わがままなふたり 4
ジル達は魔王の元までそれぞれ馬を駆って出てきたらしい。
魔王の討伐を無事に終えて王都に帰ることになった陽葵は、ジルの馬に乗せてもらっていた。
自転車の二人乗りのように後ろに乗るのかと思ったら、ジルは陽葵を前に乗せて後ろから両腕で囲うようにして馬の手綱を握ったため、距離感の近さにドキドキしてしまう。
服越しに伝わるジルの体温とにおいに、マントに包まれていた夜の散歩のときもきゅんとしていたことを思い出した。
「陽葵様、鼻血出さんでくださいよ。祝福の神子として凱旋するんですから」
「出しませんよ!」
「凱旋はできるかもしれないけど、普通に反逆罪では怒られるかもしれないんじゃない? リヒター様の意思には反する行動をとったわけだし」
「説教程度と責任者である俺の軽い謹慎程度で済むだろう。魔王を討伐することには成功したわけだしな。陽葵様も説教は一緒に受けていただきますからね」
「はぁい」
前を行くルーティとメラスがそれぞれ乗っている馬をジルの馬がのんびり追いかける。
魔王の亡骸がまた復活することのないように封印を施したのち、帰路に就いた陽葵は初めてこの世界を広く見渡していた。
遠くに見える王都は巨大であり、レンガ造りの塔や建物がにょきにょきと生えている小さな山のようだ。
そこにたどり着くまでは緑の広がる草原が続いており、そよぐ風が心地よい。
ついさっきまで魔王と命懸けの戦いをしていたとは思えないのどかな光景に、陽葵はほうと安堵の息をついた。
「陽葵様」
「っひゃい」
背後からそっと囁かれて、くすぐったさに背筋が粟立つ。
慌てて振り向くと、今にもキスができそうな距離でジルが陽葵に囁いていた。
「あなたを無理矢理帰してしまったこと、許されないとわかっていても謝らせてください。すみませんでした」
「……それは、許さないって決めたので、もうだめですよ!」
「これから、あなたはこちらの世界で暮らすのですか?」
真剣な表情で問うてくるジルに、陽葵は軽く首を傾げた。
「半分そうで、半分違います」
「どういう意味ですか?」
「今回は異世界転移もうまくいきましたけど、帰還魔法はまだ不安定です。今度こそ確実に体がバラバラにならずに命の保証がばっちりできる魔法を考えようと思ってます」
「……やはり、あなたは帰りたいということですか?」
「帰りたいです」
「私が、帰したくないと言っても?」
ジルが手綱を片手で持って、もう片方の手を陽葵の腹へと回して抱き寄せてくる。
ぴたりと背中に密着したジルの体温から執着を感じて、陽葵は心臓が口から飛び出てきそうだった。
「あなたは私の元に帰ってきた。もう私はあなたを離す気はありません」
「だ、だめです」
吐息混じりに口説いてくるジルの甘さにやられかけながらも、陽葵は戸惑い混じりの拒否を示す。
前方を進んでいたルーティとメラスはふたりの会話にこっそり耳をそばだてていた。
まさかジルがこの後フラれるなんて展開があるのか。
ハラハラしているルーティとメラスの耳に飛び込んできたのは、たじたじになっている陽葵の予想外の言葉だった。
「結婚するなら、ジルさんがお姉ちゃんに挨拶をしてからじゃなきゃだめなんです!」
陽葵の必死の叫びに、ジルはキョトンと目を見開く。
ルーティがくすくすと笑い出したのと、メラスが大声で笑いだしたのは同時だった。
「わはは! 確かにご家族への挨拶は必須だな!」
「ジル様も異世界を自由に行き来できる魔法の研究でますます忙しくなりそうですね」
「……まったくだ」
もしやフラれるのかと身構えていたのはジルもだった。
姉に挨拶さえできれば結婚する気があるらしい陽葵に安堵して、細い肩に額を擦り付けて陽葵に甘える。
腕の中でくすぐったそうに身じろぎする陽葵の耳にジルはそっと囁いた。
「早急に魔法を完成させましょう。あなたにも付き合ってもらいますからね」
「ふふっ、はい」
耳も胸の内側もくすぐったい。
体の底からわきあがる幸福感を噛み締めながら、陽葵は笑顔でうなずいた。




