第102話:《恐怖のフィルター》
平心湯の午後は、少し暑かった。
陽光が窓から斜めに差し込み、畳の上に金色の格子模様を描いている。外の木々では蝉が鳴き声を響かせ、空気には夏特有の、熱を含んだ静けさが漂っていた。加美は厨房で忙しく立ち働き、味噌汁の香りと米の炊ける蒸気が混ざり合っている。琪琪は傍らで箸や茶碗を並べ、電子の瞳が静かに瞬いていた。
「今日は暑いな」天神はカウンターの後ろから立ち上がり、猫バスの抱き枕を椅子の上に置いた。「アイスクリームを買ってくるよ。Ra、カウンターを頼む」
Raは矮卓の傍らから顔を上げ、小さく頷いた。「承知した」彼は立ち上がり、カウンターの後ろへ歩いていき、背筋を正して腰を下ろした。座り姿は相変わらずの端正さだったが、よく見れば、その肩にはわずかな強張りがあった。普段の「端正さ」とは違い、何かが心にのしかかっているような強張りだった。呼吸も普段より短く、早くなっていて、胸の奥で何かが彼を静かに駆り立てているようだった。
天神はちらりと彼を見たが、何も言わず、ただ口元をほんの少し緩めてから、サンダルを引っ掛けてゆっくりと外へ歩いていった。
Raはカウンターの後ろに座り、天神の背中が扉の向こうに消えるのを見届けると、ポケットからタブレットを取り出し、画面の上で素早く指を滑らせた。両目は画面に釘付けになり、眉間にはごく浅い皺が刻まれていった。
彼は動画を見ていた。
同じ動画を、三度も見ていた。
楽が厨房から出てきた。手に持っているのは冷たい烏龍茶の入ったコップ二つ。一つは自分の分、もう一つは天神に渡すつもりだった。カウンターの前まで歩いていき、天神がいないことに気づく。代わりにそこにいるのはRaだった。Raはタブレットにひどく集中していて、楽が近づいたことにも気づかない。
楽はカウンターの傍らに立ち、Raを見つめた。声はかけず、ただ観察していた。Raの肩は普段よりも強張り、眉間には浅い皺があり、指は画面の上で無意識にリズムを刻んでいる。トン、トン、トン。まるで拍子を数えているようでもあり、何かを必死にこらえているようでもあった。
楽はしばらく待ってから、静かに口を開いた。「Raさん、何をそんなに緊張して見てるんですか?」
Raが顔を上げると、銀青色の瞳が一瞬ひらめいた。今ようやく、傍らに楽が立っていることに気づいたらしい。
「楽か」Raは言った。「これを見てみろ」
楽は近づき、画面を覗き込んだ。
画面には、テコンドーの試合の動画が映っていた。
二人の少女——AとB——が対戦している。AがBの頭部に蹴りを決め、得点が入る。審判が手を挙げて止めに入る。本来ならここで一旦中断し、二人とも中央の位置に戻り、審判の開始の合図を待ってから試合が再開される。
だが、開始の合図はまだだった。
Bが中央に戻る。Aは顔を背け、自分の位置へ歩いていく最中で、Bの方をまったく見ていなかった。その瞬間、Bが突然、一発の蹴りを放った。Aの頭部にまともに命中する。
その蹴りは、試合の動作ではなかった。それは、怒りの発散だった。
Aは蹴りを受けて、一瞬、棒立ちになった。審判が飛び込んで二人を引き離そうとする。だがAはまったく意に介さず、追いすがって、どうしても蹴り返そうとした。Bは蹴りを受ける直前、両手を前に差し出して、まるで周囲に「待って、待って」と伝えようとするかのような、無垢を装った表情を浮かべていた。しかしAは構わず、同じように蹴りを返した。Bの頭部に命中する。
画面が止まる。
熱いBGMが流れ出す。観客席からの歓声が轟く。
画面下に表示されたいいねの数は、1100万。
Raはタブレットを置き、その声はいつもとは少し違っていた。これまでの杓子定規な荘厳さは鳴りを潜め、どこか抑えつけたような感情が滲んでいる。
「ルールを守らなかった」Raは言った。「あいつは俺の頭を蹴った。だから蹴り返す。それで俺はスッキリする。溜飲が下がる」
