↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

反抗の火

第五紀元・聖恩帝国北東辺境

黒茨領・灰爐村


朝の古びた教会には、割れた色硝子の窓から光が差し込んでいた。


何本もの古い刀が、石の床に斜めに突き立てられているみたいだった。


俺たちが着いたときには、もう何人か先に来ていた。


バルは教会のいちばん奥の長椅子に座り、足元に弓を置いて、油布でゆっくり弦を拭いていた。


コーンは窓辺に立っていた。


太い腕がやけに目立つ。


外套の下は膨らんでいて、持ってきた鉄具のようだった。


ベイタンは裏口から入ってきた。


髪がまだ濡れていて、川から上がってきたばかりのようだった。


トランが最後に来た。


古い扉を押して入ってくると、蝶番がひとつ鳴った。


全員が顔を上げた。


「揃ったな」


トランは机の前まで歩いた。


「始めよう」


その机は、とても古い。


今は上に黒茨領の地図が広げてある。


端は水でふやけて、いくつかの村の名はまだ読めた。


数個の石が四隅を押さえている。


トランは石をひとつずつ置き直した。


バルが先に口を開いた。


「灰葉村で弓を持てるのは九人。俺も入れてだ。矢は多くない。四十本ほど」


「だが、北の斜面と荒原沿いの道は、俺たちが一番よく知っている」


トランが続けた。


「南坡村からは五十五人出せる。農具を直した槍が二十本ほど。残りは鎌、草叉、手斧だ」


「弓が使える猟師が七人。矢は六十本もない」


コーンの声は、炉の底から出てくるみたいに低かった。


「灰爐村は四十人。鉱山にいた者が多くて、力はある」


「鉄の穂先の槍が八本、古い刀が十二本。それと、俺が何年もかけて集めた鉄具がある」


ベイタンは壁にもたれて言った。


「白水村は四十五人。ほとんど船乗りだ」


「正面からは戦えないが、夜道と川のことは任せろ。船もある。火油も少しは用意できる」


最後にガストンが話した。


彼はそれまで、影に立っていた。


「俺の手下は三十人。東門一帯は俺の担当だ。交代の合言葉も手に入れられる」


トランは頷いて、両手を地図の両端に置いた。


「二百人か」


ガストンが一歩、影から出た。


「俺の部下で、ロルという男がいる。一昨日、モールの連中に捕まった。古い地図を持っていたのが見つかってな」


彼は一度、言葉を切った。


「ダミアンが言っていた。三日後の正午、黒茨町の広場で公開処刑にする、と」


「町の者も、外の者も、皆見に来いと。見せしめだ」


「ロルは俺たちのことを吐かない。信じている」


「だが三日後、広場には人が集まる。衛兵もあそこへ回される。あの日が、いちばんの好機だ」


トランは彼を見た。


「どういう意味だ?」


「あの日、やる」


トランは訊いた。


「町に衛兵はどれくらいいる? はっきり教えろ」


ガストンは地図の前へ行き、指でいくつか場所を示した。


「要塞には四十人の親衛が常駐している。あれはガレス直属の兵で、俺たちは入れない」


「町には全部で百二十人ほど」


「三日後の処刑、ダミアンは見せしめにしたい。だから動かせる兵は広場に集めるはずだ」


「俺の読みでは、広場に最低四十人。残りの八十人は城壁、穀倉、教会、詰め所に散る」


トランは眉をひそめた。


「なら、要塞の四十人と合わせると、向こうのほうが多い」


「だから全面では戦わない」


ガストンは頷いた。


「一点を崩す。そして奴らが頭を回す前に、要塞へ突っ込む」


トランは地図のいくつかの地点を石で押さえた。


「二百人を三つに分ける」


まず、広場を指した。


「処刑場。五十人。白水村の者だ。ベイタンが率いる」


「長物は駄目だ。刃物と短い棒を体に隠せ。人混みに溶け込め」


「火の手が上がったら、その合図で広場のダミアンを押さえ、ロルを奪い返せ」


次に、東門を指した。


「外回りは百人。俺とコーンが率いる」


「処刑の一時間前に、東門はガストンの手の者が立つ。入ったら、すぐには動くな。ベイタンたちが仕掛けるまで待つ」


「それから東から喊声を上げて、大軍が雪崩れ込んだように見せろ」


最後に、要塞の東にある古い用水路を指した。


「残り五十人。バルとガストンが率いる」


「火が上がり、衛兵が乱れれば、ダミアンは広場の兵を東門へ回す」


「あいつらが戻る前に、古い用水路から要塞へ忍び込む」


「狙いはひとつ、ガレスだ。捕まえれば、終わりだ」


ベイタンが言った。


「レオン・ヴァンドリックはどうする? 要塞にいる。あいつが竜に乗って飛んできたら、俺たちは全滅だ」


エレナは、それまで黙っていた。


そのとき、彼女が口を開いた。


「まず薬を試す。兄は毎晩、眠り薬を飲んでいる」


