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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
第三部 弟たちの逆襲(五歳)

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第13R 黙れよ!!

「言われたんだよ……!ココロノソニックの全弟の癖にダートはダメなのかって、思いっきり馬鹿にされてさ!」


 ココロノサケビは、名前通りと言う訳でもないだろうけど全力で叫んでいた。


 ココロノサケビと言う存在を確かめようにも、ココロノソニックと言う存在をどうしても見ずにいられない。ましてや新馬戦と言う自分自身の持ち物など何もない舞台ではココロノソニックの存在は非常に重くなる。ダートであれほどの実績を重ねた存在の全弟ならば同じように得意だろうと言われてもしょうがない話だった。


「そんなのはみんな通る道だ」

「違うんだよ!ちょっと悔しくて歯を食いしばったらココロノソニックみたいにいっつも澄ました顔してこっちを見下すような走りもしないのかって!」

「ええ?」

「そう思われてるって事だよ、あんたは!」

「そんな風に思ってる存在を相手にする必要ってあるの?」


 澄ました顔をして見下すような走り…?

 何を言っているんだ?

 僕はいつでも勝利を得ようと必死になっている。この二年間GⅠしか走ってないからその度に真剣になっていたはず。もしスプリングステークスとか皐月賞とかの事を言いたいのならばそれはもう過去もいいとこでありいい迷惑だ。確かにそれらのレースではあまり気合を入れず本気とは言えない走りをしていたのは認めるが、その後の二年以上のレースを本当に見ていないのか。本当に分かっていないのか。

 そんな端的に言ってただのバカか、それともその事を承知で言って来るような性悪な輩など、いちいち気にしていたら身が持たない。

 まさかその流れでレース中に妨害を受けたのかと思ったけど、そんな馬鹿な事をする輩が他にいるとは思えないし思いたくないし、実際ココロノサケビがレース中に何らかの妨害を受けたと言う話はどこにもない。

「そうやって殊勝ぶっている姿がどう映るか、考えた事ないのか」

「殊勝ぶるも何も、普通にやってるだけなんだけど」

「ボンバーエンドさんやアッパーグレードさんも言ってたけどな、ホンモノには勝てないって。でもホンモノがホンモノである事を理解した所ではいはいわかりましたと受け入れて対応できるような馬がどれほどいるかわかっているのかって話だよ」

「正々堂々とやって勝つのが僕らの本懐だろうが、汚い手で掴み取ったそれは汚いそれとして一生語り継がれ後ろ指を指される。正々堂々と戦って勝つ存在こそ尊ばれるべきだ」


 自分が言ってる事が間違ってるとは全く思わない。確かに勝つ事は重要だ、勝てば官軍負ければ賊軍ではある。でも卑劣な手を使って勝利を得たとしても紙の上では勝利として残るのは間違いないがその時の行いは競馬場にも馬にも人間にも染み込む。まるっきりの清廉潔白であれとか言わないけど、相手がいくら強いからって許されない手段に走ったらおしまいだ、ましてやそれが自分の勝利のためではなく相手の敗北のためなど。


「それが出来る存在がそれを言うと何が起こるか分からないのか!」

「有言実行が大事だって分かるって事か、ああ今の僕はなかなか勝てずに有言不実行状態に陥っているからダメだって訳か」

「もういい加減黙れよ!!」

「だ…」

「何の欠陥もない存在が上にいる限り、下にいる存在はずっとその頂点の存在を目指せと言われ続ける!そしてあんたは元から優しくて誠実な上にそうやって自分自身清廉潔白であろうとしているから余計に息苦しくなる!」


 息苦しくなる?勝負なんて常に緊張していて息苦しいもんじゃないか。もう僕はそこまで若いつもりじゃないし、人並みに勝負事にも慣れたつもりだ。


「もし僕がこれっきり消えたとしても次に来るのはラインラインラインだ。彼だって性格はかなりいいと思うけど」

「あの馬は芝のクラシック路線をたどって失敗した事があるから隙があります!」

「僕だってここで三連敗して」

「だからそうじゃなくて!単純に!生き物らしくして欲しいんです!」

「直線並ばれた時、迫られた時、とにかくこのままでは勝てないって時は感情をむき出しにしてるつもりだけど」

「勝っても喜ばず、負けても悔しがらず、いずれにしてもさあ次!それはあまりにも機械的であり無機質です!」

「僕だって必要なだけ」

「それが機械的だって言うんだよ!」

 



 ラインラインラインには隙がある(僕にはない)、生き物らしく(ない)、機械的、無機質。

 

 要するにそんな風に思われてるって訳か。


「すると何か?むやみやたらに当たり散らして過去の栄光に縋るようなしょうもない存在で居ろってのか」

「その方がましかもしれませんね!今のあんたに付き合えるのはそれこそ覚悟を決めたような頂点の中の頂点の存在だけですから、ちょっとぐらいみっともない方が憎みがいがありますよ!いい意味でね!」

「憎まれる事は正しいのか?」

「王者は」

「僕はもう王者でも何でもない」

「ああもういいです!」


 そして僕は少しばかりその期待に応えて見せようとしたのに、ココロノサケビは匙を投げてしまったようだ。

 一番偉い奴が立派であればあるだけ下の存在は辛くなる、感情の行き場がなくなるだって?確かにそれはその通りだ、言いたい事は分かる。でも強い奴の中の一番強い奴を決めるのが競馬だ。何より今の僕は、あまり認めたくないが多分王者ではない。王者でも何でもないのに空威張りをするのはちょっとぐらいのみっともなさじゃない。

 威張るならば威張るべき地位を得てから威張る。それは当然の話じゃないか。

 僕だってかつてGⅠ級レース六連勝とかした時には自分なりに得意満面のつもりだったし、僕こそ最強かもしれないと思いもした。そんな流れでドバイに挑んで跳ね返されたわけだから、そんなに勝ったとしても僕は所詮ローカルチャンプだと思い直すのは当然だろう。そんな中故障もし、今こうして三連敗をも喫した。

 

 ならば。




 これまで以上に、調教に気合を入れる。

 次こそは負けぬとばかりにレースをチェックする。

 相手の事を調べる。


 そうだ、僕はそうやって今までやって来た。何も変わらない。変える必要もない。


 ただ、初心に帰るだけだ。

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