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相性ランキング

翌朝――。


俺はいつもより十分早く学校に到着していた。


別に早起きしたかったわけじゃない。


目的は、たった一つ。


あの掲示板を、みんなに見られる前に剥がすことだった。


あれさえなくなれば――。


余計な問題も消える。


少なくとも、俺はそう信じていた。


……。


今思えば、あまりにも楽観的すぎる考えだった。


昇降口を抜け、いつもの廊下を曲がった瞬間――。


俺は、その希望が完全に打ち砕かれたことを悟った。


先生が、新しいポスターを貼っていたのだ。


一枚。


二枚。


三枚。


五枚。


……。


気づけば、ほとんどの階に一枚ずつ貼られていた。


俺は思わず深いため息をつく。


「おはよう、南くん」


「おはようございます、先生」


先生はにこやかに笑った。


「アンケートを見に来たの?」


「いや、別にそういうわけじゃ……」


「生徒たちがこんなに興味を持ってくれて、先生もうれしいわ」


……。


まさか、「興味があるのは、なくしたいからです」なんて言えるはずもない。


俺は曖昧に笑いながら、その場を後にした。

始業のチャイムが鳴ると同時に、校内は一気に騒がしくなった。


廊下には次々と生徒たちが集まり、掲示板の前にはあっという間に人だかりができていく。


「もう投票が始まってる!」


「どこで投票するんだ?」


「QRコードがあるぞ!」


「面白そう!」


……。


面白そう?


本気で言ってるのか?


俺には、どう考えても厄介ごとにしか見えなかった。


ため息をつきながら教室へ入る。


すると、案の定、松はすでに席についていた。


俺の顔を見るなり、嫌な笑みを浮かべる。


「おはよう、未来のチャンピオン」


「何のチャンピオンだよ」


「もちろん、相性ランキングのさ」


「参加する気なんてないぞ」


「それは、お前が決めることじゃない」


……どういう意味だ。


嫌な予感しかしなかった。

松はニヤニヤしながら、一枚の紙を俺の机の上に置いた。


「ほら、見てみろよ」


嫌な予感を覚えながら、その紙を手に取る。


一番上には、大きな文字でこう書かれていた。


『二年生・相性の良いペアランキング投票』


……。


思わず頭を抱えたくなる。


だが、問題はそれだけじゃなかった。


その下には、生徒たちが推薦したペアの一覧が並んでいたのだ。


俺は無意識に視線を走らせる。


そして――。


見つけてしまった。


『南大樹 × 八神舞夜』


……。


しかも、その名前の横には、すでに大量の印がついていた。


まるで、最初から結果が決まっているかのように。


「誰がこんなことをしたんだ?」


俺が尋ねると、松はあっさり答えた。


「学校中のみんな」


「そんなわけないだろ」


「文化祭の影響、なめるなよ」


松は楽しそうに笑う。


俺は何も言い返せず、そのまま机に額を押しつけた。


たった数日で、俺の学校生活は十年くらい寿命が縮んだ気がした。

その時、教室の扉が開いた。


八神舞夜が、いつものように教室へ入ってくる。


すると、教室中の視線が一斉に彼女へ向けられた。


「来たぞ」


「噂の二人の片方だ」


「絶対、ランキング一位だろ」


あちこちから小さな声が聞こえてくる。


だが、舞夜はまるで気にしていない様子だった。


普段と変わらない表情のまま、まっすぐ俺の席へ向かってくる。


「おはようございます、南くん」


「おはよう」


「何かあったんですか?」


俺は黙って机の上の紙を彼女に差し出した。


舞夜はそれを受け取り、静かに目を通す。


数秒後――。


彼女は小さく息を吐いた。


「なるほど」


「いや、『なるほど』じゃないだろ」


思わずツッコミを入れる。


だが、舞夜は落ち着いたまま続けた。


「こういう企画を止めることは難しいと思います」


「でもさ……」


「勉強やプロジェクトの邪魔にならないなら、そこまで気にする必要はありません」


……。


どうして、そんなに平然としていられるんだ。


俺には理解できなかった。


そんな俺を見て、舞夜は少しだけ首をかしげる。


「南くんは、気にしすぎです」


「気にするだろ、普通」


そう言うと、舞夜は小さく微笑んだ。


「そうかもしれませんね」


その笑顔を見て、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

その時――。


教室の扉が開いた。


生徒会の女子生徒が、透明な箱を抱えながら入ってくる。


「おはようございます。最初の投票を回収しに来ました」


その一言で、教室の空気が一気に変わった。


「もう投票するのか!」


「どこどこ?」


「俺、昨日のうちに決めてた!」


生徒たちは次々と席を立ち、小さく折りたたまれた紙を箱の中へ入れていく。


……なんでこんなに盛り上がってるんだ。


俺にはまったく理解できなかった。


そんな中、松が満面の笑みを浮かべながら俺の前を通り過ぎる。


投票用紙を持ったまま、俺に向かってウインクした。


嫌な予感しかしない。


「おい、まさかとは思うけど……」


俺が小声で言うと、松は親指を立てる。


「任せろ」


「任せる気なんてない」


「まあまあ、結果を楽しみにしてろよ」


そう言い残し、松はそのまま投票箱へ紙を入れた。


……。


聞くまでもなく、何を書いたのかは想像できた。


しばらくして、生徒会の女子生徒は教室を後にする。


騒がしかった教室も、少しずついつもの空気を取り戻していった。


だが、俺の心だけは、まったく落ち着く気配がなかった。

生徒会の人が教室を出ていくと、教室は少しずつ落ち着きを取り戻していった。


俺は窓の外をぼんやり眺める。


……結局、この騒ぎはしばらく続くんだろうな。


そんなことを考えていると、不意に舞夜が口を開いた。


「南くん」


「ん?」


俺が振り返ると、舞夜はいつもの落ち着いた表情のまま言った。


「たとえ私たちが一位になったとしても、私たちの関係は変わりません」


……。


思わず、彼女の顔を見つめてしまう。


舞夜自身も、自分が何を言ったのか気づいたのか、少しだけ視線を逸らした。


そして、慌てたように言葉を続ける。


「い、いえ、その……」


「これからも、プロジェクトの仲間だという意味です」


「それだけです」


最後の一言だけ、なぜか少し早口だった。


……。


俺は、気づかないうちに笑っていた。


「そうだな」


「たぶん、舞夜の言う通りだ」


舞夜は小さく微笑んだ。


本当に一瞬だけの、かすかな笑顔。


誰かに「見間違いだ」と言われても、おかしくないほど小さなものだった。


それでも、俺は確かに見た。


そして、初めて思った。


周りが何を言おうと、もうどうでもいいのかもしれない、と。


結局、一番大事なのは――。


彼女と一緒にいる時間が、いつの間にか当たり前になっていたことだった。

第三十七話『相性ランキング』を読んでいただき、ありがとうございました。


突然始まった相性ランキングによって、大樹と舞夜の周りはさらに騒がしくなっていきます。


しかし、少しずつ変わっているのは、周囲だけではないのかもしれません。


二人の日常は、この先どのように変わっていくのでしょうか。


それでは、次の話でお会いしましょう。

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