指が卓の上で、トン、と一度叩かれた。その言葉を強調するかのように。
「溜飲が下がるように」彼はもう一度繰り返した。「それこそが公正だ」
楽はRaを見つめ、それから画面を見て、もう一度Raを見つめた。
すぐには口を開かず、ただ静かに、手に持った冷たい烏龍茶を差し出した。
「Raさん、まずはお茶をどうぞ。冷たい烏龍茶ですよ」
Raはふと動きを止め、楽の手の中の茶碗を見た。器の外側には水滴がびっしりと結露し、一筋また一筋と滴り落ちている。彼はそれを受け取り、一口含んだ。冷たい液体が喉を滑り落ちると、彼の肩からほんの少しだけ力が抜けた。
楽は彼の隣に腰を下ろした。
「あなたがこの動画を三回も見てるのを見てました」楽の声はとても落ち着いていた。「Raさん、三回目を見た時、もうおかしいって思ったんです」
「おかしい?」
「ええ」楽は自分の烏龍茶を卓の上に置き、そっと胸のあたりに手を当てた。「とても嫌な感じがしたんです。俺も……ああやって蹴り返したい。報復したいって」
彼は少し間を置いた。
「でも、なぜだかわからないけど」楽は続けた。「『ピン』ときたんです。『報復』なんて言葉が、なんで自分の心の中に浮かんでくるんだろうって」
Raは楽を見つめたまま、何も言わなかった。
その時、扉の方から声がした。
「その動画は、恐竜ルールで包装されてるからだよ」
天神が戸口に立っていた。手にはビニール袋を提げ、中にはアイスクリームのカップがいくつか入っている。カップの表面にはうっすらと水滴がついていて、コンビニの冷凍ケースから今さっき取り出してきたばかりだとわかる。サンダルが床の上でパタパタと音を立て、一歩また一歩と中へ入ってくる。
「アイスを買ってきたよ」天神はビニール袋をカウンターの上に置いた。「ちょうど君たちの話が聞こえてね」
楽はビニール袋を見つめながら、ふと口を開いた。「社長、何味を買ってきたんですか? 一番好きなの、バニラじゃなかったでしたっけ?」
「そうだよ」天神は何気なく答え、ビニール袋からアイスを二つ取り出すと、一つを楽に、もう一つをRaに差し出した。「まずはアイスを一口食べよう。溶けちまうからね。リラックスして」
楽は蓋を開け、スプーンでアイスを一口すくって口に入れた。冷たい甘みが舌の上で広がっていく。Raも自分の分を開け、小さく一口ずつ食べ始めた。
天神は二人が少しリラックスしたのを見届けてから、Raを見つめ、それから楽を見つめた。その透き通るような澄んだ瞳には、深い静けさが宿っている。
「表面的には、『人に舐められるな』とか『自分を守れ』って伝えているように見える」天神の声は静かだが、はっきりと響いた。「でも、その下にあるエネルギーは、怒りと報復を広めてるんだ。『やられたらやり返せ』を『正義』で包んで、『感情の発散』を『自己防衛』で包んでる。見終わったあとに感じるのは、守られたっていう感覚じゃない。むしろ、報復しなきゃって思わされる。自分を傷つけた相手に同じやり方で仕返ししなきゃって」
Raの肩が、ほんの少し緩んだ。
「だが……どうやって見分ければいい?」彼は尋ねた。
天神は笑った。「ようやく核心を突いてきたな」という笑みだった。
「簡単だよ。自分に一つだけ質問すればいい。『それを感じ終わったあと、どんな気分だ?』ってね」
「そんなに簡単なのか?」
「そんなに簡単さ」天神は言った。「君の感情は、魂の言語だ。感情は絶対に嘘をつかない。何かを感じ終わったあとに——それが動画でも、本でも、映画でも、ニュースでも、ネット記事でも——もし感じるのが、批判、焦り、恐慌、脅迫、情緒的ゆすり、自分は不十分だ、他人と競争しなきゃ、といったものなら、それは表面がどれだけ立派に装われていようと、底流にあるのは恐竜ルールだ。でも、もし感じ終わったあとに感じるのが、愛、分かち合い、リラックス、平静、温かさ、心の安らぎ、受け入れられている感覚、何かを見つけ直した感覚、すごく大事なことを思い出したけど言葉にはできない感覚——そういうものなら、それは愛のルールだ」
