六話
俺は駕籠に乗り珠一郎と忠矩は供として付いていく
下屋敷からはまず馬喰町を通り、室町辺りから外堀沿いを進むと呉服橋御門が見えた、田沼邸は渡ってすぐ右側にある
(未来なら銀座線で一本か・・・バスに乗るか)
そんな事をふと考えたら少し吹き出してしまった
駕籠は田沼邸の前で止まった
通常はお供が名乗りを上げて面会を求めるか通帳という木札か奉書紙を出すのが通常である
しかしそれでは門前払いを食らうだろうそう思っていた俺は事前に用意していた紙を懐から取り出し門番に向かって
「伊予大洲藩主加藤出羽守が実子廉之助と申す。西国一の将棋指しとして田沼主殿頭殿へご挨拶に参った。この書状をお渡し願いたい」と言った
尋ねた本人が口上を述べるのも異例だが、それが十歳の少年であることに門番は面食らってしまった
偶然そこに一人の凛々しい少年が現れた
「いかがした?」
この声に門番ははっと我に返った
「伊予大洲藩加藤出羽守様のご実子・・・」
とそこまで言いかけると少年は門番を制して
「して何用か?父は忙しいが?」
その言葉に俺は(いきなり意知か!好都合)と心で叫んだが、顔色一つ変えずに
「西国一の将棋指しとして田沼様にご挨拶をと思いはせ参じました。この書状をお渡しくださいませ。ご返答あるまでここでお待ちいたします故」
といって書状を意知に渡した
意知は書状を受け取ると
「無駄だと思うが、しばし待たれよ」
といって奥に入っていった
珠一郎が心配そうに
「若君、大丈夫ですか?」
と言っても俺は涼しい顔で空を見上げ、飛ぶ鳥を眺め数えた
「ちなみに書状には何と?」
と忠矩が俺に聞くと
「詰将棋を書いておいた、田沼様は答えを出せずに俺を呼ぶ、必ず我々を迎え入れる」
鳥を眺め、いくつか数えた時、屋敷の奥から大きな足音を立てて男が一人門に向かって走ってきた
「そなたか?この詰将棋を書いたのは。こんなでたらめでは詰まぬではないか!何が西国一の将棋指しだ、愚弄するのもいい加減にせよ!」
すごい剣幕である
「いいえ、詰みます。もし不服とあれば将棋盤をお貸し願いたい」
俺が涼しく答えると男は
「よい度胸だ、伊予大洲藩の実子と聞いた。もし嘘をついて居ればどうなるかわかっておろうな?」
と勢いよくすごんだ。
「されどこのような門前で将棋を指して、田沼様のご迷惑にはなりませぬか?」
俺は暗に(屋敷に入れろ)と促した
「確かに・・・面白い。正式に面会許す。上がってこい」
そういうと男は奥に入っていった
廉之助も堂々と門をくぐる
たまったものではないのは珠一郎と忠矩である
「おい、珠一郎。生きて帰れるのか?これは」
「儂にもわからん、とにかく若君の大博打に乗ったのだ、身を任せるほかあるまい」
二人も冷や汗をかきながら付いていった
三人は腰のものを預けて書院の間に通された
しばらくすると将棋盤と駒をもった先ほどの男が現れた
男は俺の前に将棋盤をドカッと置いた。
「早う、答えて見せよ」
男は急かしたが俺は背筋を伸ばして
「伊予大洲藩加藤出羽守が実子、廉之助にございます。この度喜連川藩に養子に入ります故、加藤の蛇の目でお会いするのは最後となりますが、今後ともよろしくお願い申し上げまする」と挨拶をした。男は
「儂が名乗るのは答えを聞いてからでも遅くはあるまいて」
そういうと駒を出し始めた
「駒はこちらでご用意してございます、珠一郎これへ」
そういって大坂で受け取った「純金と純銀」の駒を取り出した
「なんだこれは」
さすがにこれには驚いたらしい
「では始めます」
そう言って詰将棋の解答を指し示していった




