27話
旅を再開してから3日、獣王国に向かって移動しているのだが、俺は大きな間違いを犯したのかもしれない。
「せいっ!」
「違う、もう一度」
「はっ!」
「違う、もう一度」
「やっ!」
「違う、もう一度」
「あのさ、何が違うのさ」
「全部だ」
一個ずつ言えや!
おじじに稽古をつけてもらいだしたのだが、俺は剣の才能も無かったらしい。
ちなみに型は見せた瞬間やらなくていいって言われた。そんなひどい?
「いいか?こう振る。わかったか?」
「全然」
「だから、こう。わかったか?」
「口でどこ悪いか言ってよ」
「全部」
…………もうダメだ。手が痛いよー。
「お爺様、この変態には才能が全くありません。やらせない方が良いと思います。時間の無駄ですから」
「俺もお姉様に同意」
「ふむ、だが、お前のように小さく弱い力では、魔物など到底倒せまい。武器を使えなければこれからの旅も厳しいぞ」
一理あるんだけどな。その気持ちにセンスが全く追いつかない。剣に嫌われてるレベル。
「お爺様、こいつがどうなろうと別に良いのでは?私はむしろ魔物の餌になって欲しいです」
「本人目の前にして言うのやめて」
デリカシーってやつだよ。……合ってるか?
「確かに憎い人族ではあるが、我等を奴隷から解放したのもこやつだ。だから少しくらいは恩に報いてやらねばこやつらと同じになってしまう」
「だから本人いるから。影でディスって?」
いたたまれないから。俺悪くないしな?
「ならば、ただこいつの護衛という名目でよろしいではございませんか」
「何を言う。稽古の成果と称して魔物と戦わせ、あわよくば殺せる機会が無くなるではないか」
「なるほど!さすがお爺様、感服致しました」
「おい!目の前で殺しの計画立てんな!俺は悪いこと何もしてないでしょ!」
「黙れ変態」
辛い。これなら1人のが良かったんでね?
「変態お兄ちゃん、稽古終わった?」
「ん?どうしたの?まだだけど」
「えー、せっかく遊ぼうと思ったのにー」
天使……。ニアちゃんだけだよ。お兄ちゃんうれぴー。
「そっか、ごめんね?また後で遊ぼ?」
「え?やだよ。おじいちゃんと遊びたいから」
「あ、はい」
やだ恥ずかしい!もうメンタルブレイクよ!
「そうかそうか、なら稽古は終わりだな。好きにしていろ」
「うーい。んじゃお姉様俺と遊ぼ」
「…………あぁ、いいぞ」
「ごめん、やっぱいい」
剣構えて言われると迫力あるなー。獣人族の遊びって過激だね。
「おい、まだ休憩すんのか?第一お嬢ちゃんが疲れたからしてんだろ?遊べるくらい元気なら進もうぜ」
「えー?もうちょっといいじゃん」
「まぁそうだな。休むか」
皆俺の事ないがしろにし過ぎじゃない?俺の旅だからね?あとニアに甘すぎ。
「兄貴の言う通りだと思うけどな。日が暮れる前にもうちょい移動しようよ」
「チッ、1人で行けば?」
「いや案内」
「1人で行けば?」
「あの、案内」
「チッ」
「休みましょう」
圧。少しは俺にも甘くしない?ダメか。
こんな感じで移動がメチャメチャ遅い。
1人なら1日で移動できると思う距離を3倍とか贅沢だよね。はぁ。
「兄貴よー。こんなんで大丈夫か?次の村だか町だかに着く前に食料無くなるんじゃね?」
「そんときゃお前が買い出しに行くか、魔物でも食うだろ」
「まぁ、そうなるんだろうけどさ。俺は嫌だよ?俺だけ働かされてるじゃん」
「知るか」
冷たい!同じ男でしょ!少しは助けて!