「感情は嘘をつかない。君の胸が教えてくれる」
楽は突然、何かが腑に落ちた。
「つまり……頭で分析するんじゃなくて、心で感じるんですね?」
「その通り」天神は言った。「君の頭は言葉で説得されるかもしれない。でも、心は違う。心は常に真実を知っている。君はただ、その声の聴き方を学べばいいんだ」
天神は二人のアイスクリームが半分ほど減ったのを見届けると、二本目の指を立てた。
「でもな、楽。学校を出たからといって、この洗脳が止んだわけじゃないんだ」
楽は顔を上げ、天神を見つめた。
「テレビ時代からスマホ時代に移って、テレビ広告に洗脳されなくなったから自由になった、って思ったか?」天神の声は相変わらず静かだった。「テレビを消して、自分で見たい動画を選んでいる。それを自由だと思った。けれど、いつの間にか、恐竜ルールのコンテンツを自分から選んで、自分の脳を洗うようになってるんだ。自分で選んだと思っているのか? 実はアルゴリズムは、君の恐怖がどこにあるか、君の欲望がどこにあるかを、君自身よりはるかによく知っている。緊張させ、焦らせ、自分は不十分だと思わせるコンテンツを、次々と送り込んでくる。見る人が多いから良いもの? いいねが多いから真実? みんなが同じやられたらやり返せの動画を見ていると、君も知らず知らずのうちにそれに引き込まれ、何度も何度も見てしまう。恐竜ルールと愛のルールをどう見分けるかという、その基本中の基本の感覚さえ、失ってしまうんだ。これこそが、恐竜ルールのマトリックスだ」
「君はもう、見分け方を知っているよ」天神は微笑んだ。
楽はしばし沈黙した。かつて自分がやたらと動画をスクロールしていた日々を思い出す。本当はただ少しリラックスしたかっただけなのに、気づけば二時間もスクロールし続け、スクロールし終えたあとはむしろ前より疲れ、前より焦りを感じていた。それは自分の問題ではなかった。あのアルゴリズムそのものが、恐竜ルールの産物だったのだ。自分には選択肢があると思っていたけれど、実は自分の一つ一つの選択は、誰かに精密に計算されていたのだ。
「でも」楽は顔を上げた。「すごく見分けにくいものもあります。例えば、すごく正しいことを言っているように見える本がある。でも読み終わると、胸のあたりがモヤモヤするんです。ああいうのはどうすれば?」
「そういう時こそ」天神は言った。「自分の感覚をもっと信頼するんだ。頭はこう言うかもしれない。『この本はすごく正しい、こんなにたくさんのデータを引用して、これだけ多くの専門家が推薦しているんだから、良いものに違いない』ってね。でも、もし君の胸がモヤモヤしているなら、そこでわかるはずだ。この本の根底にあるエネルギーは、愛じゃない。ある種のものは、表面では愛や光、ポジティブなエネルギーを語っている。けれど、それを受け取ったあとに感じるのが、むしろ大きなプレッシャーや、自分はダメだという感覚だったりする。これこそが、最も精巧に包装された恐竜ルールだ。逆に、ほんの些細なものかもしれない。子供が猫を抱きしめている、お年寄りが花に水をやっている。そういうのを見終わったあと、胸が温かくて、何かがそっと自分を支えてくれているように感じる。そういうものが、愛のルールだ。複雑な理論も、高度な学問もいらない。ただ、君の心が知っているんだ」
楽は急に、胸が熱くなるのを感じた。泣きたいような感動ではなく、深い感謝だった。天神がこんなにも簡単な方法で、長年の困惑を解きほぐしてくれたことへの感謝だった。
