鉄砲隊の対策
先日、大友軍総勢約五万五千が我が領内に向かって出陣したとの報を受けた。
前回の敗戦より息を吹き返した大友軍は一斉に前回と同様のルートで旧伊東領内へと進攻した。
僅か一ヶ月で中国、四国方面に配置していた精鋭をすべて今作戦に動員し、再編成を完了したようだ。
此度の戦は決して大きい方が小さい方を併合するという作業的な意味合いを含んだものではない。
領土という縄張りを巡って南北九州に君臨する両雄の生存をかけた争いであった。
「敵方の行軍は統制が行き届いており、前回の毎晩行われていた酒盛りとはうってかわって厳粛なものとなっています」
襖の外より揺らぐ人影は淡々と報告を続ける。
湿気を帯びた夏風は優しく風鈴を奏で、熱帯夜には似つかわしくないに涼しげな空間を醸し出していた。
「陣容は当初の報告と差異はありませんが、特筆すべきは立花道雪直轄の騎馬隊一万三千でしょう。ここまで大友軍の先頭に立ってきた歴戦の兵達であり、妖の力と共に戦うことに慣れているとのことです」
さらさらと流れる小川の音は時折打ち付ける鹿威しの反響をより際立たせる。
「さらに隊の殆どの騎馬には馬鎧が施されており、こちらの鉄砲を対策してきた形であると推察されます。そこに立花道雪の突破力が加わってしまえばおそらく此方の防備は容易に・・・・・・・」
「三郎。報告ご苦労であった。下がれ」
「はっ」
薄らいでゆく襖の影を背に九重鉄山は先日佐土原城に入城した島津家の次男である義弘と酒を酌み交わしていた。
「ついに奴らが本腰を入れてここに攻め寄せて来ているようだな」
口をへの字に曲げる義弘は更に杯を乾かした。
「鉄山。現在この佐土原には七万の兵が防備を固めている。だが内城の北には近くとは言えんがそう遠くない位置まで前線が来てしまっていることはお前もよくわかっているだろうな。」
眉間に皺を寄せる義弘は鋭い目付けで鉄山を睨みつける。
言いたいことはよく分かる。
大軍勢で佐土原に進軍してきたとはいえ仮に敵に余剰戦力が残されていた場合。
内城、佐土原の同時攻撃が開始されたその時には少ない兵力しか残っていない島津家の本城はたちまち落とされてしまうだろう。
だが戦力の規模を見る限り十中八九これが大友の全力であろう。
「もちろんわかっている。敵は前回の戦を鑑み、策を練った上で来ていることだろう。広く分散攻略を行うというよりは手堅く一戦を取りにくる可能性が高い。」
ムスッとしている義弘は理解しているものの納得できないといった様子だった。
「そう怪訝な顔をするな、義弘。お前にも今回は大いに暴れて貰うつもりだ。鉄砲の扱いは十分なのだろう?」
「無論だ。立花道雪など我が隊の敵ではないわ。その胸元に風穴を開けてやろうぞ」
奮い立つ義弘はどぶろくを飲み干すとづかづかと部屋をあとにした。
数と兵装こそ勝っているものの単純な戦力では向こうが優位だろう。
このまま戦えば我らが勝利する確率は低い。
だが、前回又七郎の歩兵鉄砲部隊を見てあるひとつの火縄銃隊のあり方を思いついたのだ。
もちろん形にするには時間がかかるだろう。
しかし戦の鬼、島津義弘の才覚をもってすればいきなり部隊での運用ですらも現実味を帯びてくる。
頼むぞ、鬼島津よ。




