抑圧された決意
夜が明けきる前から、マルサは起きていた。
古い羊皮の上着を羽織り、竈の扉を開けて火を入れる。
炎の光が、彼女の額の青あざを昨日よりも濃く照らし出していた。
彼女は鍋に水を二杯入れ、黒茨の枝を竈にくべた。
灰葉村は、いつもと変わらない。
子どもたちが鶏を追いかけ、老いた猟師は戸口に座って矢を研いでいる。
昨日ダミアンに殴られた若い猟師も出てきた。口元はまだ腫れていて、マルサを見ると、黙ってうなずいた。
マルサは言った。
「裏の薪を運んでおくれ。寒いから、子どもたちに当ててやりたい」
若い猟師はうなずき、立ち上がりかけた。
そのとき、南から蹄の音が聞こえてきた。
一頭じゃない。
群れだった。
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エレナは砦の城壁のそばで一晩を過ごした。
夜明けが近づくころ、風にはもう荒原の焦げた匂いが混ざっていた。
昨夜、古い祈祷室から送り出した者が、まだ戻ってきていない。
彼女はその者に、たったひとつの伝言を持たせた。
「明日、村を捜す。レオンも行く。兄は最近、とてもおかしい。決して逆らわないで」
灰葉村とは言わなかった。
しかし、その者はどこへ行けばいいか知っている。
エレナにもわかっていた。
自分はダミアンを止められないし、レオンも止められない。
ただ、今日どんなことがあっても、誰も顔を上げないでほしい。
そう願うしかなかった。
だが、人間は追い詰められたとき、頭を下げていられなくなることも、彼女にはわかっていた。
彼女は西の城壁へ行き、灰葉村の方角を見た。
朝霧は深く、南の黒い尾根がかすかに見えるだけだった。
風が荒原から来て、灰と古い焦げの匂いを運んでくる。
「行かないで」
彼女は小さく言った。
自分に言い聞かせるように。
何かに祈るように。
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ダミアン・ローワンは馬に乗り、隊列の先頭を進んでいた。
後ろには三十人。
騎兵が四人、盾持ちの歩兵が六人、残りは長棍と松明を持っている。
隊の中央では、背の高い税官がまたあの黒地に白い鹿の旗を掲げていた。
鹿の角に茨が絡み、朝の風のなかで震えている。
レオンはダミアンの十数歩後ろ。
灰色の馬に乗り、鎧は着けず、黒い厚外套だけを羽織っていた。
彼は道中、一言も口をきかなかった。
ダミアンが振り返って言った。
「もうすぐです。あの連中も、これだけ兵が来れば観念するでしょう」
レオンは答えなかった。
ダミアンも気にしなかった。
今朝の彼は気分がよかった。
三十人で灰葉村ひとつを囲む。
ただの人探しだ。
この陣容で、誰が逆らえるというのか。
昨夜、書斎で父に話した。
ガレスは最後には折れた。
父は「死人を出すな」と言った。
ダミアンも、そのつもりはなかった。
ただ灰葉村に、黒茨領で誰がものを言うのかを思い知らせたかっただけだ。
「両方を塞げ」
ダミアンは命じた。
「全員を広場に集めろ」
兵が散った。
騎兵が二人、村の裏へ回る。
歩兵が二人、西の小道を固める。
残りはダミアンに従って村へ入った。
「出てこい! ローワン家のダミアン様がお着きだ!」
税吏が銅鈴を鳴らす。
「逃げた者が村に隠れている。出てこい、全員出てこい!」
戸が次々に開いた。
老人、女、子ども。
彼らは昨日と同じ格好のまま、ゆっくりと村の入り口の広場へ集まってきた。
裸足の者もいれば、襁褓の赤子を抱えた者もいる。
マルサは昨日と同じように、群れのいちばん前に立っていた。
「若様」
彼女は言った。
「こんな朝から、また何のご用で」
「お前たちの村に、素性の知れない者が隠れていると知らせがあってな」
ダミアンは馬上から見下ろした。
「昨日は本気で捜さなかった。今日はもう一度だ。戸を開けろ。俺の者に手を出させるな」
「家にはもう、売れるものもありません。どうぞ見てください」
マルサは言った。
ダミアンが手を振ると、兵たちは次々に家の中へ入り、戸を押し開け、敷物をめくり、竈の下や鶏小屋まで覗いた。
