表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/89

青龍学園の来訪者たち

もし誰かに、この学校で一番好きな言葉は何かと聞かれたら――。


俺は迷わず、こう答えるだろう。


「イベント」だ。


二週間に一度のペースで、何かしら新しいことが起こる。


文化祭。


相性ランキング。


二学期の総合プロジェクト。


そして今度は――。


学校交流。


最近になって、俺はあることを疑い始めていた。


もしかすると、先生たちは生徒が平和に過ごしている姿を見るのが嫌いなんじゃないか、と。


そうでもなければ、こんなに次から次へとイベントを増やす理由が説明できない。


もちろん、そんなことを言ったら怒られるだろうけど。


そんなくだらないことを考えながら、俺は校門をくぐった。


今日から、青龍学園の生徒たちがやって来る。


きっと、いつもとは違う一日になる。


……いや。


この学校の場合、「少し違う」では済まない気がしていた。

その日の朝――。


学校の雰囲気は、いつもとはまるで違っていた。


廊下のあちこちには歓迎のポスターが貼られ、生徒会のメンバーたちが慌ただしく走り回っている。


細かいところまで確認しているのか、入口の花壇ですら、普段より綺麗に見えた。


「大樹」


後ろから声をかけられ、振り返る。


そこには、大きなあくびをしながら歩いてくる松の姿があった。


「寝不足か?」


「ものすごくな」


「交換留学が楽しみで眠れなかったとか?」


そう聞くと、松は首を横に振った。


「いや、朝の二時までアニメ見てた」


……実に、こいつらしい理由だった。


「大丈夫なのか、それ」


「全然大丈夫じゃない」


そう言いながら、松はもう一度あくびをする。


「で、お前は?」


「何が?」


「交換留学だよ。緊張してないのか?」


少し考えてから、俺は肩をすくめた。


「別に。そこまで何かが変わる気もしないし」


すると、松はニヤリと笑った。


「今はそう言ってるけど、青龍学園の美少女がお前の担当になったらどうするんだ?」


「勝手に話を作るな」


「想像するのは自由だろ?」


「やめろ」


「無料なんだから、損はないぞ」


「そういう問題じゃない」


俺が呆れてため息をつくと、松は楽しそうに笑っていた。


どうやら、こいつは朝から元気らしい。

俺たちが教室に入ると、そこは朝から騒がしかった。


あちこちの席で、青龍学園の生徒たちの話題が飛び交っている。


「青龍学園って、すごくレベルが高いらしいよ」


「全国のディベート大会で優勝したって聞いた」


「もし、すごく真面目な人が来たらどうしよう……」


そんな会話が、教室中から聞こえてくる。


どうやら、みんな期待と不安で落ち着かないらしい。


俺が自分の席へ向かうと、すでに舞夜は席についていた。


いつものように本を読んでいる。


俺の姿に気づくと、静かに顔を上げ、小さく微笑んだ。


「おはようございます、南くん」


「おはよう」


挨拶を返し、席に座ろうとした、その時だった。


舞夜がふっと本を閉じる。


「……南くん、昨日はあまり寝ていませんね」


「え?」


思わず聞き返す。


「なんでわかるんだ?」


舞夜は落ち着いた様子で答えた。


「少し目の下に隈があります」


「それに、教室に入ってから二回あくびをしました」


……怖い。


俺は数秒間、黙って舞夜を見つめた。


「お前、ちょっと怖いな」


そう言うと、舞夜は小さく笑った。


「ただ見ていただけです」


その時、後ろの席から聞き慣れた声が飛んできた。


「私も証言するよ」


振り返ると、愛莉が片手を上げていた。


「八神さんは、本当に何でも見てるからね」


舞夜は少しだけ視線を下げる。


「そこまでではありません」


「いや、そこまでだよ」


俺と愛莉は、ほぼ同時にそう言った。


一瞬、舞夜と愛莉が顔を見合わせる。


そして次の瞬間――。


なぜか、三人とも笑っていた。


どうやら、今日も騒がしい一日になりそうだった。

始業のチャイムが鳴り、教室の空気が一変した。


ガラッ、と扉が開く。


入ってきたのは担任の先生――そして、その後ろには校長先生の姿もあった。


二人とも、いつもより少し真剣な表情をしている。


さっきまで騒がしかった教室は、一瞬で静まり返った。


校長先生は教壇の前まで歩いてくると、クラス全員を見渡した。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


