触れる切っ先
陣鐘と法螺貝がまばらに聞こえる。どうやら進軍を開始したようだ。
前回とは違い戦力を隠す必要がなくなった島津軍は、その大兵力を平原の西に集結させていた。
以て率いる総大将は島津家第十五代当主島津貴久、足軽兵力一万。
前当主であり勢力全体における知識の牙城。島津日新斎、足軽兵力八千。
次代の当主であり統率智謀を併せ持つ稀代の名将。長男島津義久、騎馬兵力九千。
《島津に鬼在り》と近隣はおろか日ノ本全土にその武勇を知らしめるは次男島津義弘、鉄砲兵力一万千。
理知にたけ、起こりうる可能性を吟味する三男島津歳久、弓兵力七千。
未だ元服を待つ身なれどその才は歴戦の将にも劣ることはない。四男坊島津又七郎、鉄砲兵力五千。
龍造寺家当主にして大友に一度屈した肥前の熊。龍造寺隆信、騎馬兵力五千。
伊東家当主にして幾度にわたり大友の進行を阻んできた猛将。伊東義祐、騎馬兵力五千。
そして最後に島津家に彗星の如く現れ、革新的な戦術を以て負け戦をひっくり返してみせた風雲児。九重鉄山、鉄砲兵力一万。
本城の位置する西には最低限。文字通り島津の全戦力を東の、この一戦に注ぐのだ。敵は強大、然れど皆の目には闘志の光が宿っている。一兵の先に至るまで敵を畏れているものは居なかった。
我らは強い。
我らはこのために稽古を積んだ。
苦しい想いをしたのは愛する家族を、家を、友を、そして島津を守るためである。
磨き上げたこの刃は妖の喉元に斬り込むには充分なモノとなるまで昇華させた。
あとは示すだけである。
我らの勝利を。
闘志をはらみ、然れど静寂を貫く島津軍は、抜きつける前の居合刀を想わせる迫力に満ちている。
対して雄大に一歩また一歩と迫り来る大友軍はまるで巨大な獣。
陣太鼓を規則的に掻き鳴らし、ゆっくりと、しかし確実に迫り来る。
動の大友を待ち受けるは静の島津。
時刻は巳の頃。震わせる大気は肝付戦のそれとは比べ物にならない程となり、互いに一層の緊張が走る。
両者はその距離を次第に狭め、九州分け目の大決戦が始まろうとしていた。




