間近に迫る決戦
「ダンナァ!馬防柵と土塁の工事が終わったって連絡が入ったよ!」
でかした!これで我が方の準備は全て整った事になる。
急拵え故に所々欠陥工事も見受けられるもののあの少ない人数でよくやったと考えるべきであろう。
鉄山の計略が功を奏したのかあれより約3日が過ぎようとしていた。
敵の動きは忍びや龍造寺隆信からの密書より報告されていたが、何度も議決が急戦に傾いたことか。
その度に未だこちらの行動に疑念をもっている立花道雪と島津家のスパイである龍造寺隆信がもう少し出方を見た方が善いと異議を唱えることでこの時間を稼ぐことができたのだ。
奇しくも大友家に最も忠義を尽くしている将とそうでない将が同じ意見となったことは面白くもあり、そういう事も重々に起こりうるこの戦国の世は奇妙なものであろうか。
「鉄山様、敵方に出陣の機があるとの報が入りましたぜ。前線後方の隠匿部隊はいつでも出られる状態です」
遂に来るか。タイミングとしては上々である。
そして今回の策略の目玉商品であるわが隊は敵の視認範囲外に布陣させており、三郎率いる薩摩忍者集は彼らの存在の隠蔽に全力を注いできた。
戦で肝要な物は戦力の天秤である。
楽に勝てるとたかを括った軍の士気は緊張感の無さにより自ずと低くなるものである。
全力を出そうが出すまいが勝利が目前に転がっているために、どうしても軍の隅々までに張りつめるというわけにはいかないのであろう。
獅子搏兎。
如何なる時であろうともそれが戦であるならば全霊をもって叩き潰すことが善い未来を引き寄せるものだ。
敵は蹂躙するように攻め寄せて来るだろう。
これ迄踏み潰してきた戦敵と同じように。
そして我が戦域へとたどり着くだろう。
そこで敵は目測よりも遥かに多くの戦力を確認することとなる。
大友視点で考えると、敵の兵力について情報の錯誤があった場合にはそのまま攻め込むのは危険であるため暫くはにらみ合いが続くことになるのは容易に想像できる。
そうなった場合不利になるのは戦力で劣っている島津である。
大友は時をおいて更に戦力を補充し、充分に我らを呑み込めるようになってから進軍を開始するだろう。
せっかくの工事を含めた入念な準備も相手に対策する時間を与えてしまえばなんの意味も為さない。
そこで鉄山は一つの計略を実行している。
上手くいく保証は無いものの武士の矜持、尊厳を利用したものであり猛将である彼ならば必ずやってのけると信じているのだ。
我らの今回の戦の目的。
それは大友に進軍する勢いのままに突っ込んできて頂き、手痛い損害を被ってもらうことで現状の戦力差を互角、或いは島津有利にひっくり返してやることである。
決戦の時は近い。
虚空を見つめる眼は戦を待ち望んでいるようだった。




