第14R ユニコーンステークス
(くどいなあ…)
僕の期待通り、次は京都競馬場のユニコーンステークスになった。
中一週って事もあって楽な訳でもないけど、それでも疲れはなかった。
だってのに、本当うるさい。肉体的と言うより精神的に疲れる。
もったいない?
先生の決定だ、もったいないも何もあるか。
何が、ダービーは走らないのかだ。ああ、眠い…!
「今度は走らないって何回言えば気が済むんだか」
「永遠に済まないだろうね」
何と言えばいいのか分からない。シャットダウンが言うには僕はせっかく多くの馬が望んで得た権利を自ら放棄する大馬鹿野郎らしいけど、実際に決めたのは浅野先生だし僕もちっとも惜しいと思っていない。やだやだダービーに出たいとでも抗議すればいいんだろうか。
ダービーの優先出走権は青葉賞二着以内、プリンシパルステークス一着、そして皐月賞五着以内。僕は皐月賞五着だからダービーに出られる、らしい。
何なんだそれ、出ると出られるは全然違うじゃないか。馬鹿馬鹿しい。
元々お金はそれなりにあったからその線でも行けたとか言う馬もいたけど、とにかく今僕の頭にあったのはユニコーンステークスの事だけだった。
と言うか、あまりにも多方向から絡まれ過ぎるのはどうにかならないのか。
同じ三歳の未勝利馬や一勝馬だけじゃなく、古馬の皆さんからもよく絡まれる。面倒くさいから放っておいてるけど、一体何がしたいんだろうか。
「アッパーグレードはいいよね」
「俺だっていろんな奴から恨みを買ってる。知ってるだろ、ノーザンスザクさんがGⅠを六個も勝ったって事の意味」
「六回…負かした馬がいるって事?」
「そうだ。何なら未勝利戦一勝するだけでも恨みを買う事は出来る。これから夏だろ、そこも勝てなきゃおしまいだって馬から勝った奴がどう思われるかぐらいわかるだろ」
「うん…」
アッパーグレードの言いたい事は分かる。恨みなんて抱こうと思えばどんな形でも抱ける。
スプリングステークスで僕を負かしたソレガコタエダなんて馬がいなければ、僕はとっくに重賞勝ち馬になれていたのに。皐月賞で一番人気になれていたかもしれないのに。その理屈だって通る。
でもそれをやって何の意味があるんだろうか。ああ、その恨みの力で戦って勝っていずれは僕を負かすって事か。でも僕だってまだ大した存在じゃない。他に強い馬なんて山のようにいる。そして何より僕と当たるとは限らないし、別路線を行った場合勝敗はどうやって決まるんだろう。
確かなのは、シャットダウンの言うようにそんな事を気にするだけ無駄だって事だけだ。
「何だよ、ダートに帰って来られてせいせいしていると言わんばかりの顔しやがって」
で、ユニコーンステークスの舞台となる京都競馬場のパドックでも、僕に絡んで来る奴はちっとも減らない。
ああそうだけど、何が悪い?
ここが本来僕が立つべき場所だ。
皐月賞もダービーも、僕にとっては異世界だった。ちょっとぐらいお邪魔しても良かったじゃないか。
って言うかなぜ先生がそこに僕をやったのかは分からない。分からないけど既に僕の中では「楽しい思い出」になってる。それまでの事だ。
しかし何だろう、単勝1.5倍って。
(こんな経験は初めてだ…)
一番人気。要するに一番勝つ見込みが高いと思われてるって事。しかも1.5倍って、僕が行くと思っていた昇竜ステークスとかを勝って来た馬だっているのに。
今度のレース、実は一番人気になるとはあまり思っていなかった。
ヒヤシンスステークスだってそんなに大差じゃないし、中一週だし、しかもさっきも言ったように普通にダートだけを選んで勝ち上がって来た馬もいるし。ましてや一番人気と言っても、どうせギリギリのそれかと思っていた。山本さんは次はさらに人気が上がるからと言ってたけど、まさかここまでとは思わなかった。
ちなみに後から渡された予想に曰く
「ココロノソニックが格の違いを見せ付ける。皐月賞五着も二着アッパーグレードとの差は0.5秒。元々ヒヤシンスステークスの勝ちぶりからしてダートではまだ無敗の足がここでは生きる」
「ここはココロノソニックだろう。中一週ではあるが疲労はしておらず問題は少ない。外枠未経験だが芝でも戦えるスピードを持っておりむしろ好都合かもしれない。他のメンバーはまだ一勝クラスの馬もいるように層は薄くヒヤシンスステークスで負かされて勝負付けが済んでしまった感のある馬も多い」
だと。持ち上げすぎにもほどがある。
「あーお前、もしかして動揺してるのかー」
「してるよ、こんな外枠が当たっちゃって」
「噓つきは泥棒の始まりだぞー」
そこに突っかかって来る奴もいる。
実際今回の山本さんは何とピンク色の帽子を被っている。もちろん外が空きまくるから走りやすくはあるけど、この前まで阪神競馬場でやっていたので京都の馬場はまだあまり荒れていない。荒れてないって事は内枠有利って事であり、正直あまり面白くない。しかも他の人気馬は全て内枠。不利って事だ。
それにしても安っぽい言い草だ。動揺してると言えばビビってるんだろと迫って来るだろうし外枠が嫌なだけだと言えば一番人気になった事ないくせにとか言って来るんだろう、子どものケンカじゃあるまいし…あ、まだ僕らは子どもで通るな。
でもお互い、もうそんなに同い年でよろしくやれてる時間はない。お子ちゃま同士でのケンカが通るのはもう少しだけでしかない。まああるいは戦術なのかもしれないけど、それにしたってもうちょい賢いやり方がありそうなもんだ。古馬になったらそんなのは通じない。いや、通じて欲しくない。
ぶっちぎり一番人気の役目は何か。そんなのは期待に応える事だって分かってる。いや誰だって勝つ事、勝てなくとも一つでも上の着順を目指す事が重要だってのも分かってる。でも何故か知らないけど、スプリングステークスも皐月賞も心底から真剣になれなかった。なれないのに、結果だけは出た。
自分でも何様なのかわかりゃしない。
でもそんな事を考えるのは後でいい。
今はとにかく、目の前のレースを勝つ事だけ。
と言うか、考えてみれば他に何ができるって言うんだか。




