第21R 下からの攻撃
東京大賞典。
また、戻るべき場所に戻って来た。
ココロノソニック 2.5倍
ラインラインライン 6.7倍
フィールマイハート 18.3倍
カースブレイカー 20.2倍
僕が一番人気で、五番人気が50倍越え、八番人気から万馬券。
そして二~四番人気が、この前と同じ三頭。
フィールマイハートとカースブレイカーはかなり空いているが、ラインラインラインはチャンピオンズカップであれだけ離したはずなのにまだ食らいついている。
(僕は勝つ。他に何をする事もない)
二年ぶりの年末。
二年前は挑戦者様、嘴の黄色くて尻の青い若造のお上りさんで居られた僕。この時点でGⅠ四つも勝ってたくせにとか言う文句はあるだろうけど、まだこの浮かれ上がった若造をぶっ叩いてやると言う空気の中にいたと言う確信はあった。実際レースでも最初から飛ばした僕に多くの先輩たちがすぐ後ろから攻撃をかけ、この小生意気な小僧を潰してやろうとした。既に二度古馬を倒したくせに駄目で元々とか言う別の意味で思い上がっていた僕は、その思い上がりを矯正される事なく今まで来てしまった。
不幸と言えば不幸かもしれない。でもそう感じるには得た物が多すぎる。失った物も少なくないが、それでもその後GⅠをさらに五勝したって事実は消しようがない。
「こんな人気になって満足か」
「相変わらずだね、煽りを入れないと死ぬ病気にでもかかってる訳」
「お前も言うじゃねえか、少しは擦れて来たか」
「油断させておくに越した事はないんだよ」
「余裕がないようで何よりで」
真っ白な帽子を被る事になったおかげかカースブレイカーの悪口はさらに加速している。そして少し付き合ってやるとさらに乗っかって来る。ちょろいとしか言いようがない。確かに彼の言う通り僕が彼の次元に下りて来ているのかもしれないが、だとしてもそれで彼を油断させ敵を減らせるのならばそれに越した事はない。カースブレイカーも二の矢を放って来る辺りなかなかやるが、一撃離脱だって兵法だ。これ以上絡む必要もない。敵前逃亡と思ってくれるならばそれでもいい。
「ココロノソニックさん」
「ラインラインラインか」
「ぼくはあなたを倒します、一勝一敗ではなく勝ち越します」
「悪いけどそうは行かない」
「勝ちます。絶対に勝ちます」
「その意気だ」
ラインラインラインは相変わらず爽やかだ。その爽やかさの上に闘志が乗っかっている。僕と違って挫折を知り、その上で強大な壁であったはずの存在を乗り越えた所にまた立ちはだかって来た僕。何としても乗り越えなければならない存在を前にして、今日の彼は燃えている。これが健全な関係と言う物じゃないんだろうか。
「やる気満々だねえ」
「あ、カースブレイカーさん」
「言っとくがココロノソニックは勝利への執念が半端ない。頭はいつも冷えてるくせに内心では炎がたぎってやがる。その上でルール違反には厳しいくせにルール違反でなければ何でもやる」
「なるほど…」
「それでもお前は戦う気か」
「戦わなければ乗り越えられませんから」
「俺は止めないぞ。フィールマイハート、何とか言ってやれ」
「ボクだって帝王賞は二走ボケのおかげとか言われるの嫌だからね、本気でココロノソニックさんを倒す」
「まあお前らがそれならやってやるけどな、後悔すんじゃねえぞ」
「「わかりました!」」
カースブレイカーの人気は不思議だ。乱雑な口ぶりのくせにラインラインラインだけでなくフィールマイハートにも好かれ、他の多くの馬にも笑顔を向けられている。不良が少し優しい所を見せるとギャップで好かれるとか言うけど、カースブレイカーもそうなんだろうか。いずれにしても僕は今回も話す相手は山本さんしかおらず、そしてそれを不足に思ったことは一度もない。
もし山本さんが騎乗停止とかで急にいなくなったらとか考えなかった事はないでもないけど、その時にはその時で新しい騎手の人と普通に話すだけ。それまでの事のはずだ。
「作戦は」
「前走と同じで、それで行けます」
「わかったよ」
以心伝心と言う訳でもないけど、僕と山本さんの会話はそれで終わった。寂しいとかじゃなく、これで十分だった。
あ、歓声だ。僕に向けられたのがどれだけあるか分からないけど、それでもこの歓声こそレースでありファンファーレこそレースの証だ。ひるむならばひるめばいい、その分だけ僕にとって好都合なんだから。
『さあ3枠5番ココロノソニック、前走やはりと言う所を見せ付けた絶対王者、今日も先頭でゴールするのが役目だと言わんばかりにふんぞり返っております』
ふんぞり返る、か。
確かにそうやって威張ってるところがないとは言わない。でもそれもまた相手を威圧しひるませるためだと思えば悪い話でもない。
ゲートにもすっと入る。奇数番と言う事で先入れだけど別に気にはならない。毎回毎回偶数とか言う虫のいい事なんかないのだから。
あ、ゲートが開いた。タイミングはよし。
作戦通り、しょっぱなから飛ばす。
二馬身、三馬身、五馬身。
それぐらいの差を付け、中盤落として引き付け、そして逃げ込む。
チャンピオンズカップと何も変わらない、変える必要もない。
ただ、敵までは用意できない。
『おっとラインラインラインも付いて行っている!そしてカースブレイカーもいる!』
これしか勝つ方法がないと見たのか。これまでのようにある意味死んだふりを決め込む事は出来ないと見たのか、それともこっちの勝ちパターンを潰せば完全に越える事が出来ると見たのか。いずれにせよ負けてやるつもりは毛頭ない。
「行っていいですか」
「もう少し引き付けよう」
山本さんの指示に従い、じっと構える。もう少し迫って来るならばその時が狙い目。迫って来ないならばこっちだって余力は残る。息を入れさせないつもりだろうけどそんなにうまく行く物か。
……来た!
『ここでココロノソニック!動き出した!後続との差を再び突き放しにかかる!』
付いて来るのか?来るなら来い、このまま潰れたいのか?覚悟もなしに来たわけでもないだろう。
来てる。来てる。本気で倒す気だ。だからこそ、ここで勝つ事には意味がある。
絶対的な勝負付け、絶対勝てないと思わせるために、三頭ともなぎ倒す……。
三頭?
いや、そんな事はどうでもいい、二頭でも三頭でも、敵は敵だ!!
最後の直線の様に突き放す。それでも付いて来るならばもう止めない。先に潰れるのはそっちだ。それは自業自得だ。
ほれ見ろ、最終コーナーに入る前に止まってるじゃないか。少しスローダウンしたのにちっとも詰めて来ない。
勝ちたい気持ちはわかる、けどそれは勇気じゃなくて無謀だ。
残念ながら、無謀だ。




