戦後処理と初めての宴
合戦は島津の大勝利で終結した。
妖怪であるとはいえ当主を失った肝付家には最早闘うだけの気力は残されておらず、すぐに無条件降伏に応じた。
肝付家臣団も多少反発がみられたものの内部で話し合い、併合という形を受け入れてくれたようだ。
何はともあれこれで島津家は薩摩、大隅(鹿児島県全部くらい)の二か国を治めることとなったわけだ。
徴兵数、金銭収支、兵糧の収穫ともに単純計算でこれまでの二倍。
これは全国統一にむけた大きな一歩となるだろう。
だが俺にはやることがある。
今回の戦で俺はおそらく家のなかで誰よりも功績をあげた。
敵兵の七割程を戦闘不能にし、城門を守り通した。
これは鉄砲隊の有用性によるものである。
従来の戦略を覆す革新的な技術をもって、勝利を掴みとったのだ。
そこでこれから殿に、鉄砲隊の軍備増強のために国家予算レベルの富を使用する許可を貰いにいくのである。
まぁ反対するものはおらぬだろうがな。
鉄砲はこの時代は非常に値が張るものであり、通常であればそんなにホイホイとは購入できない。
だが島津家は金山を所有する比較的裕福な大名であり。旧肝付家の市場もある。
賢明な殿は有用な新戦術を蔑ろにすることはないだろう。
「謁見をお許し頂き誠に嬉しく思っております」
「何を遠慮することがある!お主にはあの強大な肝付兵を画期的な方法で撃退した褒美を与えねばならんからなぁ。可能な限り叶えようと思っておる。何なりと申してみよ」
頬を赤らめ朗らかに貴久は語った。
島津貴久は少し酔っているようだ。
宴はこの後であるというのに、先取りして呑んでいるのだろう。
「ははっ、ありがたき幸せにございます。ではーーーーー」
「私にまずは五千の兵と同数の鉄砲を頂きたくお願い申し上げます」
赤く緩みきっていた貴久の顔がみるみる平時のそれへと戻ってゆく。
やはり名門島津家の大名を務めるだけはある。
この話題の重要性を瞬時に理解し、酒を醒ますまでとなったようだ。無理もない。
「お主は鉄砲の価値をわかっておるのか?この前は義弘の案で火縄を千五百ほど外国の商船から買いそろえたが、あれは一年間六千の兵を賄える兵糧と同等のものであった。それが五千だ。小さな町が一つかえてしまうだろうな」
当然の反応だ。
鉄砲の優位性は確かに示した。
これからの戦に不可欠なものとなることは殿も充分にわかっていることだろう。
だからといって国を傾ける程の財産を直ぐ様なげうつのは瞬時に決断を下せる事柄ではない。
しかし俺には考えがある。
初期投資は確かにそれなりに金額がかかるだろう。
だがうまくすれば将来数万丁の火縄をてに入れられるかもしれぬ。
「殿。南蛮商船はいわば独占の市場。いうなれば外国人たちは利益の追及が目的なのです」
「そうだろうな。彼らは商人だ。何も我が勢力に加担するために荒波を越えて来た訳ではあるまい。実際の相場はわからぬが、本国の数倍~数十倍の価格と考えるのが妥当だろう」
「その通りでございます。このまま鉄砲隊の規模を拡大して行けば財政破綻は免れますまい」
「うむ。そのためには鉄砲隊はある程度増やすつもりであるがこれからも主力は騎馬と足軽でーーーーー」
「作ってしまいましょう」
「いまなんと申した?」
「火縄を島津家で独自につくってみてはいかがでしょうか」
「・・・作れるのか?」
「それは解りません。しかし鉄製品の質を見る限りこの薩摩の国には優秀な鍛冶屋が多いようでございます。試しに彼らを一度に召集し、百丁ほど分解させてみてはいかがでしょうか」
「百丁でも大きな損害になる・・・・・だが仮に我が勢力で量産が可能となれば・・・・・」
「仰る通りにございます。仕組みが解ればあとは型にはめて増やすだけです。その暁には島津家は数万、数十万の鉄砲隊で構成された最も先進的で最強の勢力となるでしょう」
「・・・・・・・・・・・考えておこう。」
そう言った貴久の口元は僅かに微笑んでいた。
「父上ぇ!鉄山ん!宴はとっくに始まってしまいましたぞぉ!」
扉を破壊しながらふらついた義弘が入室してきた。
大分酔いが回っているようだ。
顔は真っ赤であり、よだれを垂らしている。
浴びるほど呑んでもケロッとしているこいつがこれほど酔っているのも珍しいな。
「おお、義弘か。なに、我らも今行こうと思っておったところだ」
半ば義弘に担がれる形で宴会場に担ぎ込まれる。
始まったばかりであるというのにほとんど全員が酔っぱらっていた。
どうしてこう薩摩の男達は酒が大好きなんだろうか。
「おお、主役の一人が来たぞ!」
「鉄山殿ぉ!待ちくたびれましたぞぉ!」
「あれこそ神憑りな戦略!度肝をぬかれました!」
どうやら俺の話題が大半だったらしいな。
兵たちも鉄砲戦術に大きく関心を持ってくれている。
義弘が拗ねてやけ酒をしているのはそういうことだったようだ。
こんな野蛮な宴は前の人生なら一度たりともなかった。
紳士淑女の集う優雅な立食パーティーは数えきれぬ程経験したのだがな。
それとは対極に位置するものだろう。
半裸で腹に絵を描き踊り出すもの。
呑み比べで盛大に吐き出し、次の勝負に挑むもの。
どちらの飯が旨いかで殴りあいの喧嘩をするものなど、様々である。
あの頃のパーティーとの一番の違いは下品な、されども本当に愉しそうな笑い声が決して絶えないことであろうか。
うむ。やはりそうだ。
俺には此方が合っている。