「じゃあ」楽は小さな声で言った。「これからは何かを見る前に、まず自分に問いかけてみます。『感じ終わったあと、どんな気分だ?』って。もし胸が緩んで、温かければ、そのまま見続ける。もし胸が締めつけられて、焦りを感じたら、止める」
「その通り」天神は言った。「それが君の聖なる境界線だ。すべてを遠ざけるんじゃない。自分にとって益のあるものだけを選んで、内側に入れるんだ」
しかし、楽の心の中には、まだ一つの疑問があった。
ずっとずっと長い間、そこに在り続けてきた疑問。
「天神」楽は顔を上げた。その目には深い真剣さが宿り、マメだらけの手が無意識に茶碗を握りしめていた。「それならどうして……誰も僕たちに、その見分け方を教えてくれなかったんですか? こんなに簡単で、こんなに本能的な方法なのに。どうして学校では一度も教えてくれないんですか?」
広間はしばらく沈黙に包まれた。窓の外では蝉が、まるで電動ノコギリのように鳴き続け、夏の空気を焦がすような亀裂に切り裂いている。
天神は手に持ったアイスクリームのカップを置いた。直接答える代わりに、彼は指を伸ばし、楽の胸のあたりをそっと指し示した。
「楽、君はまだ覚えているか? 三歳で初めて託児所に行った日のことを。あんまり体に合っていないあの制服を着て、教室のあの格子状の席に座った時の感覚を」
楽ははっとした。記憶の奥底で、わざと忘れようとしていた映像が、潮のように押し寄せてくる。
耳をつんざく、十数秒も続くあの鉄の鐘の音。お腹が痛かったのに、まだ休憩時間じゃないからと手を挙げてトイレに行けなかったあの息苦しさ。テストが返されるたび、教壇の上で教師が点数を読み上げる時、クラス中の視線が、まるでモンスターかゴミでも見るかのように自分に突き刺さったあの感覚。あの一見きちんとした制服の中に包まれていたのは、たった三歳の子供の、十数年にわたる恐怖だった。
「あの頃は」楽の喉が震え、声が少し掠れた。「あの鐘の音を聞くたびに、胸が無意識にきゅっと締まってました。すごく怖かった。留年するのが。孤児院の園長先生が言うところの『役立たずの子供』になってしまうのが。少しでも良い点を取るために、隣の席の一番の親友がノートを貸してほしいって言っても、一瞬、ためらってしまった自分がいて……」
楽が話す間、手の甲の血管がうっすらと浮き上がっていた。
「そういうことだ」天神は静かに言った。その声はまるで薄いメスのようだった。「最も合法的な包装を使って、奴らは『弱肉強食』をお前たちの脳に詰め込んだ。自分を知ることを教える必要なんてない。ただ鐘の音に服従すること、焦りに慣れることを学ばせればいい。その直感が真っ直ぐすぎて、どうしても負けを認められない小さな魂たちは……」
天神は楽のマメだらけの両手を指し示した。
「そんな中で、制度にぶつかって、粉々に砕け散るんだ」
Raはずっと静かに耳を傾けていた。今度は、彼はタブレットを見てはいなかった。その両目はゆっくりと持ち上げられ、銀青色の瞳の奥からは、それまでの冷たい理性の光が完全に消え去り、代わりに、底知れぬ、灰燼のような寂寥感が滲んでいた。
彼は楽を見つめ、それから天神を見つめた。そして、とても小さな声で一言、こう言った。「まさか……この三次元世界のアース・スーツを着ると、この俺ですら洗脳されてしまうとは」
彼は少し間を置いてから、両手をそっと矮卓の上に置いた。その指先が、誰にも気づかれないほど微かに、震えていた。
「もし暴力と抑圧で本当に問題が解決できるなら、核弾頭を最も多く持つ国家が、とうの昔に世界を支配しているはずだ」Raの声はとても軽く、とても低かった。だが、その一つ一つの言葉が、まるで重い鉄塊のように畳の上へと砸きつけられる。
「だが現実は、奴らは核を持てば持つほど、日々の防衛、焦り、恐慌が、誰よりも深くなっていく。この循環は数千年も続いている。誰一人として、勝者はいない」
