古今よりの策謀
「時を稼ぐ」
太助、弥吉、三郎を前に島津家防衛の要である九重鉄山は言いはなった。
「でもよぉ、ダンナ。もう大友の奴らこっちにむかって来ちまってるだろう?」
「そうですぜ鉄山様。これから時間を稼ぐったって楽じゃねぇですよ」
答える弥吉、太助は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
前回の肝付戦は相手に妖の力こそあったが総兵力、国力では此方が上回っていた。
しかし今回は相手が兵力、武装で勝っているにも関わらずより高位の妖怪を従える難敵であり、その大軍勢が友軍を文字通り押し潰しながら島津家の本城へとむかってきている。
恐らく心の奥底で我らの敗北を悟ってしまっているのかもしれない。
「現在薩摩にて火縄の量産が始まったことは聞き及んでおるな」
皆は頷いているものの目に光のあるものは少ない。
「大量生産が可能となっている訳ではないがそれでも約一万丁は目処が立っており、先日整備した街道を通って荷馬車隊がここ佐土原城へと向かっている」
「そりゃマズいだろダンナ!西の相良家が攻め込まれてるってのに!守りを厚くするなら内城の北部じゃないのか?」
「弥吉、鉄山様はいつも考えがあって策を練ってらっしゃるだろう。俺らはそれを信じて進むだけだぜ。そうだろ?」
「だがよ、わざわざ敵の進路を手薄にしてやるなんて・・・・」
先日の龍造寺隆信の偽文章の真偽を確かめるべく何度も大友の忍びがこの佐土原を訪れている。
その度に大兵力を西へと輸送する格好だけとり、実際はぐるりと城を大きく周って行軍し、忍びが去った後に入城させている。
それからはこちらが敵の忍びの存在に初めて勘づいたという体を見せつけることで再度の侵入を防ぎ、佐土原城の最新情報を攻めやすい城という印象に釘付けとする。
この策を成功させるには敵の忍びに対して薩摩忍者衆が大きく諜報力で勝っている必要があり、三郎率いる我が乱砕は充分にその任をこなしてくれている。
その実力を示し忍頭まで登り詰めた三郎はこれからも大いに活躍してくれることだろう。
前線の義弘もじりじりと撤退を重ねているもののその見事な指揮采配によって未だ兵の消耗は軽微であるという情報も入ってきている。
敵の戦い方も逐次報告されてきており帝級である妖の戦力は非常に高いと言わざるを得ない。
今頃俺の案をしたためた書状を殿がご覧になっているだろう。
相良家の本城が陥落した後は大友家は島津家の本城である内城のすぐ北にまで進出したことになる。
ここで我らのとるべき手は直ぐ様前線を国境迄下げ、内城の防備を整えることである。
通常はな。
決して俺は博打を打っている訳ではない。
打てる手は全て打ち敵の参謀を巧みに、無理なく、ごく自然に描かれる我らにとって優位なシナリオへと誘導してゆくのだ。
謀略というものは現代であろうと戦国においても人の世とは切っても切り離せないものである。




