異世界の洗礼 5
足早に歩くメラスにほぼ駆け足で付いて行き、たどり着いた訓練場は地獄の様相だった。
石でできた体育館のような無骨な作りの訓練場はあちこちに負傷した騎士達が寝転んだり座り込んでいる。
医療班らしき騎士達は薬や包帯を運んで忙しなく駆け回り、訓練場にはうめき声と治療の指示を出す騎士達の怒号が飛び交っていた。
状況に圧倒されている陽葵の横で、メラスは冷静に辺りを見回した。
「トリアージが行われてるな。負傷者は腕にスカーフが巻かれてるだろ。赤、黄、緑の順に治療が優先される」
言われて改めて見ると、確かに痛みに苦しむ騎士達の腕にはスカーフが巻かれている。
しかし、その中に説明されていない色を見つけて、陽葵はスケッチブックに質問を書いてメラスに見せた。
『黒いスカーフの人は?』
「優先順位は最下位。もう死んでるか、助からないかのどちらかだ」
陽葵はハッと息をのむ。
人は死ぬ。
異世界であろうと、それは変わらない。
ルーティは、ジルは、大丈夫なのだろうか。
両親の死に顔を思い出し、不安に飲み込まれかけた心を奮い立たせる。
今の陽葵は無力な存在としてここにいるわけではない。
治癒魔法を使える以上、陽葵も何かの役に立てるはずだ。
『赤いスカーフの人を治療すればいいですか?』
「そうだな。魔法使いは少ない上に、治癒魔法が使える魔法使いはもっと少ない。陽葵様は必ず力になれる」
メラスがトンと背中を軽く叩いてくれたことで、陽葵は体の余計な力抜けたのを感じた。
力強くメラスにうなずき、陽葵はすぐ目の前で血を流している、赤いスカーフを腕に巻いた騎士の治療を開始する。
出力を最大にした治癒魔法の効果で、倒れていた騎士の開いていた傷は見る見る回復し、痛みに荒れていた呼吸も落ち着いた。
「よかった……!」
「陽葵様、次はこっちだ!」
「はい!」
身に着けた力は人を救うことができる。
そのことに安堵する暇もなく、メラスに呼ばれて陽葵は次の負傷者の元へと飛んで行く。
目深に被ったフードが外れないように注意しながら、陽葵は懸命に目の前の負傷者を救うことに集中した。
ルーティとジルは無事なのか。
少しでも思考に隙間ができると、そこに薄い刃を差し込むように入り込んでくる不安と恐怖は必死に見ないふりをする。
言葉の通じない陽葵の代わりに医療班の騎士達と意思疎通をして指示をしてくれるメラスに感謝して、陽葵は治療に駆け回る。
何人目かわからない騎士の治療を終えると、メラスが今までになく堅い声音で話しかけてきた。
「次はルーティの治療だ。頼めるか?」
体に今までには感じなかった別の緊張がにわかに走る。
もし、治療に失敗すれば陽葵はルーティを失うことになる。
陽葵をはじめての女友達として認めてくれたルーティのかわいい真っ赤に染まった顔を思い出して、陽葵は決意を固めて大きくうなずいた。
「はい! 必ず助けます!」




