内城での大立ち回り
「島津家第十五代当主、陸奥守貴久である」
義弘につれられ内城の本丸、謁見の間へと案内された。
そこにいらっしゃるのが薩摩を治めるエラい人、つまりは戦国大名その人である。
この前の日新斎と、見知らぬ男三人、そして義弘が同席していた。
「陸奥守様にはお初に御意を得まする。拙者は内城より南に位置する村で用心棒を勤めておりました、九重鉄山でござりまする」
「堅苦しい挨拶はよい、ともかくよく来てくれたな。お主の噂で城下は持ちきりだぞ」
島津家の家風はラフな接し方を好むのだろうか。この時代では異端なことだろう。
それはそうとして予想はしていたが城下町でも俺のことは知れ渡っているらしい。
城に向かって移動中も大勢の人に歓迎を受けた。
天下無双の島津義弘と互角に闘うということは日ノ本でも有数の武勇を持つことに等しいらしい。
「ははっ、恐縮にございます」
「それで、お主のその腕、疑っている訳ではないが実際に見せてもらっても良いかのう?」
「勿論でございます。なんならすぐにでもご覧に入れて見せましょう」
大名貴久は僅かに眉を潜める。
「そうだな。では裏に道場がある。さっそく手並みを拝見するとしよう」
道場には先ほどの全員と、手練れと思われる侍が三十人ほど座っていた。
武器は一通り壁にかかっており、好きに使って良いとのこと。
とりあえず木刀と先に緩衝布のついた槍を手に取る。
盗賊と屍を倒して貯まったスキルポイントで[槍術の達人]を取得し、中距離の格闘戦対策もバッチリである。
「先ずは拙者とお手合わせ願おう」
そう言うなり侍の一人が立ち上がった。
デカいな。二メートル近くあるだろうか、ガタイもいい。丸太のような首、腕、足だ。
「いいだろう。かかってこい」
「浪人風情が調子にのりやがって」
そう言うなり俺の服に掴みかかる侍。
どうやら力の差を見せつけたいらしく刀すら抜かないらしい。
せっかく柔道のフィールドを選んでくれたんだ。
もてなさなくてはな。
侍の襟と袖を掴み、体を横に鋭く回転。
同時に相手の重心である前腹の下にを自分の腰をねじ込む。
あとは曲げた膝を勢いよく伸ばしながら掴んだ胴着を下に引っ張り、背負い投げで床に激しく叩きつけた。
柔よく剛を制す。柔道の基本だ。
ドスンと音をたてて巨体が落ちると同時に道場にざわめきが生じた。
「一本!」
と日新斎がニコニコしながら叫んだ。
貴久は目を丸くしている。
侍は受け身を執り損ねたらしく、後頭部を押さえてのたうち回っていたが、なんとか起き上がると顔を真っ赤にしながら殴りかかってくる。
初撃、そのつぎとヒラヒラと交わしていると痺れを切らした侍はまた掴みかかろうと手を伸ばす。
今度は服をつかませず、手を手で掴み、両手の指を絡ませての力比べとなった。
侍はニヤリと笑って両の腕に力をこめ、俺を床にねじ伏せようと躍起になっている。
しかし侍の望んだ結果にはならなかった。
侍は組んで数秒で異変に気づいた。
持てる最大の力を出しているのに、前の男は微動だにしないのだ。
この男も体格はいい。だが自分の方が遥かに力強いはずである!
なのにどうして奴は倒れないのだ!
鉄山はクスリと嗤うと侍の両手首の関節をポキリと外してしまった。
道場に激痛に悶える悲鳴が轟く。
「それまで」
義弘が審判を下す。
泣きじゃくる侍の手首をはめてやると非礼を詫びられ、侍はそのまま道場の隅へと下がった。
「次、鉄山とたちあいたい者はいるか」
義弘の呼び掛けに静まり返る道場。
「全員だ」
鉄山の声が静かに響く。
「お前たちさえよければ全員でかかってこい」
一瞬の静寂の後に怒号が飛び交う。
「あの野郎俺たちを嘗めやがった!」
「多少強いからって調子に乗るなよ!」
「かかれ!あのよそ者をだまらせろ!」
止めようとする貴久を日新斎が制止する。
義弘が僅かに笑った。
そこからはまるで戦場のような殺伐とした空間が形成された。
いくら鉄山でも広いとはいえ道場中で約三十人に囲まれれば勝ち目はない。
そこで鉄山は道場の襖を蹴破ると広い中庭へと移動した。
それを血眼で追跡する侍達。
その騒々しさから城中の人がその試合を見にきた。
庭を駆け回る。
敵を槍で突き崩し、木刀で叩き割り、投げ飛ばす。
開いた口が塞がらない貴久とニコニコ笑う日新斎。
木に登り、踏みつける。
石礫で怯んだ所を槍で凪ぎ払う。
木刀を投げつけ、倒した侍の木刀を奪い取る。
拳を腹にめり込ませ、泡をふいて失神する侍も出た。
鉄山の苛烈な攻撃と戦術に一人、また一人と戦闘不能にされ、最後の一人が降参した。
鉄山が一息つく前に割れんばかりの歓声が轟いた。
城内の見物人が駆け寄ってくる。
少し疲れた。ゆっくり休みたい等と考えていると貴久から謁見の間にくるように指示された。
「大義であった。お主の実力はよくわかった。あの者達を鎧袖一触とは、いよいよ人間離れしておるのう。ところでーーー」
「登用の条件は聞いた。お主ほどの実力者を逃すとなると島津にとって大きな痛手となる。総て聞き入れるとしよう」
「ありがとうございます。無理を通してしまい申し訳ございません」
「よいのだ。お主には兵千と例の村を領地として与える。好きなように使って見せろ。これだけの活躍を見せたのだ。期待しておるぞ」
「ははっ。微力ながらこの命を賭けて島津家をお守りすることを約束致します」
「うむ。よろしく頼むぞ。下がれ」
やったぞ。ついに自分の領地と直轄の兵士を持てるまでに出世した。
あの村はもともと私物のようなものだが、兵士千人は大収穫だ。
かわいそうだがこれからびしびし鍛えて最強の軍を作っていくとしよう。
鉄山が謁見の間からでて行った後に
「で、どうじゃった。鉄山との立ち会いは」
日新斎がボロボロの侍たちに訪ねる。
「ははっ。まるで鬼神のごとき強さと威圧感を持ち、戦場で常に最善手をうちつづけられる冷静な頭脳を持っているように感じます」
「そうか。お前たちは何を感じたのじゃ?義久、義弘、歳久、又七郎」
義弘と三人の男に話しかける。
「まさかあそこから勝利するとは・・・・驚愕すると共に我が勢力の大きな力となってくれることに期待しています」
長男の義久と呼ばれた男がこたえる。
「まあ予想通りになりました」
次男義弘がぶっきらぼうに答えた。
「なんて強い人なのでしょうか。恐ろしい人です」
震えながら三男歳久が答える。
「あんなに強い人を義弘にいちゃんのほかにはじめて見たよ!」
四男又七郎が元気そうに答える。
「それにしてははじめから兵士千は優遇し過ぎなのではないですかな?父上」
義弘が貴久に問いかける。
「よいのだ。鉄山は文字通り天下無双。またとない人材なのだ。将来的に我が軍を率いるような、そんな才能が有る気がしてな」
「確かにあれは敵には絶対に渡したくないものじゃ。此方も多少譲歩して交渉せねば他の大名のところへ行ってしまったかもしれんからのう」
「なんにせよ、迫ってきている肝付との戦で初陣を飾ってもらう予定だ。武将としての才能も見極めなければならんな」




