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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
第二部 僕は英雄なんだよ(四歳)

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32/69

第3R 圧勝からの返事

また一つ年を取ったよ……………………

 1.2倍。


 見慣れてしまった数字。

 何せ、これまで戦って来た馬ばかり。

 三番人気の五歳馬ネヴァーロストさんは去年の夏から三連勝してオープン入りし武蔵野ステークスを勝って四連勝でチャンピオンズカップに挑んだけど八着だったし、同い年のカースブレイカーは僕が皐月賞に回っていて出なかった羽田盃を勝ったけど東京ダービー以降僕と三度相対して全部掲示板止まり。六歳のアイムキングスさんって馬は地方所属のままから中央競馬に挑戦してるって事で人気はあったけど去年やはり三度相対して全部一秒以上差を付けている。

 唯一五歳馬のダブルブレードさんってのが相対した事ない存在であり、だから二番人気にされてるんだろう。でも、重賞の勝ち鞍は前走のプロキオンステークスだけ。その前はオープン特別を一勝しただけの馬。確かにそう考えるとシリウスステークスと言うGⅢ一勝でGⅠの常連となったお父さんに似てるかもしれないけど、そのお父さんだってGⅠ初勝利は六歳の時だ。まだ負けたくはない。


 と言うか、正直面倒くさい。



「ココロノソニックと言ったね、ボクはキミを倒さねばならない」

「そりゃそうでしょ」

「今のキミは最強かもしれないけど英雄ではない。英雄の踏み台になるべき存在でしかない」

「え?」

「今のキミはいくら勝っても英雄になれない。それはキミ自身にも良くない。ここで勝ってキミの驕りを正さねばならない」


 パドックの最中にいきなりこう絡まれた。

 驕りを正す。一体何だと言うのか。確かに僕はダートでは負けた事がない。でもそれはたまたまでしかなく、いつか誰かがやって来て僕を負かすだろう事は分かっている。それがいつになるかは知らない。

「シャットダウンと共に走り、全く歯が立ちませんでした。シャットダウンより強い存在などいるのですか」

「無自覚か。だがいずれにせよ、ここにいる十五頭全てがキミを倒そうとしている事は間違いない。その事をゆめゆめ忘れるな」

「はい」

 僕が自分なりに返事をすると、ダブルブレードさんは空を向きながら去って行った。何がしたいのか、何が言いたいのか、本当よくわからない。ここにいる誰もがGⅠを勝つ事を求めている。そのためには僕を倒さなくてはならない。誰だってすぐわかる事じゃないか。


 


 本馬場入場。返し馬。ゲート入り。いつもの事だ。

 内枠と言う事もあり芝は少ないけど、コースが短いと思えばどうって事はない。


 ゲートが開く。よし、スタートダッシュを決めた。


『そしてココロノソニック!今日は二番手です!』


 二番手。ほぼ狙い通り。


「内枠は包まれやすいからね」

 山本さんとの打ち合わせ通り、包まれないように序盤から飛ばす。

 まさか東京大賞典とかのようにみんなして付いて来るかと思ったが、千頭の馬を除くと一、二頭しか付いて来ていない。東京競馬場の長い直線に賭けようと言うのか。確かにその方法は正しいとは思うけど、正しいからと言ってそれだけで決まる物じゃない。

 何より、手綱が動き出した。

 行けと言う合図だ。


『おっと最終コーナーに入る前にココロノソニックが動き出した!』


 これ以上ためらう必要なんかない。直線に入る前に先頭に立ってやる。



 おっと、来た、来た。僕が動くのを待っていたかのように次々と他の馬も動き出して来た。

 その間に先頭に立ち、残る十五頭を引き連れて直線へと向かう。


『さあ直線!先頭は既にココロノソニック!後続は来るか!アイムキングス!アイムキングスが三番手!残り300!ココロノソニックはまだ四馬身リードしている!』


 このままペースを落とす事なく行けば覆される事はない。

 いや、そんなに甘くないと山本さんの手綱が言っている。

『ここでココロノソニックまたペースを上げた!外からダブルブレードがやって来る!ネヴァーロストも二番手争いまで来た!しかし差はまだ四馬身、いや五馬身近くある!』

 追い付こうとした所で引き離されれば心理的に来ると言うけど、現実的にゴールも近付いている。ゴール版さえ真っ先に通過してしまえばそれこそもうどうあがいても無駄と言う物。


 1の看板が見える。残り100m。


 わずかに後ろに目をやる。



 小さい。


 自分の目で見た物を信じられなくてどうするんだとか言うけど、これが現実じゃないか。この現実を前にして何をしろと言うんだ。


 先頭に立つ僕も、他の十五頭も。







『ココロノソニック!ココロノソニックです!もはやこの国のダートに敵はいないのか!』


 …静かだ。


 本当に静かだ。


 結局最後は流すようになってしまった結果三馬身半まで詰まったけど、六つ目のGⅠを獲得した。

「ふー…」

 他に何も言う事はない。まったく、いつも通りだった。


「……………………」


 そして他の馬たちも、客席の皆さんも、実に静かだ。

 山本さんや僕を称える声はあるけど、他の声は何もない。

 その声も秩序立ったそれで実に心地よく、熱狂ではなく熱中であり本当に素晴らしいお客様だ。

 ついでに馬券も単勝120円に続き二着ダブルブレード、三着ネヴァーロストとと言う一~三番人気によるワンツースリーフィニッシュで配当は馬連190円、馬単220円、三連単980円。

 確かにつまんないかもしれない。でもこれもまた競馬のはずだ。


(あるいはこのレースに100万円、200万円注ぎ込んでいた人がいるかもしれない。その人にとって僕は何なんだろうか)


 僕の単勝を100万円買って20万円儲けた人がいるかもしれない。実際こんな倍率になるって事はそれだけ支持してくれてるって事だから実際の売り上げは僕だけでそれこそ億単位だろう。いや、去年の段階で馬券だけで150億円を超えていたから半分だとしても75億円————————————————————。


 75億円。


 少しだけ背中が重くなったけど、それもまた僕の役目でありそれを果たせたと思うと疲労が心地よくなった。

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