第13R 帝王賞
一応下ネタ注意。
誘導馬になれる事すら、勝ち組。
(98%…いやそれ以上か…)
牝馬ならともかく、牡馬の中で血をつなげるのは2%以下。それも毎年三ケタの牝馬を集める馬となると、それこそ一世代辺り数頭。僕のお父さんでさえも今までの五年間で三ケタに達したのは初年度だけ。もちろん世間的に言えばスーパースターで勝ち組なんだろうけどそれほどに厳しい世界である。
そしてその勝ち組の条件は、GⅠ馬とイコールではない。競走成績は冴えなかったけど兄弟姉妹が優秀だから、血統的な需要があるから、いい走りをしていたけど故障のせいで全力を発揮できなかっただけで子供に託してみたくなったから、そんな理由で種牡馬入りする馬もいる。
要するに、親族に恵まれず血統的な需要がないとか言う馬はGⅠ馬でも種牡馬になれないと言う事だ。実際GⅠを勝ったのに誘導馬にしかなれなかった馬は存在する、実にもったいない話だ。世界は広いとかありきたりな事を言う気もないけど、よその国ならば需要もあったかもしれないのに。もちろん種牡馬となる事が史上の喜びとか決めつける気もないけど、せっかく2%以下の権利を得たのだから有効に使って欲しい。
(シャットダウンはその事を知っていたのか…)
シャットダウンは今年から種牡馬として、二〇〇頭を超える牝馬と種付けをしている。シャットダウンの競走成績を考えれば格安の金額で、しかも不受胎なら返還と言う好条件まで付けて。自分こそワンダープログラムと言う存在の唯一無二の後継種牡馬だと言う自負を背負って新たな戦いに挑んでいる。
僕が世間的にどんな存在か、もうわかっている。ならば同じように、責任を受け止め続けるしかないって事か。
でも、責任を受ける気はあってもヘイトまで引き受ける気はない。
確かに、僕が負かした馬の事を忘れちゃいけないってのはまごう事なき事実だ!けど僕に勝つ事と一着になる事は全然違う。
その事を見失ったらおしまいじゃないか。
勝たなくてもいいレースなんかないとは言わないけど、あくまでも自分のために走る物であり他の馬を蹴落とすのはともかく足を引っ張るのは良い事ではない。そうやって誰かに憎悪を向けて何が得られると言うのか。ココロノソニックを倒してGⅠ馬になる、ならば歓迎だけど。
通い慣れている大井競馬場のはずなのに、気が重い。どれだけの人気になるかとかどうとかより、どれだけの不人気になるのか。そんな事を考えなきゃいけないだなんて誰に聞けばいいんだか。
こんな時に限って時間の流れの速さを恨み、気分を変えようと外に出る。
その途端に、あまり見たくない馬と目が合った。
「ネヴァーロストさん」
「君か…この前は済まなかったとは思う。でも容赦はしない」
「真剣勝負を楽しみにしてますから」
ネヴァーロストさんが帝王賞にも出て来るのは分かっていたけど、それでもいい思いはない。去年のチャンピオンズカップで初めて対峙した時に印象を刻んでおかなかった僕が悪くないと言えば大ウソつきだが、今の僕にとってネヴァーロストさんって馬は清濁併せ吞むと言うより泥水を進んで吞むような悪い意味で泥臭い馬と言う印象になってしまっている。
「真剣勝負、か…それで勝てるとは思っていない。君はもはや何があっても倒さねばならない絶対的な壁であり、どんなに棚ぼたと言うべき形であろうが君に勝てばそれだけで嬉しい」
「枠順はもう決まってるんでしょ」
「ああ。君は好きな内枠だからな、厳しい戦いになるだろう。でも私は修羅になる」
「疲れてるんじゃ」
「お互い様だろう。言っておくが容赦はしない」
迷いがない。
後悔はあるが反省はない。
言葉通り、修羅になってしまったのだろうか。
僕がそうさせたとは思いたくない。
いったい誰が…
「げ」
「げとは何だ、失礼だね」
「カースブレイカーも何やってるんだか」
「何でもいいだろ」
「君はそれでもいいけどさ、ダブルブレードはどの面さげて出て来たんだか」
で、そんな僕の視界に入り込んで来たまた別の馬こと、ダブルブレードとそれとつるんでいるカースブレイカー。ダブルブレードについては言うまでもないけど、カースブレイカーもどうやら同じ穴の狢だ。
「口の悪い事だな!」
「悪くもなるっての」
「おお怖い怖い、と言うかそれでこそサラブレッドって血の通う生き物だよ、引退後にそのチンコで牝馬をよがらせるねえ」
「ない品位をさらに落とす作業は楽しいですか」
「ひゅーこれだからスーパースター様はな、オレらからまだ奪うっつーのかよ、もう勘弁してくれっつーの、またネヴァーロストさんにやられたいのか」
いや、ダブルブレード以上にカースブレイカーは品性下劣だ。いい年して何のつもりだが、ゼロ歳一歳のお子ちゃまじゃあるまいし。これが去年羽田盃を勝った馬かと思うと頭が痛くなって来る。
ああ羽田盃ってのはいわゆる三冠レースのダート版とでも言うべきそれの第一戦であり、スプリングステークスや皐月賞を走っていた僕が出る事のなかったレース。でもそのカースブレイカーを東京ダービー以後全く相手にせずに吹っ飛ばしまくって来たのがフェブラリーステークスまでの僕であり、確かにカースブレイカーのプライドはズタズタになっていただろう。だからと言ってあそこまで品のない事が言えるだなんてGⅠ馬の面子も何もあったもんじゃない。前走の敗因?あほくさ、山本さんの言う事を聞かなかったからじゃないか。
(こちとらアッパーグレードの無念を晴らすって大事な役目があるんだ、くだらない連中に付き合ってられるか)
こんなのを相手しなければいけない自分の運命を、少しだけ呪いたくなった。