「おじいちゃん!見て見て!すごいでしょ!」
「おー、すごいなーニアは。儂には難しくてできんよ」
ニアちゃんが木登りに興じていたよ。
爺さんなら登らずにジャンプで届くだろうな。
お姉様メッチャうっとりしてるし。シスコンですね。その気持ちわかる。
兄貴の真似して木に寄りかかってダラけてると魔物が来た。まだ日は暮れてないのになー。
「お爺様、私が」
「………いや、小僧にやらせよう」
「なるほど!わかりました。……おい変態。お前のお友達が来たぞ。さっさと殺されろ」
「本音隠す気ないの?願望丸出しで仕事放棄じゃん」
「私はニアを守ってる。早くやられろ」
やれじゃないの?受動態が原則なの?
諦めて魔物に近づく。小さ目のブルが1匹だった。
これなら楽か。
相手がこっちに気づき突進して来た。
落ち着いて狙いを定める。
「サンダーボルト」
「ブヒィィィィィ!!」
見事に1発で命中。テッテレー。ぶるをたおした。
「おわたでー」
「チッ」
「えー?さっきの変な動きで倒さないのー?」
変な動きでごめんね?あれでも真面目だったんだよね。
その後は結局動かずまた野営。
テントを張って焚き火をするのだが、ここでも困った。
「今日は誰が見張りやる?」
「お前以外誰がいる」
「いや、そろそろ交代しようよ」
「チッ、断る。私はニアを寝かせるのに忙しい」
「儂はもう歳だからな。体がついていかん」
「俺は眠いから無理」
「変態お兄ちゃんがんばって!」
またですかそうですか。
毎日こんな感じで表に出される。
テントは男2人女子2人で使い、俺は焚き火の前で暖をとるか、木の幹で寝るかの二択を3日連続でやってる。
魔物が来た時は爺さんがすぐ外に来て倒して戻る。俺いらないじゃんね。変わろ?
んで朝はニアが起きてこない。昼前くらいまで寝てるのだが、その間は絶対動かない。
おんぶして行こうよって言ったら、
「チッ」だった。だろうとは思ったけど。
その日もニア嬢が起きるまで待機。
やる事は寝床の片付けと飯の準備くらいだ。まぁ全部俺の仕事。ブラックやん。
「小僧、稽古をするぞ」
「また?もう流石によくない?」
「変態のくせにお爺様に意見するな」
昨日は同じ意見だったよね?それに俺魔物と戦わないじゃん。
「いいから、ほれ。振れ」
「………あの、木の棒?昨日は剣だったよね」
「お前にはまだ早かったと思ってな。その方がしっくりくるだろ」
いくらなんでも木の棒を聖剣とか言って振り回す歳には見えないでしょ。背だって伸びてるじゃん。
「だははははは!似合ってんじゃねぇか!」
「確かに、変態にはお似合いですね」
嘘だよね?バカにしたいだけだよね?
しょうがないから、一応教わった通りの動きで振る。まぁうまくはならないけど。
「おはよー。変態お兄ちゃんまた気持ち悪い動きしてるねー」
「ニアは見ちゃダメ。目が汚れる」
お姉様にはどう写ってんの?俺汚物なの?
ニアが起きてきたので飯タイム。
成長期なのかニアはメッチャ飯を食う。
俺も食いたいがニアのためって言われて減らされた。俺も成長期だよ?
その後はまた獣王国に向けて歩き出した。
ペースはお嬢ちゃんに合わせてる。つまり遅い。
…………マジで目的地まで一年かかるんじゃね?
「お姉ちゃーん。ニア疲れたー」
「うん、それじゃあ休憩しよっか」
顔だらしないぞ。女の子でしょ。
「やったー!おじいちゃん遊ぼ!」
疲れたの?疲れてないの?
