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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
外伝 天下一になるって事

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あいつは最期まで

「んなバカな」


 あの時の第一声は、それだった。


 あんな真面目ぶりっ子の典型のような、威張りくさった奴があんなにもあっけなく死ぬだなんて。

 痛かったろうに、苦しかったろうに。それすらも我慢しちまったと言うのか。

 

 いや、あいつはそれなりに変わった。変わっていた。

 俺が現役をやめた直後の秋の天皇賞を豪快な追い込みで制したその時から、あいつは吹っ切れたはずだった。ただ四歳の時はまだどこか甘かったのかその天皇賞一つで終わったが五歳になってからはGⅠ四勝して年度代表馬になり、凱旋門賞にも挑んだけどそっちは三着だった。その走り、中途半端な先行から追い込みに変えたそれは正直きれいなもんであり、菊花賞から宝塚記念のそれよりずっとずっと多くの牝馬を惚れさせるに値する物だった。

 だからって訳でもねえだろうけど、あいつは初年度から俺より高い金でそんなに大差ない数の牝馬を搔き集めた。不受胎なら返還って条件は同じだったが、それでもあいつは多くの牝馬を孕ませてきっちり金を稼いだ。種牡馬としてもライバルとして渡り合って行くもんだってみんな思ってたし、俺も思ってた。


 だってのに、だ。




(一体何人を泣かせりゃ気が済むんだお前は…)


 ワンダープログラムのわずか九歳での死は、言うまでもなくこの国を涙に包んだ。これらも産駒の売り上げで金を稼ごうとしていた牧場主も、ワンダープログラムって存在のファンも、それに彼に憧れてた牝馬も、ついでに俺も。

 罪な奴だぜとか気取る気は俺にはない。単なる大罪馬だいざいにんなだけじゃねえか。さすがに多少は柔くなったと思いたいが、もしさっきも思ったように自分の痛み苦しみを我慢した結果だとか言うならばあの世であった際に蹴っ飛ばしてやる。俺にはその権利がある。

 ココロノダイチには会ってねえけど、あいつも多分同じ調子だっただろう。っつーかおそらくワンダープログラムを変えたのはココロノダイチだ。日本ダービーの日に初勝利を挙げ、あの大阪杯の頃にオープン入り。俺が凱旋門賞を勝った数日前に重賞初制覇って言う控えめに言って晩成型の、少なくともダービーや菊花賞の頃には歯牙にかけるまでもなかったような存在。けれどなぜか俺らとは仲が悪くなかったし凱旋門賞のためにフランスに行ったときに思い出したのはなぜかワンダープログラムじゃなくてあいつだった。

 全く、あいつの一生って一体何だったんだか。


 もしこんな年で死ぬって最初からわかってりゃ、あいつはどうしただろうか。もうちょっと最初から開き直って威張る事もなく、あの息子の様に割り切って走れたのかもしれねえ。そうすれば俺からGⅠの一個や二個もぎとり、いやその前に俺がいじけてたままだったから俺がくすぶったまんまでワンダープログラムが凱旋門賞を勝って殿堂入りしてたかもしれねえ。

 いや、あいつは根っからの優等生様だ。わかったとしても自分なりに清く正しく生きて従容と運命を受け入れただろう。それが他者を泣かせるとわかっていても平然と死に、それで満足するだろう。

「あいつのように、な……」


 ワンダープログラムが遺した最後の世代、ちょうど来年五歳になるその世代からやっと生まれた存在。

 そいつは今、俺と同じ牧場で種牡馬をやっている。それこそ、最初からここに来るために、俺をも上回る二〇〇頭以上の種付けをするために。

 昔々ってほど古くはないけど、わずか一世代しか産駒を残せなかった名馬がいた。でもその産駒の中から現れた名馬は血をつなぎ、現在でも名を遺している。まさかそれと同じ事を起こす気なのかもしれねえけど、そんなうまい話があるもんか。

 …って言いたいけどやりそうなんだよな、あいつなら。言っちゃ悪いけどずるっこく、その存在感を示して晩節を汚さないままに死んで行く。それぐらいの曲芸を、無自覚にやりかねない。そんな「信用」が俺にはあった。


 もちろん俺だってそれ相応の事はやっている。だけどまだ確固たる柱を築けない。そのまま細い柱によって建てられた家がそれなりに活躍してそれなりに生き残って行くのはいいが、俺自身がけた外れの存在になっちまった以上ワンダープログラムが出したそれ並みの奴がいないと世間は納得しない。種牡馬になってからは早死にを込みにしてもワンダープログラムの方が期待外れだと後ろ指を差されまくったのに今や評価逆転だなんて、三つ子の魂百までもとはこの事かよ……。

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