「帝都から来た老いた従者が煎じている。私、その人を知っている」


「うまくいけば、あの日は起き上がれない。召喚語も唱えられない」


トランは訊いた。


「失敗したら?」


「私は処刑の前に町を出る」


「もし赤疤が現れたら、灰羽を呼んで、兄を町の外へ引き離す」


「あなたたちが竜と戦わないようにすれば、勝機はある」


コーンが言った。


「あんたの竜は、本当に来るんだな?」


エレナは答えなかった。


机の下で、手をぎゅっと握った。


俺には見えていた。


「三日後。正午。奴らが人を斬る。俺たちは動く」


トランが立ち上がった。


「準備は二日で終わらせる。最後の一日は運命に任せる」


「マリカスの加護があらんことを」


俺は小さな声でエリスに訊いた。


「マリカスの神選者って、確か死んだんじゃなかったか?」


エリスは横目で俺を見て、俺にだけ聞こえる声で言った。


「あれは今の帝国の神様。それに、あんたが覚えてるのは何百年も前の話」


散会して、皆は教会の裏口から順に出て行った。


ガストンは最後まで残った。


彼は俺の前まで来ると、腰から短い刀を外して差し出した。


「使えるか?」


俺は受け取った。


一度、振ってみる。


体が先に動いた。


刃が空気を短く、まっすぐに切った。


「たぶんな」


と、俺は言った。


ガストンは笑った。


鞘から半寸抜いて、また戻すような、浅い笑いだった。


エレナはまだいた。


窓際に立っている。


朝の光が、彼女の手首に落ちていた。


「皆、私を信じてる」


彼女は言った。


「でも、できるかどうか、自信がない」


エリスが俺の代わりに答えた。


「なら、今晩から少しずつ。できることを」


---


教会を出ると、太陽が昇ってしばらく経っていた。


トランが外で待っていた。


「南坡村の西に、古い採石場がある。四方が斜面で、誰も見回りに来ない」


「竜を試すなら、あそこがいい」


彼の言葉はエレナに向いている。


だが、目は俺を見ていた。


「行こう」


俺は言った。


「南坡村へ」


トランは南坡村の若者を二人連れてきた。


ダンとクル。


ダンは口が多い。


クルは道中ずっと黙って歩いていた。


南坡村に着いた頃には、もう昼に近かった。


トランの家は古い。


庭には痩せた犬が一匹、壁の根元に寝ていた。


トランは竈の扉を開けて、梁から干し肉の半切れと黒パンを何本か下ろした。


「少ないが、勘弁しろ」


彼は言った。


「村で出せるのはこれくらいだ」


食べ終わると、トランが言った。


「一刻休め。日が傾いてから行く。道に巡回がいる」


---


夕方、出発した。


南坡村を離れてから、ずっと細道を歩いた。


トランが先頭に立ち、ときどき振り返る。


遠くの道に土埃が立っていないかを見るのだ。


ダンとクルは両側に散り、前と後ろを歩いた。


空はゆっくり沈んだ。


西の雲が暗い赤に焼けて、風が荒原の方から来て、かすかな焦げの匂いを運んできた。


「アルド」


エレナが急に呼んだ。


「ああ」


「昔、竜に乗ってたの?」


彼女は訊いた。


俺は少し黙った。


「ああ」


「教会の日、私から竜の匂いがするって言った。黒茨町でも、竜契は複雑だって」


彼女は小声で言った。


「ずいぶん詳しい」


俺はしばらく沈黙した。


エレナはそれ以上追わなかった。


数歩歩いてから、彼女は言った。


「竜契のことを話すわ」


「帝国の竜騎士は、竜に選ばれただけではなれない」


「小さい頃、竜穴で灰羽に認められた。それで十分だと思ってた」


「でも、違った」


「帝都の竜契所に行って、竜契官と教会の立ち会いの下で、竜と契約を結び、契約の儀式を終えないといけない」


「儀式が終わると、召喚魔法が体に刻まれる。それがあって初めて、指定された竜を呼べるの」


彼女は左の袖口を少し捲った。


銀白色の印が現れた。


「これが竜契」


「でも私は儀式を終えていない。灰羽を感じる。どこにいるかも、わかる。でも、呼べるかどうかはわからない」


「前、『私にも竜契がある』って言った。できると思ってたから。小さい頃、あの召喚魔法を教わったの」


彼女は俺を見た。


「皆を騙したくない」


エリスと俺は、どちらも黙っていた。


しばらくして、エリスが口を開いた。


「今わかってよかった。話を聞く限り、竜契は竜と契約を結んで、召喚魔法を刻印するもの。仕組みは難しくない」


彼女は俺を見た。


「複雑にしてるのは、帝国が付け足した部分だ」


俺は言った。


エレナが顔を上げた。


長いこと隠していた石を、誰かがそっと持ち上げてくれたみたいな顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。