で受け取った。中に入っているのはもちろん、ミルク入の冷たいルフィナ茶。
近くにある噴水の淵に腰を下ろし、コクリと一口飲んでみた。お茶の香ばしい香りが鼻を抜け、ミルクの甘味が乾いた喉を潤してくれた。宿舎で飲んだ暖かいルフィナ茶より、冷たい方が甘味も香りも強く感じる。
「美味しい。ミルク入の方が私好きかも。それに氷が入ってる訳じゃないのに、冷たいのはなんでだろ?」
「店主の髪が青かったから、氷魔法を使って冷やしてあるんだろうな」
「魔法って、そんな風にも使うのね。戦いにしか使わないのかと思ってた」
「一般庶民にも、魔力がそこそこある人間はいるんだ。そういう人は生活の中でも使うよ」
魔法って本当に便利。私の魔力も魔法に使えれば良かったのにな。
「屋台で食べたいものとかあったか?」
「お昼ごはん?」
「どうせなら、屋台で買って広場で食べないか?」
「いいですね」
今まで見た屋台の料理を思い出し、何を食べようかと考えていると、先程見かけた女性が私達に近づいてくるのが見えた。庇うように、私の前に立つレオさん。
「クラネル様、ごきげんよう。そんな嫌そうなお顔、なさらなくてもいいじゃありませんか!?」
さっきまで私達が飲んでいたのと同じ、ルフィナ茶が入ったグラスを手にしている彼女。嫌な予感しかしない。
「何か用か」
低く冷たい声、明らかに毛嫌いしている様子の彼。
「何度お手紙を出しても返事が頂けないので、声を掛けさせていただきました。たくさんのご令嬢からの縁談も、全て断っているとお聞きしましたが、その方が理由ですか?」
「お前に答える義理はない」
「相変わらず冷たいんですね」
「今、恋人とデート中なんだ。これで失礼する」
「レオさん?」
今、恋人って言いました?
驚いて顔を上げると、今まで見たことのない冷たい目で、彼が彼女を見下ろしていた。
「行こう、ユイさん」
私に向ける表情も、いつもと違い完全な作り笑いだ。
「指輪だけでも許せないのに、クラネル様を名前で呼ぶなんて!!」
彼女はそう叫ぶとレオさんに体当たりをし、私に向けて手にしていたルフィナ茶をぶちまけた。
「冷たい!」
思わず声に出してしまった。
「ユイさん!?......お前なんてことを!」
彼女に向いて、怒りを表すレオさん。そして彼女が手にしていた陶器のグラスが、地面に落ちて砕け散る。
「レオさん、私なら大丈夫です。熱い方じゃなくてよかった」
うん。こうなる予感してたし。
彼女の腕を強く掴んでいる彼の手をそっと外すと、なんでもないと言うように私は笑った。彼は慌ててポケットからハンカチを出し、私の顔に掛かっている滴を拭くと、着ている薄水色のシャツを脱いで私の肩に掛けてくれた。
「なんでこんな女に」
恨めし気に睨みつけてくる彼女を私は無視して「ありがとう」と、もう一度レオさんに微笑みかけた。理由はわからないけれど、今は彼の恋人を演じることが、正解のような気がした。
そうこうしていると、近くにいたであろう護衛の人が彼女を取り囲んだ。
「待ってレオさん。私なら本当に大丈夫だから」
「ユイさん、そういう訳にはいかない」
「このことは見なかったことにしてください。どうかお願いします」
私は護衛の騎士さんに向いて、深々と頭を下げてお願いをした。
「副隊長、俺達はどうすれば......」
「ユイさん、なんで!?」
「彼女ももうこんなことしないと思うし、怪我したわけじゃないから。あなたももう、彼に近づかないと約束してね。次はきっと許されないから」
レオさんの部下の人に囲まれ、青ざめている彼女にそう告げると、私は彼の手を引いてその場を離れた。
私の拙いお話に評価やブクマしてくださる方がいて、本当にありがたいです。
少しでも成長していけるようがんばります。
どうぞこれからもよろしくお願いいたしま。




