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新たな出会いの予感

翌朝――。


昨日の雨は、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。


空には雲ひとつなく、澄み渡る青空が広がっている。


通学路を歩きながら、俺はふと不思議なことを考えていた。


ほんの数週間前まで、俺はどこにでもいる普通の高校生だった。


友達は松くらいしかいなくて、教室でも目立つ存在ではなかった。


それなのに今では、なぜか学校中の注目を集めている。


相性ランキング。


文化祭。


そして、絶えない噂。


……どうして、こんなことになったんだろう。


少し考えて、ひとつの結論にたどり着く。


たぶん、舞夜のせいだ。


……いや、違う。


文化祭のせいだ。


そういうことにしておこう。


そのほうが、いろいろと都合がいい。


そんなくだらないことを考えているうちに、いつの間にか学校の門が見えてきていた。


今日も、いつも通りの一日が始まる――。


その時の俺は、まだそう思っていた。

教室の扉を開けた瞬間、いつもとは違う空気を感じた。


やけに騒がしい。


クラス中の生徒たちが、同じ話題について話している。


「もう聞いた?」


「本当なのかな?」


「別の学校から来るらしいよ」


「なんだか緊張するね」


あちこちから聞こえてくる会話に、俺は思わず眉をひそめた。


何の話だ?


疑問に思いながら、自分の席へ向かう。


窓際の席に座ると、数秒後、松が満面の笑みを浮かべながら近づいてきた。


「大樹、朗報だ」


「その言い方、嫌な予感しかしないんだけど」


「今回は本当に朗報だって」


「絶対違う」


俺が即答すると、松は両手を机についた。


「なんと――学校交流会が開催されるらしい」


「学校交流会?」


思わず聞き返す。


「別の高校と一週間の交流だってさ」


「へえ……」


正直、まだよくわからない。


俺が次の質問をしようとした、その時だった。


ガラッ。


教室の扉が開き、担任の先生が入ってきた。


手には、何枚ものプリントが握られている。


先生は教壇に立つと、教室を見回した。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


クラス全員が声をそろえる。


先生は小さく笑った。


「どうやら、私が説明する前に噂が広まってしまったみたいですね」


その言葉に、教室のあちこちから笑い声が上がる。


先生は手に持ったプリントを軽く持ち上げた。


「噂は本当です。二週間後、青龍学園の生徒たちがこの学校へやって来ます」


その瞬間、教室がざわめいた。


「五日間、みなさんと一緒に授業を受け、部活動やさまざまな行事に参加してもらいます」


ざわざわと、興奮した声が広がっていく。


どうやら、今日はいつもの平穏な朝では終わらなさそうだった。

先生は手に持っていた紙を一枚取り出した。


「それから、もう一つお知らせがあります」


教室のざわめきが少しだけ静まる。


「交流期間中、みなさんには来校する生徒の案内役を担当してもらいます」


その瞬間、あちこちから驚きの声が上がった。


「ええっ!?」


「案内役?」


「緊張するんだけど!」


先生は苦笑しながら続ける。


「安心してください。担当は完全にランダムで決まります」


……またランダムか。


最近、運命というやつは、やけに俺を振り回している気がする。


文化祭の実行委員。


舞夜とのプロジェクト。


相性ランキング。


そして今度は学校交流。


もしかすると、神様は暇なのかもしれない。


隣を見ると、松が腕を組みながら真剣な顔をしていた。


「頼むから、かわいい子が来てくれ」


「お前、目的を完全に勘違いしてるだろ」


「交流を深めるのは大事なことだ」


「絶対違う意味だろ」


俺が呆れながら言うと、松は堂々とうなずいた。


「もちろんだ」


こいつは駄目かもしれない。


教室では、誰が誰の担当になるのか、早くも予想大会が始まっていた。


そんな騒がしい空気の中、俺は窓の外を見つめる。


青空が広がっている。


二週間後。


俺たちの日常に、新しい風が吹き込もうとしていた。

先生の説明が終わると、教室は一気に騒がしくなった。


「どんな人が来るんだろう?」


「頭のいい学校なんでしょ?」


「絶対、緊張するって!」


そんな声があちこちから聞こえてくる。


しばらくして、先生は「少し職員室に行ってきます」と言い残し、教室を出ていった。


その瞬間、クラスのざわめきはさらに大きくなる。


すると、隣の松が勢いよく俺のほうを向いた。


「なあ、大樹」


「なんだよ」


松は妙に真剣な顔をしていた。


