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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
第三部 弟たちの逆襲(五歳)

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第16R 「汚い勝ち方」

「井の中の蛙大海を知らずであり、あれは本気じゃなかっただけって事ですね」

「あれはあの時の本気だった、今はこの時の本気だった、それだけだ」

「次からは本当の本気のココロノソニックさんが見られると言う事ですか、楽しみにしています」


 打ちのめされたはずなのに、ラインラインラインの言葉も顔も爽やかだった。

 

 実際




一着 ココロノソニック

二着 ラインラインライン 6

三着 カースブレイカー 1

三着同着 フィールマイハート




 なんて大差が付いたし(三着同着なんて事が起きたせいで少し時間がかかったけど、その分こうして話も出来ていた)、相当な打撃を受けていてもおかしくはないはずなのにだ。


「なぜ強くなれたんです?」

「絶対負けたくないと思ったから」

「負けたくない、確かにそうですね。ぼくは元々芝で叩き落とされた馬です。申し訳ありませんけど、ずっとエリート街道をたどって来たココロノソニックさんにちょっと嫉妬してたんです」

「他の馬に嫉妬しない馬なんかいないよ、ってエリート街道って」

「僕はレパードステークスで負けてたら永遠の負け犬、一発屋で終わっていましたから…」


 ラインラインラインは挫折を知っている。そして僕は知らない。


 二連敗?どっちも本職じゃない芝のレース。

 ドバイワールドカップの敗戦?人気と同じ三着。

 三連敗?全部僅差の二着。


 もちろん敗北にも大小あるにせよ皐月賞五着ドバイワールドカップ三着GⅠ三連続二着だなんて十分スーパーエリートのそれでしかない。これを嘆いていたら他の馬に失礼である。



 ましてや大台に乗ってしまった身としては、それを挫折とか呼ばねばならないのかもしれない—————。



「僕はあなたに追い付けるでしょうか」

「引き離したいよ」

「そうでしょうね、でも僕だって負けたくはありません」

「僕のいない所で勝ってね」


 そして僕は、現役でいる限り戦い続けなければならない。白星を一つでも多く積み重ねなければならない。

 GⅠ級レース十勝と言う文字通り桁違いのはずだが、されどまだ最多記録ではない数字しか持っていないのが僕。

(次は東京大賞典…ここで勝ってやっと最多タイ記録…)

 来年いっぱいは現役が出来ると思いたいけど、来年故障なしで過ごしたとして何回レースを走れるだろうか。今回はたまたまこんな圧倒的な形で勝てたけど、次もうまく行く保証はない。


 また、同じ戦い方で戦うしかないのだろうか。

 しかし実際成果は上がったし、何よりこのやり方を他の馬が破れるのか想像が付かない。

 力任せと言うか力がないと出来ないやり方。誰よりも乱暴で、強引で、個性と言うには憚られそうなほどのやり方。



 不思議なことに、僕はすぐに冷静になった。

 あれほど燃え上がるだけ燃え上がったはずなのに、ここまであっさり鎮火するのか。

(習い性となる?いや、そんな事僕は心掛けていない。だとしたら……)

 僕は、結局冷めきった馬なのか。他の馬のように、心底から燃え上がり全てを焼き尽くす事も出来ないのだろうか。燃えるべき時だけ燃え、冷めるべき時は冷める。全く正しいはずなのに、それを皆よく思わない。なぜなんだろうか。

 だとしたらもう、他の馬が言うように僕はもうそういう存在なのかもしれない。それなら、僕はそのまま生きて行く。それで何か不都合がある訳でもなし、これまでもそれで成功して来た。他者の勝ち星を奪うのは忍びなくはあるがそれでもそれが勝負事だったし、単純に負けるのは嫌だった。その負けるのが嫌で白星を重ねまくって来た。


 それが、この僕、ココロノソニックだった。




※※※※※※




「てめーは俺を怒らせたってか」 

「自分で自分に怒ったんだよ」

「ハイハイ、フィールマイハートもグランルークスもラインラインラインもお前を怒らせたのがいけねえんだよ」


 アッパーグレードも昔はそれなりに愛想があったはずなのに最近では二言目にはこの調子だ。

 アッパーグレードなりに僕の勝利を褒めてくれているのは分かったけど、僕はラインラインライン以下他の馬に対して敵意はない。あくまでも対戦相手と言うだけだ。

 向こうだって同じ目標を目指すだけの存在であり、敵ではあっても悪意はない。僕を怒らせたのがチャンピオンズカップにおけるラインラインラインの敗因だって言うなら、僕は一体何頭の馬を怒らせて来たのか。


「で、東京大賞典行くのか」

「行くって先生が」

「世間の全てを黙らせて満足か、いやお前の視野は目の前のレースにしか向いてねえな。少しでもなめていた連中はあの一戦でみんな黙っちまった。俺がこうしてこんな口を利けてるのも同期であり同厩舎であり俺がGⅠ二勝馬であるからだ。そうでもなきゃお前みたいな奴とこうしてタメ口なんか叩けやしない」

「……」

「何いまさら俺らのレベルまで下りて来てるんだか、普通に何か言えよ」

「アッパーグレードが言いたい事を言い終わるまで待とうと思っただけだよ」

「お前は強い。その強さに浅野先生はおびえた。だからスプリングステークスとか皐月賞を使った。でも、ダメだった。お前は並大抵のエリートじゃねえからな」


 東京大賞典では、また指定席に戻るだろう。

 ただ人気が戻ったとしても着順も戻さねばと言うか定着させねば意味がない。そんな僕にカースブレイカーは悪態を付きながらも迫って来る。フィールマイハートやラインラインラインは正々堂々と挑んでくれる。第四、第五の敵が出ないとも限らない。今からでも調べたい。その程度には僕は話し相手に不足していないつもりだし、タメ口を利かれてもどうとも思わない。

 だがその強さを僕が実感したのは、二年前のJBCクラシックぐらいからだった。ユニコーンステークスぐらいまでは一戦一戦必死だったし東京ダービーやジャパンダートクラシックを勝った後も所詮は三歳馬同士でしかないしで済ませていた。浅野先生は僕よりも前にその強さに気付き、芝のレースを使って僕に惨敗と挫折を味会わせたかったらしい。でも結果は勝利ではないが惨敗とも言えないそれであり、その結果浅野先生も諦めてしまったらしい。何を諦めたのかはわからないけど、とにかくいつの間にか僕は浅野先生をして手に負えない何かになっていたらしい。並大抵のエリートじゃない何か、らしい僕に抗う事をやめたと言うのか。その時の僕は、負けたと言うのに。




「何だよ、あんな汚い勝ち方して!」

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