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分裂する意思(責任の取り方Ⅱ)~ココロノソニック号物語~  作者: ウィザード・T
第二部 僕は英雄なんだよ(四歳)

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30/70

第1R 理由

 四歳。

 古馬。


 新年を迎えその肩書を背負う事になった僕だけど、気持ちは晴れない。




「あいつは元からそのつもりだったんだよ、か……」




 シャットダウンは、中山から帰って来ないまま北海道へと向かった。サヨナラの四文字さえ言わないまま。


 ワンダープログラムがあんなに早く死んでしまったから、後継種牡馬が必要だった。


 シャットダウンは、その運命をあらかじめ受け止めていた。




※※※※※※




「もしワンダープログラムさんが健在だったらあいつは現役やめてねえよ、三冠も勝てなかっただろうけど」

「それは」

本馬ほんにんがそう言ってたんだよ」


 シャットダウンは、どうせ三歳一杯だろうと腹を括っていた。


 皐月賞、日本ダービーと連敗してれば話は別だったかもしれない。

 だがクラシックホースと言うこの上ない肩書を手に入れた以上、もう現役生活に執着する時間も意味もない。




「ワンダープログラムってのは、ヒガシノゲンブってスーパースター様の陰にいつも隠れる存在だった。ヒガシノゲンブと同じGⅠ五勝って言えば体はいいけど、ぜーんぶヒガシノゲンブがいなくなってからの勝利。どんなに勝ってもヒガシノゲンブがいたらなあってずーっと言われ続けた。ついでにヒガシノゲンブが勝った凱旋門賞で負けたのもあったな」

「でも二頭は親友だったって」

「それはお前の親父がいたからだ。ワンダープログラムはヒガシノゲンブに一方的に負い目を感じ、ヒガシノゲンブはワンダープログラムを威張りん坊だって軽蔑とまでは行かねえにせよ軽視してた。そして人間のファンはそんな事情なんか知らねえ」

「じゃあワンダープログラムさんはもしかして…その、ところてん式に押し出されただけだったって」


 ヒガシノゲンブと言う、破天荒な逃げっぷりで競馬界のみならず普通のファンまで魅了したスーパースター。

 だがそのスーパースターは四歳十月の凱旋門賞をもって競馬場を去り、その直後の秋の天皇賞を勝ったのがワンダープログラム。

 そう、それまでのヒガシノゲンブの日本のGⅠ四勝全てにおいて二着だったワンダープログラム。


「ワンダープログラムって言ういくら真面目に走っても報われねえその姿に共鳴したファンは多くてな。ヒガシノゲンブ派とワンダープログラム派があったって話もある」

「正反対なのがかえって相性がいいんじゃないの」

「それは確かにごもっともだよ。でもヒガシノゲンブが国内に専念してたらワンダープログラムはついにGⅠを勝てなかったとかって言う奴もいたらしい」

「ひどいな!ワンダープログラムさんは自力で勝ってたのに!」

「ああ。後輩の四歳世代を無視した相当にひどい言い草だけどな。実際その世代は親父ヒガシノゲンブとワンダープログラムさんのせいで王道路線を全然勝てず、史上最弱世代なんて揶揄されちまってさ」


 実際、お父さんよりひとつ下の世代はヒガシノゲンブとワンダープログラムのせいで王道GⅠをなかなか勝てず、ワンダープログラムが引退して五歳になったらその下の世代の突き上げを食らってしまい、またダートでもお父さんがいた事もありGⅠ獲得数はかなり少なかった。

 

「まさか…」

「そうだ。そのせいもあってワンダープログラムは下の世代の、皐月賞やダービーで強い勝ちっぷりを見せた事で付いたファンからは人気がなかった。ヒガシノゲンブと違って現役にしがみついて若い連中を蹴落としてるように見えたのかもな」

「そんな!」

「そんなも何も事実だ。正直やるだけの事をやって奇麗に去った親父と違ってワンダープログラムは意外と人気がなかった。神々の戦いとは言え種付け数は負けてたらしいからな」


 血統などの違いもあるとは言え、有馬記念で有終の美を飾ったはずのワンダープログラムの種付け数はヒガシノゲンブより三十頭以上少なく、さらに受胎率も悪かったため二年目からは種付け料を減らしたのにそれでも追い付けなかったらしい。

 と言っても最後の一年の種付け数はヒガシノゲンブが百八十七頭でワンダープログラムは百六十一頭だから本当に上位層の戦いであり、本馬ほんにんたちにしかわからない世界の話だ。




※※※※※※




 そして、シャットダウンのオーナーさんはワンダープログラムの数少ないと言っては何だが熱狂的なファンであり、まだ確固たる後継種牡馬のいなかったワンダープログラムのそれがどうしても欲しかったと言う。

 競馬場と言うのは危険な場所であり、長く走れば走るだけ故障からの予後不良なんて事態が起きてしまう。最良の後継種牡馬候補が予後不良になってしまい血統が断絶したと言う例は決して少なくなく、ワンダープログラムがその二の舞になる事を恐れたと言う訳だ。


(重い…重すぎるよ…でもシャットダウンは満足してたよね…)


 シャットダウンの顔に、もっと出来たはずなのにとか言う色は全くなかった。




 八戦八勝。

 皐月賞・日本ダービー・菊花賞及び有馬記念、そしてGⅡ二つGⅢ一つ。




 もう自分がここで出来る事は全部やった。

 これ以上ここにいても出来る事は何もない。

 だから早く帰して欲しい。

 どこか故障した訳でもないのにとか言う声さえも雑音だと言わんばかりに、あまりにも泰然としていた。


 もしワンダープログラムさんが健在だったら、ワンダープログラムさんが他にGⅠ種牡馬を出していたら。

 そんなたらればほどむなしい物もないけど、少なくとも僕の知っているシャットダウンがいない事だけは間違いない。

 それが僕やアッパーグレードにとってプラスになるのかマイナスになるのかわからない、いやアッパーグレードはプラスになったかもしれないけど僕は多分プラスにもマイナスにもならない。

 

「まあ、シャットダウンにはシャットダウンの役目があるんだよね」


 僕はそれ以上、シャットダウンについて考えるのをやめた。

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