「もし、お前の担当が女の子だったらどうする?」


「どうもしないけど」


「いや、問題はそこじゃない」


松は人差し指を立てる。


「八神が嫉妬する」


「しないだろ」


即答した。


すると、松は大げさに肩をすくめる。


「お前、本当に鈍いな」


「だから、俺たちは付き合ってないって何回言わせるんだよ」


そんなやり取りをしていると、前の席から静かな声が聞こえた。


「今、私の話をしていましたか?」


俺と松は同時に顔を上げる。


そこには、少しだけ首を傾げた舞夜がいた。


「「してない」」


思わず、俺たちは声をそろえて否定する。


一瞬、教室が静かになった。


そして、舞夜は小さく笑った。


「……怪しいですね」


「怪しくない」


「そうだ、何も話してない」


俺と松が慌てて言い訳をすると、舞夜は楽しそうに微笑んだ。


「二人とも、こういう時だけ息がぴったりですね」


その言葉に、松は吹き出した。


「ほら見ろ。お前らのほうがよっぽど仲良しじゃないか」


「うるさい」


俺がそう言うと、舞夜はくすっと笑い、再び前を向いた。


どうやら、今日も平穏な一日にはならなそうだった。

昼休みになると、俺たちはいつものように中庭へ向かった。


愛莉はオレンジジュースを片手に、どこか楽しそうな様子だった。


「ついに交換留学イベントかあ」


ベンチに腰を下ろしながら、愛莉が言う。


舞夜は静かにうなずいた。


「いい経験になりそうですね」


「舞夜は楽しみなのか?」


俺が尋ねると、舞夜は少し考えてから答えた。


「そうですね。少しだけ楽しみです」


「やっぱり、新しい人と話すのは好き?」


愛莉がそう聞くと、舞夜は小さく微笑んだ。


「いろいろな考え方を知るのは好きですから」


「さすが優等生」


愛莉はストローをくわえながら、感心したように言った。


そして、今度は俺のほうを指差す。


「私は、とにかく真面目すぎる人じゃなければいいかな」


「例えば?」


「例えば――南くんみたいな人」


「俺、そんなに真面目か?」


思わず聞き返す。


愛莉は迷うことなく、大きくうなずいた。


「ものすごく真面目」


「初めて言われたんだけど」


「それは、みんなが優しいからだよ」


「絶対違うだろ」


俺が反論すると、隣にいた舞夜が静かに首を横に振った。


「……そこまでではないと思います」


「え?」


予想外の言葉に、思わず舞夜のほうを見る。


舞夜も、自分が何を言ったのか気づいたらしく、少し慌てた様子で続けた。


「いえ、その……」


「南くんは、親しい人と一緒にいる時は、今よりずっと話しますから」


愛莉は満足そうな笑みを浮かべる。


「それ、完全に褒め言葉だよ」


「八神さんからそんなことを言われる人、なかなかいないんだから」


舞夜は少しだけ視線を落とした。


「……そんな大したことではありません」


耳が、ほんの少し赤くなっている。


その様子を見て、愛莉は楽しそうに笑っていた。


そして俺は、なぜか少しだけ落ち着かない気分になっていた。

昼休みが終わり、俺たちは校舎へ戻っていた。


階段を上りながら、ふと玄関のほうを見る。


そこには、朝にはなかった大きな横断幕が掲げられていた。


『学校交流プログラム 青龍学園のみなさん、ようこそ』


立ち止まって、その文字を見つめる。


たった数行の言葉なのに、不思議と胸がざわついた。


「いよいよって感じだね」


隣で愛莉がそうつぶやく。


「そうですね」


舞夜も静かにうなずいた。


俺は何も言わず、もう一度横断幕を見上げた。


二週間後。


この学校に、新しい生徒たちがやって来る。


今まで出会ったことのない人たち。


今まで知らなかった世界。


何かが変わる。


理由はわからない。


でも、そんな予感だけは確かにあった。


教室へ向かう途中、廊下ではすでに交換留学の話題で持ちきりだった。


誰が案内役になるのか。


どんな生徒が来るのか。


みんな、期待と不安を抱えている。


そして、俺も例外ではなかった。


きっと、青龍学園の生徒たちが来れば、今の日常は少しずつ変わっていく。


俺と舞夜。


俺と愛莉。


そして、三人の関係も――。


その時の俺は、まだ知らなかった。


この出会いが、俺たちの毎日を大きく変えていくことを。

第四十三話『新たな出会いの予感』を読んでいただき、ありがとうございました。


交換留学の知らせによって、いつもの日常に少しずつ変化の気配が現れ始めました。


新しい出会いは、果たして大樹たちに何をもたらすのでしょうか。


そして、その出会いは三人の関係をどのように変えていくのでしょうか。


それでは、次の話でお会いしましょう。

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