第8R 二度あることは三度ある?
「もう少し悔しいとかないのか」
「ない。負けた事は初めてじゃないし」
二連敗。スプリングステークス→皐月賞以来の二連敗。
でも正直、思ったほど悔しくない。
負けた後、悔しがるだけ悔しがった結果それほど気分は悪くなかった。
もちろん敗因の分析は大事…と言いたいけどそれも僕が彼の事を知らなさ過ぎたからで確定の赤ランプが付いた。
「グランルークスはどこ行くか知ってるか」
「マイルでも一杯一杯っぽいからJBCスプリントとかじゃないか」
「だろうな。お前の前座になるかお前が持って行かれるかわからねえぞ」
「アッパーグレードもまた秋のGⅠ三連戦なんでしょ」
「そうだよ。もう十分な手土産は稼いだつもりだけどまだ引退するかは決まってねえからさ。場合に因っちゃ来年も現役だってよ、ボンバーエンドともこれでお別れかねえ。親が元気すぎるのも考えもんだよほんと」
僕だけでなく、アッパーグレードもまだ来年現役を続けるらしい。今年もヒガシノゲンブさんは150頭以上種付け数を稼ぎ、四年連続リーディングサイアーは確定的だと言う。
そんな存在の「後継種牡馬」など必要なのだろうかと言うのは確かにごもっともだ。でもワンダープログラムさんのように急に亡くなって急に必要に…とか言うにはそれなりに数が揃っているしまだ四歳以下のヒガシノゲンブ産駒の数を見るにつけアッパーグレードの「需要」はそれほど大きくないのかもしれない。
「その点兄さんはすぐにでもやめられますからね」
「ココロノサケビ、素晴らしいじゃないか」
そして僕の「需要」はと言うと、ココロノダイチの初年度産駒である僕には先達はいない。同期もGⅢ勝ち馬が二頭いるだけで客観的に言って桁が違う。ひとつ下も今の所オープン馬が一頭いるだけ。明らかに僕は筆頭の地位でいられる。
「どうせ次は勝った事のある馬が相手だからそんな簡単には行かない、と兄さんは言うんでしょ。いいんです、わかってますから」
「それで次は」
「ボンバーエンドさんにくっついて京都に行きます。エリザベス女王杯に出るそうで」
「マイルチャンピオンシップじゃないのか」
「兄さんには関係ないでしょ」
自然に話に割り込んで来られる程度には、ココロノサケビは皆に好かれている。この前芝マイル戦に出て初勝利を挙げた時には芝で行くのかと思いながらもとりあえず勝てた事が嬉しかったし、この調子ならば僕がいなくても大丈夫そうだった。
「大井に行くんでしょ大井に」
「ああ。今年は大井競馬場だって。帝王賞の無念を晴らさなきゃいけない」
「兄さんが背負わせてきた無念の数はその数十数百倍でしょう、それともそれぐらい面の皮が厚くなければGⅠなんて勝てないと」
「それはわからないよ」
「八つ当たりはみっともないですね、ハイ」
で、そのココロノサケビにも八つ当たりと言われる。
どうしてだろう。
八つ当たりされてるつもりなんか何もないのに、僕に何を言い返せば八つ当たりじゃなくなるんだろう。どういう反応をすれば八つ当たりの烙印から解き放つ事が出来るんだろう。
もし僕に対しての不満を僕にぶつけるのならば、それは八つ当たりじゃない。ボンバーエンドもココロノサケビも、何か僕に対してあまり良くない思いがあるんだろうけどそれをなぜ八つ当たりで片付けてしまうんだろうか。
(八つ当たりって言うなら、フィールマイハートにする事も八つ当たりじゃないか!)
今度のJBCクラシックにおける僕の一番の敵は、おそらくフィールマイハート。あの走りっぷりは僕にないスマートな物でありその方向では勝てない。
フィールマイハートはこれまでのレースを見る限り、ダートなのに泥臭さはなく後ろからすっと抜け出すと言うか切り落とすようなレースをやる馬だ。これに勝つには真似をするのではなく自分のレースをやるしかない。
自分のレース、そう、力押しだ。
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「お互い様とは言え何べんも何べんもやって来てよ、飽きねえのか」
「飽きないよ」
「っとにいちいちご立派なこって。フィールマイハート、こういうのが天然物っつーんだよ、わかるか?」
「憧れはしますけどなるのは無理ですね」
「憧れねえ、憧れと理解は真反対って聞くけどまあそういうこったね」
爽やかなイケメンのフィールマイハートと、不良キャラのカースブレイカー。当然の如く牝馬たちから黄色い声援を浴びるフィールマイハート。JBCと言うのはスプリントとクラシックの他に牝馬のためのレディスクラシックもあり、ダート界の一流牝馬たちが集っている。
だから当然クラシックには牝馬は来ない(スプリントには来てる)し、JBCクラシックが始まる前にレディスクラシックが行われるから牝馬たちはある意味落ち着いて見る事が出来る。もちろんイケメン目当てのミーハーな牝馬がここまで来られるとは思えないけど、そんな強者たちでも目を引き付けてしまうのがフィールマイハートなんだろう。
でも実際、馬の価値は強いか弱いかでしかない。勝てば勝つだけ名は上がり、負ければ名は下がる。種付けだって結局人間同士の都合であって馬同士の都合など知った事かいでしかない。もちろん牝馬たちの声援を受けて力が湧くってのはあるんだろうけど、プレッシャーにならないとは言えない。結局は一頭一頭の心持ちでしかない訳だ。
単純な話、馬券の人気と着順が一致しないように牝馬たちの声援の多寡と着順だって一致しない。
「まさかグランルークスに妬いてるのか」
「妬いていて欲しいの?」
「あーはいはい一般家庭育ちから突然変異したおぼっちゃまはよ…」
JBCスプリントで馬券的にも牝馬たちからの声援も一番人気だったグランルークスは、南部杯と同じように先頭で飛ばすも油断していなかった他の馬について行かれ、直線に入っても勢いは衰えなかったが真後ろにいた馬————————去年の南部杯以来一年間一緒に走っていなかったネヴァーロストさんに抜かれ二着も守り切れなかった。
それが現実であり、僕がこれからみんなに見せねばならないそれなのだ。