休憩。まだお嬢が起きてから2時間くらいだろう。
次の村すら着く気配無いよー。
「兄貴ー。魔法の特訓でもしてよー」
「いやだ。お前才能無さすぎ」
あらら。ですよね。
初日にデンゼルに魔法の特訓と称して教えてもらったのだが、まぁ出来ない。
魔力制御は問題ないが発動しない。センス無い。
試しに魔術をやってみよう。出来ない。はい諦めたー。
結局デンゼルがやる気なくしてご覧の通り。
もうあかん。辛たん。
「ねぇ、そろそろ行こうよ。日が暮れるよー」
「チッ」
…………ストレス!帰りたい。
「変態お兄ちゃんはなんでそんなに急いでいるの?疲れるじゃん」
「あぁ、早く行って早く帰りたいからだよ」
「じゃあ行かなきゃいいじゃん。バカだね!」
「それが1番なんだけどなー。一応やらないと帰れないからね」
嘘ついて帰るとまた出されるかもしれないからね。母さん鋭いし。
「ふーん、変なの。変な変態お兄ちゃんだ!」
一周回って普通的な?無いな。
「そいつは俺も気になるな。なんで帰れねぇんだよ」
「世界一周するまでと家に帰るなってよ。うちの伝統だとさ」
「はぁ?お前の家なんなんだよ?」
「由緒正しい騎士の一族だとよ。そんなもんになりたく無いのにな」
「へぇ、変態だな」
俺関係無いよね?俺に言わないで。
今日も野宿。だる。
晩飯を食ったらデンゼル兄お手製の風呂で汗を流して就寝。
今日も俺は見張り。飽きた。ちゃんと寝たい。
木の根に寄りかかってると、魔物が近づいてきた。3匹くらいだ。しんど。
「おじじー。俺やるからいいよ」
「………信用ならんな」
「んじゃそこで待っててよ。少しはイライラ発散させないとやってらんないよ」
ストレス解消しないと爆発しちゃうからね。
魔物の所まで歩いて近づく。
3匹とも視界に入る位置まできた。
魔物はウルフでこっちを警戒して囲んでる。歩いて来ないもんな、普通。
ストレスフルだったので、闘気の調節をミスり、3割くらい使って纏った。1割もいらないから勿体無い。
闘気に気づき、3匹同時に飛びかかってきた。
ついイラっとして殺気全開で一瞬のうちに3匹の頭を殴ってしまった。首から上を吹き飛ばす威力。
これあれですね。やり過ぎですね。
困った事にスイッチが入った。
イライラが止まらないどころかキレた。
…………魔物狩りに行くか。
そのまま道から外れて林に入り魔物を探しに行った。
そんで朝になるまで魔物を潰し回った。スッキリ。………そしてげんなり。八つ当たりみたいで萎えた。
とぼとぼテントに帰ると爺さんが焚き火の前で待ってた。
剣を構えて。
「お前、何者だ」
「…………ただの少年?」
「…………旅の目的はなんだ」
「昨日言った通りだよ。残念ながら」
世界平和のためとかだったらカッコついたのにね。
「あとさ、やる気無いから構えないでよ。兄貴もだかんなー」
「………気づいてたのか」
「まぁねー。伊達にいじめられて無いからね」
師匠にはこれでもかと嫌がらせされたからな。気配ですぐわかる。寝てても飛び起きるくらいセンサービンビンでっせ。
「信用出来んな。証拠はあるのか」
「出しよう無くね?第一あったら、わざわざ奴隷紋消さないでしょ」
「………腕試しとかな」
「お前らみたいな雑魚でやるわけねぇだろ。笑わせんな」
ついキレた。しつこい。
「この際だから言っとくけど、道案内、ちゃんとしてな?あんたら獣人や魔族は義理堅いんだろ?少しでいいから言う事聞いてよ」
切実な願いですよ。もう泣きそうだもんな。
「………わかった」
「よろしい。兄貴は?」
「わかったよ!がんばるがんばる!」
嘘くさ。あかん、当てにならない。
一応約束し、移動の準備。
申し訳ない事に俺のせいで女の子2人も起こしてしまってた。こめんちゃい。
「ニアちゃんおはよー」
「あぅ!あ、え、う、うん……」
「ニ、ニアに近づかないで」
……………おわた。
2人とも俺を見るなりビビり倒してる。常にマナーモードかっていうくらい震えてる。ごめんなさいでした。
その日はとても順調に進んだ。
休憩は昼に飯食った一度であとは夜になるまで歩き続けた。
常に警戒されながら…………。
もう帰りたい。




