十三話
仲見世通りで蝋燭を扱う店を見つけた
「店主、ここに噂の伊予大洲藩の蝋燭は並ぶのか?」
その問いに苦い顔をして店主は答えた
「お武家様、あの蝋燭は問屋衆達が直営で売るらしくって、あっしらみたいな店には流れてこねぇんですよ。売りたいのは山々なんですがね」
「そうか、手間を取らせた」
俺はある失敗に気づいた
(紙店組は問屋の集まりだ、小売店のことまで考えていなかった)
伊予大洲にいる頃から俺が考え事をしているとき忠矩は話しかけてこない、しかしここは江戸でも有数の人通りがある浅草浅草寺の仲見世通りである
突然俺の体が宙に浮いた、忠矩が抱え上げた
「何をする、忠矩」
「若君、考え事するのは良いんですが、前を見ずに歩くもんだから町人たちが困っております。それならいっそのこと忠矩の腕の中で思案なされよ、その方が安全でござる」
「わかった、もう考え事はせぬ、前を見て歩くから降ろせ、恥ずかしくてかなわん」
俺の顔が真っ赤になっているのがわかって忠矩はようやく俺を降ろした
その後本堂に参詣した後、菓子や饅頭などを買い寿町の下屋敷まで歩いた
「若君、一つよろしいですか?」
「なんだ?」
忠矩はまっすぐ前を見ながら俺に言った
「今回の蝋燭の件ですが、ちと儲けすぎではありませんか?いくら若君の養子入りの支度金とはいえ、少し国許にまわしてやってもらえませんか?」
忠矩の言っていることはすぐに理解できた
伊予大洲藩は今、破綻寸前である。度重なる公儀からの普請や石高の割に人口が多く田畑になる土地が少ない。そこで藩は俺のこの世の祖父の代から家臣たちの禄のカットを行っている。今回の蝋燭の件もそれをどうにか打開できないかというテストを行ったに過ぎない
「心配するな、今回の蝋燭の件を良き例として伊予大洲には策を考えておる。忠矩の親類縁者ひいては民たちも暮らしが上向くように考えておる。約束する。この数年で伊予大洲は息を吹き返す」
「なんとそこまで・・・失礼を致しました」
忠矩は前を向いて歩いているが泣いているのがわかった
俺はまた懐紙をそっとわたしてやった
ぶひーーーっ!
(出た!笑っては悪いけど、忠矩の鼻噛みは癖になる)
そんな悪い気持ちは表情に出さず、二人は下屋敷に到着した
「おかえりなさりませ、すでに一万八千組すべて紙店組に引き渡してございます。あとお話にあった上様への献上のお品もすでにご用意してあります」
珠一郎は俺が帰るまでにすべてを準備させていたようだ、この男が勘定方の小役人に埋もれていたことを考えるとこの時代の家柄というシステムがどれだけ無駄なのかが良くわかる
「大儀。しかし献上の品の箱など用意してなかったはずだが?」
「はい、急遽上屋敷に馬を飛ばして『上様に献上する品が出来た、蛇の目紋が入った最上級で特大の箱を一つ早急に用意せよ』と若君のお名前で使者を出しまして、届いてみたらこれがちょうど良い大きさでして。ご覧になられますか?」
「珠一郎の目にかなったのであれば間違いないが、一応見ておくか」
そういって着替えも忘れて俺は献上の品と箱を確認した
「これはまた、ちょうど良いにも程がある」
箱の大きさは人が一人は入れるほどの大きな箱。しかも漆塗りで蛇の目紋も金で装飾されている
「一体この箱何に使うつもりだったのか・・・」
俺の言葉に珠一郎は
「はて、中に入り関所破りでもするつもりだったのかもしれませぬな」
その言葉に俺は声を上げて笑った
忠矩と違って珠一郎の冗談は少し棘がある、頭のキレがそうさせるのかもしれない
「では父上を罪人にせずに済んだな」
「御意」
珠一郎の冗談にはツッコミを入れてやらないといけない、返してやらないとへそを曲げる、しばらく何も話さなくなる時すらある。言葉を返すことはすなわち『評価』ととらえているらしい