全員の声が教室に響く。


校長先生は満足そうにうなずいた。


「みなさんもすでに知っていると思いますが、本日から青龍学園の生徒たちを迎えます」


誰もが息をのむ。


「今回の交流を通して、お互いに多くのことを学び、素晴らしい思い出を作ってください」


短くそう言って、校長先生は一度言葉を区切った。


そして、穏やかな笑みを浮かべる。


「――実は、彼らはもう学校に到着しています」


その瞬間、教室中がざわついた。


「もう来てるの?」


「早くない?」


「どんな人たちなんだろう……」


興奮した声が次々と上がる。


先生は苦笑しながら、静かに手を上げた。


「落ち着いてください。今から、このクラスの生徒を紹介します」


その言葉を聞いた瞬間、教室の緊張はさらに高まった。


そして――。


ゆっくりと、教室の扉が開き始めた。

ゆっくりと教室の扉が開く。


クラス中の視線が、一斉に入口へ向けられた。


そして――。


一人、また一人と、青龍学園の生徒たちが教室へ入ってくる。


全部で五人。


男子が四人、女子が一人だった。


全員、俺たちの学校とは違う濃紺の制服を身にまとっている。


その表情には、緊張と好奇心が入り混じっていた。


たぶん、もし俺たちが向こうの学校へ行っていたとしても、同じ顔をしていただろう。


先頭を歩いていたのは、背の高い黒髪の男子生徒だった。


短く整えられた髪に、細いフレームの眼鏡。


真面目そうな雰囲気を漂わせている。


その隣には、金髪の男子生徒。


こちらは対照的に、どこか気楽そうな笑みを浮かべていた。


さらに、その後ろから一人の女子生徒が軽く頭を下げる。


明るい茶色の髪が、肩のあたりで揺れた。


残る二人の男子生徒は、小声で何かを話している。


校長先生は、彼らを一人ずつ紹介していった。


名前と学年、そして簡単な自己紹介。


クラスメイトたちは真剣な表情で耳を傾けている。


紹介が終わると、校長先生は一歩後ろへ下がった。


「今日から一週間、彼らはこのクラスの一員です」


教室の空気が、少しだけ引き締まる。


「どうか、みなさんで温かく迎えてあげてください」


その言葉を聞き、五人の生徒たちはもう一度頭を下げた。


「よろしくお願いします」


その声が教室に響く。


クラス全員が拍手で応えた。


そして、なぜだろう。


その光景を見ながら、俺は妙な予感を覚えていた。


きっと、この一週間は――。


平穏とは、ほど遠いものになる。


そんな気がしてならなかった。

歓迎の拍手が少しずつ収まっていく。


けれど、教室の空気はまだ落ち着きを取り戻していなかった。


隣の席では、松が小声でつぶやく。


「なあ、大樹」


「今度こそ、青龍学園の美少女と運命の出会いがあるかもしれないぞ」


「まだ言ってるのか」


「男は夢を諦めちゃいけないんだよ」


「その夢、今すぐ捨てろ」


呆れながら答えると、松は大げさに肩を落とした。


そのやり取りを聞いていたのか、舞夜が静かに口を開く。


「南くんは、意外と人気があるので、気をつけたほうがいいかもしれませんね」


「いや、気をつけるって何を?」


「……さあ?」


そう言って、舞夜は小さく笑った。


後ろの席では、愛莉が面白そうにこちらを見ている。


「なんだか、もう面倒なことが起こる未来しか見えないんだけど」


「俺も同感だ」


窓の外を見ると、青空が広がっていた。


いつもと変わらない景色。


けれど、その教室には、いつもとは違う人たちがいる。


たった一週間。


本来なら、あっという間に終わるはずの時間だ。


それなのに――。


なぜだろう。


俺は、この一週間が今までの日常を大きく変えてしまうような気がしていた。


もちろん、この時の俺はまだ知らない。


青龍学園の生徒たちとの出会いが、俺と舞夜、そして愛莉の関係までも少しずつ変えていくことを。


そして、この学校で新しい物語が始まろうとしていることを。


そんな予感だけを胸に抱きながら、俺は静かに前を向いた。

第四十四話『青龍学園の来訪者たち』を読んでいただき、ありがとうございました。


ついに始まった、青龍学園との学校交流。


新しくやって来た五人の生徒たちは、大樹たちの日常にどのような変化をもたらすのでしょうか。


新しい出会い、新しい関係、そして新たな騒動。


穏やかだったはずの毎日は、少しずつ変わり始めます。


それでは、次の話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