わがままな神子 6
「いいんですか……!?」
陽葵が祝福の神子か災禍の神子かは不明。
その結論が出た後に外出を提案されるだなんて思わなかった。
嬉しいが戸惑いが勝って狼狽える陽葵に対して、ジルはのんびりと残りのカモミールティーを飲み干す。
「夜の短時間、私と一緒であればという条件付きですが、王から許可を得てきました。陽葵様は寂しがりの様子なので、このまま退屈させていては精神的に危険かもしれないと交渉した結果です」
「そ、そんな風に言ったんですか?」
「違いましたか?」
ジルは真顔で聞いてくるが、口角がほんのり上がっているところを陽葵は見逃さなかった。
からかわれているのだとわかったが、陽葵自身も自分が思っていたより寂しがりだということを実感していたところだ。
姉に会いたいと夜にベッドに入る度に考えて、時折涙まで滲むことはさすがにバレていないはずだが、ルーティとメラスから日々報告を受けているジルには陽葵の寂しさは筒抜けだろう。
「違くないです。嬉しいです」
17歳にもなって寂しがりであることを指摘されることに恥ずかしさはあったが、それよりもこの部屋から出られることが嬉しい。
陽葵が目尻を赤らめてふにゃりと笑うと、ジルは満足そうに笑みを深めた。
「では、寝る前の散歩と行きましょう。こちらを被っていただけますか?」
立ち上がったジルはいつもローブの上に羽織っているマントを脱いで陽葵に渡してくる。
背の高いジルのマントは陽葵には大きい。
袖も裾も余る布を感じながらマントを羽織ると、ジルが近付いてきて陽葵にマントのフードを被せた。
身長差のせいで、足首の上まで丈のあるマントに包まれるとまだジルのぬくもりが残っているのを感じた。
ほのかに香る図書館の日だまりで感じるようなほっとするにおいは、ジルの香りだ。
キスのときにすぐ傍で感じた香りに全身を包まれて、ドギマギする陽葵の顔をフードを被せる深さを調整していたジルが覗き込んできた。
「だいぶ大きいようですね。歩けますか?」
「もちろん!」
「もちろん……?」
「あ、大丈夫です」
微妙にずれた返事をしてしまう程に動揺している気持ちを落ち着けるために、ひっそり深呼吸をする陽葵にジルが気付いている様子はない。
「少し庭を散歩するだけですが、行きましょうか」
ジルは置いてあったカンテラを手に取ると、陽葵を連れて廊下に出た。
この部屋を訪れたとき、陽葵は意識を失っていたため廊下を歩くのもこれが初めてだった。
両側に同じドアが並んだ廊下は時折折れ曲がりながらも随分長く続いている。
騎士団の宿舎とジルが呼んでいたこの建物は、陽葵は知らなかったが随分と大きかった。
「ここにたくさんの騎士さんが住んでるんですか?」
「住んでいる者もいますし、他に家を持っている者もいます」
「ジルさんは?」
「私は執務室の隣に部屋を持っています」
「……なんだかそれって気が休まらなくないです?」
「その発想はなかったですね」
階段を降りながらジルは何でもないように言う。
真面目そうだとは思っていたが、ジルは陽葵の予想以上に仕事人間らしい。
高校の教室横や、バイト先のファストフード店の中に自室があったらなんて、陽葵は想像するだけでうんざりする。
「そういえば、私が最初に出てきた場所ってなんだったんですか? 教会?」
「城の奥にある神殿です。本来は王族しか入ることが許されませんが、あの日はメイディアが噴水の魔力装置の調整を手伝えと言うので付き合わされていました」
「へえ。ジルさんって剣だけじゃなく、魔法も得意だったりするんですか?」
「私が剣が得意だなんていつ言いましたか?」
「え、でも、騎士団で隊長さんなんですよね? 腰に剣も持ってますし」
「この短剣はいざという時の護身用で普段は使いませんよ」
話しているうちに1階に到着する。
ジルが庭に続くドアを開けると、土と草のにおいがした。
外に出られたことを感じていると、ジルは持って来たカンテラを掲げて片手をかざす。
「私は剣は握りません。魔法使いですから」
ジルがかざした掌の前に光でできた魔法陣が不意に浮かぶ。
それに呼応したようにカンテラの中に火が灯った。




