明かされる真実 5
「陽葵様にお呼び出しされるなんて光栄だね。びっくりしたよ」
「こんにちは、メイディアさん。私は外に出られないので、呼び出しちゃってすみません」
リヒターと話した翌日。
一晩悩んだ陽葵はルーティに頼んで、メイディアを呼び出してもらった。
ルーティもメラスも陽葵の声が聞こえることに非常に驚いてはいたが、陽葵がジルのわがままか何かで幻覚魔法を解いてもらえずにいたらしいことを打ち明けると、メラスは納得した様子であり、ルーティは首を傾げていた。
ジルが幻覚魔法を解いてくれなかった理由はまだきちんと聞けていない。
だが、その前に陽葵は自分の気持ちに片を付けることにして、メイディアを呼び出した。
「メイディアさんは、お茶は飲まれますか?」
「いいや。今日は少し立て込んでるから話が済んだらすぐに帰るよ。相談っていうのはなんなのかな?」
メイディアからは敵意は感じられないが、陽葵と一定の距離を置きたいと思っている意思は感じられる。
彼女もリヒターと同じく、陽葵を祝福の神子だとは信じきっていない。
それを承知で、陽葵はルーティに頼んでふたりきりにしてもらった部屋でメイディアと向き合った。
「では、単刀直入にお願いするんですけど、私に現時点で考案している帰還魔法を教えてもらえませんか?」
まっすぐなまなざしでぶつけた陽葵の願いは、メイディアにとって予想外のものだったらしい。
「ほう」と興味深げに言いながら、メイディアは腕を組んで艶っぽく目を細めた。
「理由は?」
「私が元の世界に帰った後に、こっちの世界に戻れないか試してみたいからです」
「君の世界には魔法がなかったと聞いているよ。そちらの世界でも魔法を使えると思うのかい?」
「私自身には魔力を作る器官がないですけど、ジルさんからもらった魔力が元の世界に戻っても保てていれば魔法を使うことはできるかもしれません」
「そんな僅かな可能性に賭けてでも、元の世界に帰った後にこちらの世界に戻りたい理由は?」
「ジルさんのことが好きだからです」
陽葵はメイディアから目を逸らすことなく告げる。
メイディアは面食らった表情をした後に呆れたように肩を竦めた。
「ジルに隠れてこそこそ攻撃魔法なんて研究しておいてよく言う。私がジルに秘密にしてあげたのは、ジルが君に裏切られたら傷つくと思ったからだよ。そもそも、ジルは君に好きだと言ったのかな?」
「言ってません」
「それなら独りよがりの恋で、神子が自分の世界とこちらの世界を行ったり来たりしたら迷惑になるとは思わないのかい?」
「思います。私が祝福の神子か災禍の神子のどちらかである可能性がある限り、ルーティとメラスみたいな護衛と見張り役が必要だと思いますから」
ルーティとメラスが護衛の役割だけでなく、陽葵の見張り役も担っていることに陽葵は気が付いていた。
災禍の神子だと陽葵が判断された場合、ルーティもメラスも陽葵と敵対せざるを得ないだろう。
それはジルも同じだ。
そんな危うい存在が世界を行ったり来たりするなんて迷惑に決まっている。
「わかっているなら、私に帰還魔法を教えてほしいなんて頼めないと思うのだけどね」
「独りよがりの恋だったら、私はまたあちらの世界に帰って、もうこちらの世界には戻ってきません。一度だけ、ジルさんに私の本気を伝えたいんです」
「本気を伝えるって?」
「自分の生きてきた世界を捨ててでも、あなたと一緒にいたいっていう想いです」
陽葵は元の世界に帰って凜に会いたい。
そして、ジルと離れたくもない。
両方の願いを叶えるためには、陽葵はふたつの世界を行き来できるようになるしかなかった。
「そんなのはとんでもないわがままだとは思わない?」
メイディアのまなざしが責めるように陽葵を射貫く。
それでも陽葵は動じなかった。
「すごくわがままだってわかってます。今もメイディアさんにわがままな奴って嫌われたらと思うと怖いです。それでも、私は元の世界の大切な家族に大好きだよってもう一度言いたいし、叶わないかもしれなくてもジルさんに本当にあなたのことが好きなんだって伝えたいんです」
異世界の人間である陽葵が誠意を持って愛を伝える方法は、こちらの世界に留まる覚悟があることを伝えることしかない。
陽葵にはその覚悟がある。
ただ、その前に凜に大好きな人ができたから、その人と一緒に生きたいと伝えたかった。
メイディアは陽葵の視線を真正面から受け止めて、やがて小さく息を吐く。
呆れた様子のため息だったが、その口元には柔らかい笑みがのっていた。
「君は面白い子だね。ジルが君の口を塞いでいたのは正解だったかもしれない。私にも君の声が聞こえなければ、心が動かされることもなかっただろうに」
コツコツとヒールの足音を立てて、メイディアは窓際の机に歩み寄る。
陽葵の見守る中、メイディアは机の上に置きっぱなしにしてあったメモにいくつかの魔法陣を描いた。
「帰還魔法はこの辺りの魔法陣で発動できると考えている。だけど、魔力量の調整や魔法陣の維持を少しでもミスすれば、世界と世界の間にある壁を越えるときに体がバラバラになる可能性が高い。簡単に世界を渡れるとは思わないことだね」
「っありがとうございます!」
メイディアが陽葵の想いを認めてくれたことが嬉しい。
喜びで感謝を伝えながら頭を下げた陽葵の髪をメイディアのしなやかな指先が撫でた。
「ジルは優しいが故に難しい子だ。あの子のこと、諦めないでやってくれると私は嬉しいよ」
顔を上げると、メイディアは慈しむような表情で陽葵を見ていた。
これは、母の顔だ。
メイディアは弟子であるジルを心から大切に育ててきたのだろう。
そんな人が陽葵を信じてくれたことに、胸が熱くなるような喜びを感じた。




