雷鎚ノ焔
「放てぇーーー!!!!」
射線にとらえた立花道雪隊の先駆けを弓にて迎撃するは島津歳久。
この時代の和弓の射程は火縄を遥かに凌ぐものであり、遠距離での戦いでは無類の強さを発揮していた。
しかし相手は飛び道具対策を施した騎馬隊である。
普段の戦であれば効果的な馬への攻撃。
今回ばかりは倒れる者がいるとはいえ、馬鎧によって威力が半減している現状であった。
津波のように押し寄せる大友軍。グリップに手をかける九重鉄山隊と島津又七郎隊は徐々に敵をとらえ始めていた。
敵の先駆け大半を射程に収めたこの二隊は鉄山の号令の下、一斉に火を吹き出した。
波状に降り注ぐ鉛玉は敵の鎧をやすやすと貫通し、致命傷となることが期待された。
しかし結果はそうはいかなかった。
前回の戦の死因を検証した鉄山と日新斎は驚くべき事実を知ることとなった。
なんと国産の火縄はまだ歴史が浅く、鉛玉を打ち出す機構こそ模倣できたものの西洋のマスケット銃ほどの威力が出せていなかったのだ。
つまり敵は馬を撃ち抜かれ落馬し、甲冑にて鉛玉を防ぐものの隙間等の脆弱部から侵入を許してしまったことで絶命したのである。
馬を鎧で覆った大友軍は数名こそ脱落者が出るものの、その凄まじい闘気を保ったまま矢の如き速度で迫り来る。
このままでは前線の鉄砲弓隊が騎馬隊によって蹴散らされてしまうだろう。
そう判断した島津軍は近距離兵科を以て迎えうつ構えをとった。
中央の鉄砲隊が下がり、生じた空間より龍造寺隆信隊と伊東義祐隊総勢一万が蹄鉄を打ち鳴らしながら大友軍へと攻めかかった。
二人とも数ヶ月前まではそれぞれの家の当主であったため、幾度幾星霜の戦を経て強靭な統率力を発揮している。
鉄砲で削られたとはいえ不知火によって強化された立花道雪隊の兵を薙ぎ倒し薙ぎ倒し、ついに立花道雪まで100m程の所まで斬り込むことに成功していた。
「我が勢力、そして散っていった息子たちの無念!!貴様の首をせめてもの手向けとして晴らさせて貰おう!!!!」
怒りをその目に滾らせる龍造寺隆信は、食い縛った歯から血を滲ませながら立花道雪の元へ進む。
「龍造寺隆信か」
対照的に落ち着き、静謐の表情をみせる彼は馬上にて一歩も動かぬ姿勢をとっている。
「お前の裏切りを確信にまで持っていけなかった。」
「判断を誤り、多くの兵を失った。」
「俺はなんて未熟で矮小であったのか」
空を向き、眼を閉じながら過去を自戒する立花道雪は戦場には似つかわしくない穏やかな空間を形成する。
「龍造寺殿!!突出し過ぎですぞ!!!」
当初の作戦より更に中枢へと進行する龍造寺隆信に伊東義祐が警告を飛ばす。しかし彼は止まらない。憎しみに囚われた彼の五感は息子の仇へ全て注がれていた。残りは50m程である。
「今思えば俺は生を受けてより初めて負けたのだ。本当に最近は様々なことがあった。」
「お前の息子にはすまなかったな。」
「だが」
立花道雪は炎を纏った雷切を上段に構える。
「戦にて散るのは武士の本懐」
「貴様とて我が同胞を多く屠っただろう」
握りが強くなる度に頭上の不知火は大きく、強く輝いた。
ついに龍造寺隆信は立花道雪へとたどり着き、その槍の先端はすぐそこまで迫る。
「立花よ!!覚悟しろ!!!!」
槍先をその胸に突き立てようとしたまさにその時。
龍造寺隆信は立花道雪が刀を振り下ろし終わっていたことに気がつく。これが彼の見た最後の光景となった。
無音にて高速で振り下ろされた雷切は一切の音をたてなかった。
しかしその数瞬後、炎が雷鳴を宿して天から地へとを斜めに切り伏せた。
否、切るという生易しい表現では到底表せない爆雷。
刃紋より放たれた一筋の雷光は、一直線に向かってきた龍造寺隆信を彼の部隊の一部諸とも炭へと変えてしまった。
轟く雷鳴の後に吹き上がる炎はまるで喜び勇むように一瞬で薙ぎ払い躍り狂う。
その攻撃範囲は直線に伸びる黒い道を残していた。