しばらくして兵たちが出てきて、ダミアンに首を振った。
「いないのか?」
「はい、一通り見ましたが」
ダミアンの顔色が沈んだ。
彼はゆっくりとあたりを見回した。
皆、うつむいている。
だが、何人かは目を逸らさない。
特に昨日の若い猟師は、腫れた口元を光らせて、彼を見ていた。
「おい」
ダミアンは鞭でその男を指した。
「来い」
若い猟師は動かなかった。
「来いと言っている」
マルサが若者の腕を軽く押さえ、自分が一歩前に出た。
「若様、あれはまだ若い者です。怖がらせないでやってください。何かあれば、私にお尋ねを」
ダミアンは無視した。
彼は馬から降り、若い猟師に歩み寄ると、いきなり襟を掴んだ。
「昨日、平手を食らって、今日もまだそんな目で俺を見る。お前、何か知ってるんじゃないのか?」
若い猟師は喉を動かして言った。
「村をここまで荒らして、俺たちにどうしろって言うんですか」
ダミアンが手を上げた。
そのときだった。
群れの後ろから声が上がった。
「やめてくれ!」
全員が振り返った。
昨日ダミアンに殴られた若者の弟だった。
まだ十五、六歳。
痩せて頬骨が浮いている。
彼は群れの前に出て、顔を真っ赤にし、破れた布でこすったような声で叫んだ。
「昨日も兄貴を殴った。今日も殴る。俺たちが何をしたんだ! 税も納めた。麦も出した。鶏の餌まで持って行った。これ以上、どうしろって言うんだ! 俺たちを殺せってのか!」
「そうよ!」
女が泣き叫んだ。
「俺の男は城壁の修築に連れて行かれたきり、戻らない。家には子どもが三人。薄い粥さえ食えやしない!」
「竜糧税!」
別の誰かが叫んだ。
「竜は黒茨領にいない! なんで俺たちの麦を取るんだ!」
「そうだ! 竜騎士は砦に隠れて、俺たちに税を納めさせてる! あいつらが何をしてくれた! 影すら見たことがない!」
声は火のように群れのなかを駆け抜けた。
うつむいていた村人が、ひとり、またひとりと顔を上げる。
何十年も押し込められてきた言葉が、地窖の扉を蹴破られたみたいに、次々と溢れ出した。
「ローワン家の犬め!」
「灰葉村から出て行け!」
「領主は吸血鬼だ!」
「お前ら兵士は、俺たちにだけ強がる!」
ダミアンの顔色が変わった。
彼は若い猟師を離し、一歩後ろへ下がって兵に怒鳴った。
「何をしてる! 全員、押さえつけろ!」
兵が何人か前に出て、群れを割ろうとした。
しかし今回は、昨日のようにはいかなかった。
老女が一人突き倒されると、隣にいた男たちがすぐに兵を突き返した。
混乱は堰を切った水のように、あっという間に広場全体を飲み込んだ。
先頭に立った男が土塊を拾い、ダミアンの方へ投げつけた。
土塊は外れて、兵の肩に当たった。
その兵は慌てて長棍を構え、叫んだ。
「下がれ! みんな下がれ!」
誰も下がらない。
さらに多くの者が石や土塊や瓦片を拾った。
狙いはない。
ただ兵に、ダミアンに、あの黒地に白い鹿の旗に向かって、投げつけた。
「お前らは帝国が飼ってる黒い犬だ!」
老人が群れから出てきた。
片足を引きずり、顔に古い傷がある。
目は血走っていた。
「俺の息子は北で死んだ! 帝国の国境を守って死んだんだ! その命が、お前らの麦一袋にもならなかった! なのに、よくも村に入ってきて、あれを捜せこれを捜せと! 捜せ! 俺の命を捜せ!」
「領主は俺たちから麦を搾り、お前らは命を搾る!」
「帝国もクソだ! 竜騎士もクソだ! みんな人食いの鬼だ!」
若い女が赤子を抱えて前に出た。
泣き声は裏返っていた。
「俺の男を返して! あの人が何をした! 何もしていない! ただ税を払えないだけだ! お前らは殴って、捕まえて、犬に咬ませた! お前らは人か!」
「獣だ! 獣だ!」
「お前らこそ焼き殺されるべきだ!」
「焼いてしまえ!」
「そうだ! 血を吸うやつらを焼け!」
石が飛んできた。
レオンの灰色の馬の前足の横に落ちる。
馬が鼻を鳴らし、半歩横にそれた。
また石が飛んできた。
今度はレオンの外套に当たって弾んだ。
もうひとつ、レオンの額をかすめ、細い血の筋を引いた。
ますます多くの人が彼を取り囲んでいる。
レオンは、吐き気を催すような窒息感に襲われた。




