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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
第三部 弟たちの逆襲(五歳)

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第10R 異世界王者・ラインラインライン

 凄まじいまでの歓声が、大井競馬場を埋め尽くす。




 勝者の名は、ラインラインライン。





 ラインラインラインと騎手の人の名が鳴り響く。

 僕らは、いや僕は実に情けない存在だった。


 決して、見落としていた訳でもない。

 だがどうしても、違った世界の存在に思えた。


(逃避して来ただけの存在…)


 それが、ラインラインラインと言う名前によって積み重ねられて来た印象だった。




 僕は、誇りに思っていた。自分がダートの世界で生きて来た事を。


 20世紀末までダートにはGⅠレースすらなく、芝よりもはるかに格下のそれとして見下されていた事を僕は知っている。

 今でも中央競馬のダートのGⅠレースはフェブラリーステークスとチャンピオンズカップの二つだけで、これは障害レースのGⅠと同じ数でしかない。しかもどちらも左回りの競馬場で行われるそれであり、十個ある中央競馬場のうち七つで使われる右回りが得意なダートホースはどうすればいいのだろうか。ついでに言えばGⅡはプロキオンステークスしかなく、文字通りたった一つだ。GⅠよりGⅡの方が少ないのだ、しかも1400mと言う短距離戦でありそこに対応できない馬はGⅡを勝つ事など不可能と言う意味だ。


 さらに言えばフェブラリーステークスと言う名前自体あまりに安直だし、チャンピオンズカップと言うのはもともと「ジャパンカップ」ダートと言う国際交流レースだったはずでありチャンピオンズカップと言う呼称は正直格落ちと言うか都落ちだ。

 いずれにしてももし中央競馬におけるダートの地位がもっと早くから高まっていれば多くの馬がGⅠ馬となり種牡馬入り出来て血統も繋げたし、今ではもっと多様な目標が広がっていたはずだ。フェブラリーステークスはマイル戦、チャンピオンズカップは1800m。要するにスプリント戦も長距離戦もない。3000mとまでは行かないにせよ2400mのレースぐらいはあっても良さそうなものだが、この日本で行われる2400m超のダート戦ってのは条件戦だけでありマイナーもいい所だ。その分を地方競馬が補っているとか言うかもしれないけど、地方競馬は地方競馬でしかない。

 中央競馬の未勝利戦の1着賞金は590万円だが、地方競馬の一般クラスの1着賞金は60万円ぐらい。文字通り桁が違う。どうしても中央競馬にいる存在はエリートであり、地方競馬にいる存在は二軍だと言う扱いになってしまう。中央競馬で通用しなくなったから地方競馬に流れたと言うケースは枚挙に暇がなく、そして言うまでもなく地方競馬=ダートであるため、ダート=二軍となってしまうと言う次第だ。まったく、嫌な三段論法だ。




 そこにやって来た、ラインラインラインと言う存在。


 二年前に共に芝マイル戦のデビュー戦と二戦目の芝1800mの条件戦を連勝し、朝日杯フューチュリティステークスと言うGⅠレースを制した芝の世界のエリート。それからずっと芝の世界で生きて行くであろうと本馬でさえも思っていたはずだ。

 だがそんなラインラインラインに突き付けられた現実はあまりにも厳しかった。

 弥生賞八着、皐月賞十二着、日本ダービー十五着。

 距離のせいなのか、それとも単に弱かったのか。

 これまでの三連勝などまぐれに過ぎないのだと言わんばかりの惨敗、惨敗、惨敗。最優秀二歳牡馬と言う肩書はボロボロに剥がれ落ち、スーパースター様は半年で過去の存在になった。

 だからこそダートと言う新境地に活路を求めたのだろうが、芝でやる事をやり尽くしたからダートを走るのは勇ましい「挑戦」であり芝で負け続けてダートを走るのは「逃避行」だ。まだ何も知らない場所へ行けば変われるかもしれないと言うのは人間でもそうだからありふれたお話だが、現実はそう甘くもない。

 誰もがそう思っていたし、僕だってそう思っていた。



 そう言えば二年半前、何故浅野先生は僕をスプリングステークスに使い、皐月賞に使い、さらに有馬記念にまで使おうとしたのかまだ聞いていない。それなりに結果も出たしそれなりに楽しかったし悪い思い出でもないけど、また芝を走ろうかと言う気にはならない。もう過去の話だった。


 二刀流。そんな言葉はよく聞く。でもそれが出来るのは超一流だけであり、芝には芝の、ダートにはダートのスーパースターがいる。その両方に勝たなければいけないだなんてそれこそ天才のそれじゃないか。

(僕は自分が強いと思った事はある。でもそれは自分が必死になって調教を受けて来たからであって元々こんなだった訳じゃない。秀才であっても天才じゃない。

 ラインラインラインのように)


 ラインラインラインは、桁外れの存在だ。


 前々走のレパードステークスの勝ちっぷりが平凡だったせいで曇っていた僕の目は、本来前走のジャパンダートクラシックの段階で覚めるべきだった。

 いや、できなかっただろう。

 ラインラインラインのジャパンダートクラシックの勝ちっぷりは、やはりそれほど目立つ物じゃなかった。今回と似たようなレースぶりであり、先頭に立ってはいるが大逃げなどせずなんとなくそこにいたと言う感じであり、それなのになぜか誰にも追い付かせずゴールに飛び込んでしまっている。

 タイムも速くないし顔こそカッコイイが走りは魅力的と言うより不思議と言うのが正しく、偶然とか言うには出来過ぎていた。芝のGⅠを勝つほどのスピードの持ち主がそれを発揮しダートのエリートたちを鎧袖一触と言うより包み込むように、かわすように打ち破った。

 

 そう、今回と同じように。


 そして僕は、それを破るのは簡単だろうと甘く見ていた。

 だが自分なりに本気を出し、その相手を破ろうとしたはずなのに、負けた。僕は敗者で、ラインラインラインは勝者だ。


 それが現実であり、声援の大きさがそれを物語っていた。

「ラインラインラインってどんな名前だよ」「現実でもダンスダンスダンスとかナイスナイスナイスっているし」

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