明かされる真実 1
この世界で陽葵にできることはただひとつ。
自らの魔法を磨くことだけだ。
——祝福の神子にも災禍の神子にもならなくて構いません。あなたはただの迷子として、魔王なんかにかかわらず無事元の世界に帰ってください。
ジルが言ってくれたあの言葉は、陽葵への愛すら感じられる優しさだったことはわかっている。
(でも、そんなのやだって思うのはわがままなのかな)
大量の魔法陣とルーン文字を書き散らした紙が散乱した机に頬をくっつけて陽葵はひっそりとため息をつく。
元の世界にもうすぐ帰れるかもしれないことを陽葵は喜ぶべきだ。
ジルは陽葵のためにメイディアと協力して帰るための魔法を研究してくれているのだから。
元の世界に帰って、姉に会いたい気持ちはもちろんある。
だが、ジルが積極的に陽葵を元の世界に帰すために動いていると知ると、胸が痛いほどに寂しかった。
(恋ってめんどうなものなんだな)
鉛筆を手の中で弄びながら陽葵ははじめての恋に戸惑う気持ちに眉を寄せる。
魔法の研究に以前より打ち込むようになった理由を、陽葵はルーティとメラスには治癒魔法が役に立って嬉しかったからと説明した。
だが、実際はジルに必要とされたいからなんてくだらない理由だ。
陽葵はそもそも神子の自覚はなく、自身が祝福の神子なのか災禍の神子なのかもわからない。
それでも、できることなら祝福の神子として好きな人の役に立ちたかった。
「疲れたなら休憩しなさいよ。根詰めたっていいことないんだから」
窓際の机に突っ伏す陽葵の背に、ルーティから声がかかる。
振り向くと、ルーティはもう一つの壁際の机で書類仕事をしながら呆れ半分心配半分の視線で陽葵を見ていた。
「紅茶でも飲む? ほしいなら淹れたげるけど」
つっけんどんな言い方だが、ルーティは優しい。
陽葵が頬を机にくっつけたままふにゃりと笑ってうなずくと、ルーティはわざと呆れた表情を作った。
「ほんとわがままで甘えんぼな神子様ね」
そう言いながらも、ルーティの声には甘やかす響きが隠せていない。
『ありがとう』と書いたスケッチブックを見せるとルーティは立ち上がったが、そのときちょうどドアがノックされた。
「メラス……? 交替にはまだ早いけど」
途端ルーティが視線を鋭くしてドアを睨む。
腰に佩いた剣の柄にかけられた手に陽葵が息をのんだ瞬間、勢いよくドアが開かれて予想外の人物が飛び込んできた。
「やあやあ、お久しぶりだね。メイディアだよ。陽葵様は覚えているかい?」
艶っぽく微笑んだメイディアは高いヒールをツカツカと鳴らして陽葵へと歩み寄ってくる。
この世界に来たときに少し見かけた以来会ったことのないメイディアとの突然の再会に陽葵が目を白黒させる中、警戒を解いたルーティが戸惑いがちに問いかけた。
「メイディア様、どうしてこちらに?」
「陽葵様のお手柄を聞いたから労いに来たのさ。治癒魔法は魔法使いの中でも使える者は少ない。私が行きたいところだったんだけど、都市結界の維持に努めるのがベストだろうと思ってね。活躍に感謝するよ。ありがとう」
「都市結界……?」
「人里を魔物から守る結界さ。私はこの城で王都全体を覆う都市結界を維持することが一番の仕事なんだよ」
陽葵が疑問に思って呟いた一人言にメイディアがさらりと答える。
あまりにも自然に答えられたため、陽葵は一瞬疑問にも思えなかったが、ルーティからするとその様はあまりにも異様だった。
「え、なに今の……」
「どうかしたのかな?」
「今、陽葵の疑問に答えたんですよね? どうしてメイディア様には陽葵の声が聞こえてるんですか?」
ルーティの声が戸惑いに揺れる。
ようやく異常に気付いた陽葵は、きょとんとしているメイディアに動揺しながらも声をかけた。
「私の声が、聞こえてるんですか?」
「普通に聞こえているよ?」




