天下一を取ったけど
三年連続リーディングサイアー。
七年間でGⅠ二十四勝。
ここまで輝かしい称号もそうそうない。
だけど、俺は期待に応えているとは思っていない。
「でもどうやって頑張れっつーんだかよ」
実際、種付け数を決めるのは人間だし俺が頑張れるのは必死にやって来た牝馬を受精させる事だけ。その結果を決めるのは競馬場の上だけであり、俺は一切干渉できない。自分なりに頑張って八割以上の受胎率を上げてるけど、それがスーパースターを生み出す事にはつながらない。
そう、「スーパースター」を生み出す事には、つながらない。
「結局引退ですか」
「最後まで馬券には絡んだけどね、今後は種牡馬となってとりあえず年間七十頭程度の種付けを集める予定だそうだ」
「はいはーい」
例えばついこの前、マイルチャンピオンシップ三着に終わり引退した俺の息子。
NHKマイルカップを勝った時にはもっと行けると思ったが、それから二年間で勝ったのはGⅡとGⅢだけ、GⅠだといつも掲示板止まり。結局更なる勲章を積み重ねられねえまま、五歳一杯で引退が決定、種牡馬入りが決まった。
そう、俺は七年間で二十四個GⅠを取ったが、いわゆる単発の馬がめちゃくちゃに多い。
GⅠを二勝以上したのは五年連続GⅠを制覇した初年度産駒の牝馬・ノーザンスザクと、皐月賞と大阪杯と言う俺が勝てなかったGⅠを取ったミナミノコウリュウだけ。今んとこミナミノコウリュウが俺の筆頭後継として三ケタの牝馬を集めてるけど、まだ来年産駒が一歳になるばかりだしどうなるかわかりゃしねえ。
マイルチャンピオンシップも勝てる、春の天皇賞も勝てる、フェブラリーステークスも勝てる、それからGⅡ・GⅢ馬も多い。去年は障害GⅠすら二着に入り、それこそどこにでもヒガシノゲンブ産駒がいるだなんて言われた。
だが、最強が、いない。
今年も結局GⅠを四勝しながら複数制覇はおらず、数で押し切っただけとか言われた。
この国の競馬は割とGⅠと未勝利戦の格差が小さい。それこそGⅠを勝つより産駒の層が分厚い方が有利であり俺の勝ち方はそういう勝ち方だった。
「距離は万能で二歳から活躍する馬もいれば古馬になって花開く馬もいるし二歳から活躍するタイプでも古馬になって落ちる事は少ない。ただGⅠクラスの馬は多いが、突き抜けた名馬はいない」
これが、俺への評価として固まっていた。
俺は実際、未だにノーザンスザクどころかミナミノコウリュウを越える馬すら他に出せていない。
そんな情けないリーディングサイアーだ。
何より中核とでも言うべきノーザンスザクは二年前に、ミナミノコウリュウは去年引退。今年のそれは文字通り数の力のごり押し。
だってのに去年、ワンダープログラムはとんでもない物を遺して行った。他にGⅠ馬がいなかったおかげで逃げ切ったが、賞金額の差はわずか二億円。GⅠひとつ持ってかれてたら負けてた差だ。ってかそいつがいない過去二年だって、二位との差は四億円ぐらい。とてもセーフティーリードじゃない。
その挙句、ココロノダイチだ。
あいつはおそらくダートでコツコツと稼ぐ馬を量産し、GⅠを勝つとすれば古馬になって上がって来るダート馬だと思っていた。正直芝で戦う事はほとんどなく、地方競馬のリーディングサイアーを取るかもしれねえと勝手に決めつけていた。
だがなんだあの、ココロノソニックとやらは。
ダート馬なのはいいとしても走るレースみんな圧倒的に勝ちまくり、数馬身差は当たり前。勝てなかったけど四歳にして海外遠征までやってのけ、やはり勝てなかったとは言えGⅠで単勝100円。
文字通り、桁外れの名馬じゃねえか。あいつと違って故障が多く今冬も故障でGⅠをふいにしたが、それでも四歳一杯までGⅠ八勝の功績は絶対に消えない。GⅠ八勝てのはあいつと同じだが、あいつは八歳までかかったってのに。
しかもココロノソニック以外、ココロノダイチの活躍馬はそんなにいない。ああ年末までに他にオープン馬が四頭ほどいたが、それでも最高は重賞三着が二頭だけ。芝での勝ち馬はそれこそ一割いるかいないか。
浅野先生がなぜココロノソニックをスプリングステークスとか皐月賞とか芝で使わせたかはわからないが、少なくともココロノソニックって存在は芝でも戦えるほどのレベルの馬だってことではある。
ノーザンスザクがシャットダウンやココロノソニックに負けてるとは言わねえけど、それでも俺はもう一頭だけでもあんなランクの馬を出さなきゃいけねえ責務がある、どう成し遂げたらいいかわからねえ責務がな。