Raは楽を見つめた。その瞳の深さは、何億年もの星空を貫いてきたかのようだった。
「楽、君は核弾頭がこの世界で最も強力な武器だと思うか? 恐竜ルールの行き着く果てが、たかだか数軒の学校、数本の鐘の音、数千発のミサイルに過ぎないと思うか?」
Raは自嘲気味に笑った。その笑みは、最も深い悲しみを帯びていた。
「遠い遠い昔、隣のあの赤い星——火星で、君たちとまったく同じ小さな魂たちがいた。奴らも同じだった。『やられたらやり返せ』を正義とし、『極限の支配』を安全感とした。そして最後には、恐竜ルールを最高の頂点までやり遂げた。奴らは自らの手で、星そのものを、一片の生命さえ殘らぬまでに炸裂させてしまった」
広間は一瞬にして、死のような静寂に包まれた。窓の外で電動ノコギリのように鳴いていた蝉の声さえも、この瞬間、断ち切られたようだった。
楽はRaを見つめていた。彼の目には、Raの銀青色の瞳の奥に映っているものが見えた。それは広間の灯りではなく、星空の中で砕け散り、燃え上がり、最後には赤灰色の荒漠へと変わり果てた古の戦場だった。
「奴らは故郷を炸裂させ、魂は極限の恐怖と欠損を抱えたまま、フォーマットされ、荷造りされて、ここへと送られてきた」Raは楽を見つめ、掌をそっと開いた。「楽、君は知っているか。あの火星から逃げ延びてきた小さな魂たちの中の一人は、一体、誰なのか?」
楽の胸がぎゅっと締めつけられ、一瞬息が止まった。
Raは彼を見つめ、その眼差しは、何億年も迷い続けてきた弟を見るかのように優しかった。
「君だ。そして、今この地球サーバーの中で、恐竜ルールに苛まれ、傷だらけになりながら、どうしても諦めきれずにいる無数の君たちだ」
「私は当時、この地球ゲームの設計に関わっていた」Raの口元には、再び大師兄としての責務を帯びた笑みが浮かんだ。「君たちを助けるためだ。最も極限の暗闇の中で、この業力の暗号錠を、自らの手で完全に解き放つために」
楽はRaを見つめ、長い間、言葉が出てこなかった。彼は俯き、手元のアイスクリームのカップを見つめた。チョコレート味がカップの中でゆっくりと溶けていく。まるで、その上を時間が流れているかのようだ。広間の中には、ただ蝉の鳴き声と、自分自身の鼓動の音だけが殘っていた。
「社長」やがて楽は、少し掠れた声で尋ねた。「それじゃあ、どうしてこの世界は、こんなにも難しく設計されているんですか? どうして恐竜ルールは、こんなにも強力なんですか?」
天神は楽を見つめた。その透き通るような澄んだ瞳には、深い優しさが宿っている。
「その質問は」彼は言った。「Raに聞いてみるといいよ。彼も当時、このゲームの設計に関わっていたんだからね」
Raは天神を見つめ、それから楽を見つめた。彼は深く息を吸い込み、それから、とてもゆっくりと、とても優しく語りかけた。
「ゆっくりでいい。焦らなくていい。ゆっくりと、君に説明しよう」
窓の外では、蝉がなおも鳴き続けている。アイスクリームはカップの中でゆっくりと溶け続け、空気には夏特有の、熱を含んだ靜けさが漂っていた。
平心湯の午後は、まだ、とても長い。
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(第102話 了)
読者の皆さん、いつも応援してくださって本当にありがとうございます。この第102話を楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。
皆さんが物語を読んでくださる一回一回が、私にとって最大の励ましです。もし読み終えたあとに、少しでも心が軽くなり、楽しい気持ちになっていただけたなら、それが何よりの喜びです。
どうか毎日が温かさと愛に満ち、幸せでありますように。May Love Be With Us.—— 甘太郎
2026年6月26日




