戦線の厚薄
「戦況はどうなっておるか?」
「現在相良家国境を突破し、櫓などの防衛設備に多少手間取ってはいるものの遅延は想定内かと思われます」
「ふふっ、そうか。予定通り進軍せよ」
豊後国(大分県辺り)に本城である府内館を構える大友宗麟は南蛮より輸入した葡萄酒をあおりながら上機嫌に話す。
「此方は兵力で勝っており天下無双の立花道雪殿もおりまする。万に一つも負けは無いでしょう」
機嫌をとるように有馬家元当主である有馬晴純が答える。
領地を奪われ家を滅ぼされた割にはある程度の忠誠心を見せている。
無論これは大友家が現在天下に最も近しい勢力でありこのままついてゆけば甘い汁が吸えるだろうという思惑がある。
また少しでも主家が危うくなった場合は戦乱の世に習い下剋上の隙をも伺うこともできるだろう。
「そうかそうか、やはりそう思うか!」
頬を紅潮させ深々と南蛮椅子に揺られるこの男は己が才を疑おうともしない。
「ほれ、隆信。お主はどう思うかの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
元龍造寺家当主である龍造寺隆信は腕を組み目を閉じて静かに胡座をかいている。
(隆信殿!殿がお尋ねになっていますぞ)
有馬晴純が小声で諭す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬ほど眉間にしわがより、般若のような形相を呈した龍造寺隆信の顔面は直ぐ様穏やかなものへとかわり柔らかな物腰でこう呟いた。
「この戦は 我ら の勝ちとなりそうですな。万事巧くゆくでしょう」
「うむうむ。お主の言うとおりであろうな」
いくら後方であるとはいえ戦争の最中に深酒をする当主は配下の反旗の兆候を悟ることなどできはしなかった。
「ところで、殿。お耳に入れたい事がございます」
「先日島津へと間者を送り込みまして敵の今後の作戦指針を盗み来させた次第でございます」
「本当か隆信!どれ、はよう教えんか!」
「内容は以下の通りでございます」
・西部戦線の劣勢を打破すべく、また本城の守りを強固とするために島津家は兵の殆どを西側へと輸送している
・それに伴い東部は最低限の防備以外はがら空きである
・一点集中した戦力でもって大規模西部反抗作戦を立案中である
・そしてその作戦は兵員輸送の際の劣悪な街道により暫くは実行に移すことはかなわないと思われる
勿論これは龍造寺隆信が島津家を裏切った訳ではない。
あらかじめ示し合わせた偽物の内容で敵の情報を撹乱するためのものであった。
もちろん鉄山の謀計である。
「そ、それは本当か」
「確認しましたところ、ほぼ確実かと」
「ううむ、、島津兵は精強だ。大兵力の攻勢が始まれば勝ちはすれども此方の損害が心配だな」
「うむむ、よし。相良を滅ぼした後、戦力を東部へと移動せよ。大規模な配置転換が予想されるが決して悟られるなよ。こちらの整備された輸送路を使い敏速にすませるのじゃ。奴等の反撃が始まる前に旧伊東家領へと進行する。急がば廻れ、じゃな」
その後軍議の結果を書状で確認した鉄山は静かにほくそえんでいた。




