18.【マルシェデート①】 改
この世界に来て5日目の朝、私はレオさんと街へ出掛ける準備をしていた。
服って騎士服がいいのかな? 出来れば竜母だって気付かれたくないな。鏡の前、とりあえず騎士服を着てみたものの、ワンピースとどちらを着るのか思案する。
そこへ部屋の扉をノックする音が聞こえた。了承の返事を確認して入ってきたのは、もちろんレオさん。
「ユイさん、おはよう。準備はいい?」
「おはようございます、レオさん。あのね、街では竜母だと気付かれたくないんだけど、騎士服の方がいいの?」
「うん......そうだな」彼は顎に手を当てると、少し考え込んだ。
「俺が騎士服だと護衛だと思われるから、私服の方がいいかもしれないな。宮廷騎士団に女性は五名しかいないんだ。四名は近衛隊と王城警備隊で、街で見かけることはまずない。残りの一人はキャロルだ。つまりユイさんが騎士服で出歩くと、街では目立つ。
そして魔物討伐部隊の俺が、騎士服で女性を警護すれば余計に目立つ。まず魔物討伐部隊の俺が、警護すること自体が珍しいことなんだ」
「そうなると隣にいる私は誰だ? って事になるんですね」
「そういうこと。ユイさんも俺も私服で出かけるのが、竜母様だと気付かれない一番の方法かな。念の為、隊長の了承を得てくるよ」
そう言って、レオさんは部屋を出ていった。
私はキャロルさんに貰ったワンピースに着替え、それに合わせて髪をハーフアップにしてみた。
デート行くみたい? ちょっとドキドキしてるかも。
しかし、私服に着替えたレオさんを見て、私の胸のドキドキが一瞬で消え去った。グレーのズボンに白Tシャツ、その上に薄水色のシャツを羽織っているだけのシンプルな服装なのに、イケメンが着るとこの破壊力なのか。
私、この人の隣を歩く自信ないかも。
自分が決して、美人と言われる人間ではないのは自覚している。そんな私が彼の隣を歩いていいのだろうかと、さっきまでのドキドキは、どこかに消えていった。
そんな私の気持ちを、知ってか知らずかレオさんは「その髪型かわいいね」と深い紫の瞳を細めて微笑んでくれた。
「ありがとう。レオさんもカッコ......」
私は言いかけた言葉を、飲み込んだ。
「どうした?」
「レオさん、見た目の事を言われるの嫌いって......」
「キャロルが言ったのか。......ユイさんに言われるのは嫌じゃない」
「......なぜ?」
レオさんは私の問いかけに答えることなく、口元を少し緩めて笑うと、そのまま廊下へと歩きだした。
宿舎を出ると、そこで待っていてくれたのはクレイ。
「クレイに乗って街に行くの?」
「街にある王室専用の馬場がある。そこまではクレイで行こう」
「クレイ、今日もよろしくね」
クレイの首を撫でていると、後ろからレオさんを呼び止める男性の声が聞こえた。
「レオ、出掛けるのか?」
「ユイ様に街を案内してくる」
「竜母様、はじめまして。騎士団第三部隊所属のウイル・グランデと申します。レオとは同期で、俺は親友だと思ってます」
「悪友の間違いだろ!」
口では悪態をついているが、レオさんも満更ではないようだ。
「はじめまして、ユイと申します。出来れば、ユイとお呼びください」
「では、私のこともウイルと」
ウイルさんは、レオさんより少し背の低い男性で、黄色に近いオレンジ色の髪をしている。
ウイルさんと挨拶を交わすと「じゃあユイさん、そろそろ行こう」と言って、レオさんは馬に飛び乗り私に手を差し出した。レオさんの両手を掴むと軽々と引き上げられ、指定席になりつつある彼の前に横座りになった。
「今からデートに行くみたいだな」
揶揄い気味にウイルさんがそう言うと「いいだろ?」と、彼も冗談で返した。
「お前......ホントにレオか? 俺の知ってるレオじゃない」と、なぜかウイルさんが困惑している。
普段のレオさんと違うってなんだろ?
不思議に思い彼の顔を見上げると「じゃあ、行こうか」と柔らかな笑顔を向けられた。レオさん、なんか今日いつにも増して、色気だしてませか!? 私耐えられるかな?
イケメンの笑顔は近くで見るものじゃないな、と思っていると「こんなのレオじゃな~い」という、ウイルさんの叫び声が聞こえてきた。
「いつものレオさんて、どんななんですか?」
私の質問は、レオさんの笑顔によってないものにされ、答えては貰えなかった。
街の王室専用馬場まで、ゆっくりとしたペースでクレイが歩みを進める。レオさんの右手は定位置のように、私の腰に添えられている。流石に恥ずかしさはなくなったが、気まずさがなくなったわけではない。
王城の裏門を出て、街までの石畳の坂道をゆっくりと下る。すれ違う人が時々、レオさんに頭を下げて挨拶をしている事に気が付き、彼の顔を見上げた。
「レオさん知り合いが多いんですね」
「いや、知り合いではない。二十五歳で魔物討伐部隊の副隊長に任命されたせいで、ちょっと顔が知られてるだけだ」
「私服でも気付かれるってことは、有名人?」
「そこまでじゃない」
周りを警戒している様子の彼は、深い紫の瞳だけをこちらに向けて答えた。副隊長なのもあるけど、これだけのイケメンなら有名でも不思議じゃないよね。
すれ違う女性の中には、明らかな敵意を持って私を見ている人もいる。きっと勘違いさせてしまったのだろうと、私は彼女達に対して申し訳ない気持ちになった。
私が言った我儘のせいで、どうやら彼に迷惑をかけてしまったようだ。
王室専用の馬場に到着すると、厩務員さんが急いで駆け寄ってくる。
「クラネル卿、今日は私的なお出かけですか?」そう言って、彼は私にちらりと視線を向けた。
私なんかが、めっそうもございません。
「いや、護衛だ。事情があって、街では任務中だとは気付かれたくない」
「も、もしかして、この方は竜母様ですか? 失礼いたしました」
彼は慌てて頭を深く下げ、謝罪の言葉を口にしてきた。
「気にしないでください。護衛だと気付かれないように、私がお願いした事なので」
私は笑顔でそう告げると、レオさんと一緒にマルシェの開かれている西側の広場へと向かった。
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