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未来の二人の写真

俺たちがたどり着いた公園は、商店街から少し離れた場所にあった。


木々に囲まれた遊歩道があり、小さな池のそばにはいくつかのベンチが並んでいる。庭園の二つの区画をつなぐ木製の橋もあった。春の花が少しずつ低木を彩り、枝の間から差し込む日差しが、道の上に黄金色の模様を描いていた。


「わあ、綺麗!」


舞夜が声を上げた。


数歩先へ進んだ彼女は、すぐに振り返る。


「大樹、こっちに来て!」


俺は彼女のもとへ近づいた。


舞夜が指差していたのは、庭園の片隅だった。風に揺れる淡いピンク色の花々。その向こうには、澄み渡った空を映す池が広がっている。


「ここ、写真を撮るのにぴったりだと思わない?」


「前に、そういう場所を探そうって話してたな」


「そう! 見つけちゃった!」


舞夜は、俺たちのアルバム作りに使っていたカメラを取り出し、良いアングルを探し始めた。


あちこち移動しながら、どこから撮れば景色が一番綺麗に見えるのか考えている彼女を、俺は眺めていた。


「もう少し左……。ううん、待って。ここからなら橋も綺麗に見えるかも」


「手伝おうか?」


「うん! こっちに来て!」


舞夜は俺を隣に立たせると、カメラを手渡してきた。


「ちょっと確認するね」


「俺が舞夜を撮ればいいのか?」


舞夜は首を横に振った。


「二人の写真が撮りたいの」


そう言って俺の隣に寄り、画面を覗き込む。


肩が触れ合った。


「うん。ここならきっと綺麗に撮れると思う」


「じゃあ、撮ろうか」


舞夜が笑顔を浮かべた。


「待って。先に言いたいことがあるの」


俺は彼女を見た。


「どうした?」


舞夜はしばらく庭園を眺めてから、再び俺へと顔を向けた。


「このアルバムを作り始めたとき、私は写真が思い出を残してくれるものだと思ってたの。大樹と一緒にいるたびに、どれだけ幸せだったか。写真を見れば、そのときの気持ちを思い出せるって」


彼女の指が、カメラのストラップをそっと撫でる。


「でも、最近は少し違うことを考えるようになったんだ」


「違うこと?」


舞夜は微笑んだ。


「まだ撮っていない写真のこと」


俺は庭園を見渡した。


それから彼女を見る。


「これから撮る写真?」


「うん。夏に撮る写真。秋になったら撮る写真。それから、冬が来たときに残す写真」


舞夜の笑顔が、さらに柔らかくなった。


「卒業した後の写真もね」


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


舞夜は、ますます楽しそうに話し始める。


「これからも、いろんな場所で写真を撮りたいな。いつか二人とも知らない街に行って、道に迷いながら歩いてみたい。変わった料理を食べてみたり、道を間違えて笑い合ったり……。どちらかがよそ見して、ひどい写真が撮れちゃったりするのもいいよね」


「たぶん、ひどい写真になるのは俺のほうだと思う」


「それは今でもよくあることじゃない?」


「おい!」


舞夜は声を上げて笑った。


そして、もう少しだけ俺に近づいた。


「でもね、大樹。写真が完璧じゃなくてもいいの」


彼女は真っ直ぐに俺の目を見つめた。


「二人で撮れることが、一番大切だから」


俺はすぐに返事ができなかった。


なぜなら、その言葉は俺自身がずっと考えていたことと、よく似ていたからだ。


今までの思い出を残すだけじゃない。


これからも、彼女と新しい思い出を作っていきたい。


そして、その未来を想像するたびに、俺の気持ちはますます明確になっていく。


それは、ただ楽しそうだからというだけの話ではなかった。


本当に、心から望んでいることだった。


「舞夜」


「なに?」


「俺も、そうしたい」


舞夜が瞬きをした。


「本当に?」


「ああ。これからも写真を撮りたいし、舞夜と一緒にいろんな場所へ行きたい。まだ知らない場所も、二人で見つけていきたい」


少しだけ間を置く。


「それで、いつか振り返ったときに、どの思い出から話せばいいのか分からなくなるくらい、たくさんの思い出があったらいいな」


舞夜は俺を見つめたまま、やがて頬を赤くして俯いた。


「そんなこと、さらっと言わないでよ……」


「どうしてだ? 舞夜だって似たようなことを言ってたじゃないか」


「だって……大樹がそんなふうに返してくれるとは思わなかったんだもん!」


俺は笑った。


舞夜も、最後には笑ってくれた。


その数秒間は、いつも一緒に過ごしている放課後と同じくらい、何気なくて穏やかな時間だった。


けれど、舞夜が顔を上げたとき、その表情が少しだけ変わったことに気づいた。


「大樹、ひとつ聞いてもいい?」


「もちろん」


「私たちの未来のことを話すとき……本当に、これからも一緒にいるって想像してる?」


その問いに、俺は黙った。


未来について話したことは、今までにも何度かあった。


でも、今回は舞夜がもっと具体的な答えを求めているように感じた。


意味のない言葉で安心させたくはない。


だからといって、すべてが簡単にうまくいくと軽々しく約束することもできなかった。


俺は、自分の気持ちをそのまま伝えた。


「ああ。一緒にいる未来を想像してる」


舞夜の目が、わずかに大きくなった。


「卒業したあと、別々の場所に進むことになっても?」


「会う時間を作るために、予定を調整することになっても」


「忙しくなっても?」


「忙しくなっても」


舞夜は、しばらく俺を見つめていた。


「もし、いろいろ難しくなったら?」


答える前に、少しだけ考えた。


「そのときは、二人で話して、どうすればいいのか考えよう」


俺は彼女の手を優しく握った。


「高校を卒業したあと、何が待っているのかは分からない。全部が簡単だって約束することもできない。でも、いつも舞夜だけが俺たちの距離を保とうと頑張るような関係にはしたくないんだ」


深く息を吸う。


「俺も努力したい。会う時間を作って、元気かどうか聞いて、自分に起きたことも舞夜と共有したい。舞夜が俺を頼れるようにしたいし、俺だって舞夜を頼りたい」


舞夜は、俺たちの繋いだ手へ視線を落とした。


「それが聞きたかったの」


彼女の声は、風の音に紛れてしまいそうなほど柔らかかった。


「大樹が全部の答えを知っている必要はないんだよ。ただ、何かを決めるときに……私だけが一緒に頑張りたいと思っているわけじゃないって、知りたかったの」


胸の中に、言葉ではうまく表せない感情が広がった。


この会話を通して、俺はずっと伝えようとしていたことを、ようやく理解できた気がした。


恋に落ちるということは、未来がどうなるのかを知ることではない。


その未来を、一緒に知っていきたいと思える相手を見つけることなのだ。


俺は、舞夜とそれを知っていきたい。


まだ訪れたことのない場所を見て、彼女がまだ話していない物語を聞いて、これから自分が何をしたいのかを見つけていく彼女の隣にいたい。


何もかもうまくいく日だけじゃない。


お互いに支え合わなければならない日だって、共に過ごしたい。


数年後、俺たちがどんな生活を送っているのかは分からない。


それでも、誰とその未来を築いていきたいのかだけは、はっきりしていた。


「舞夜」


「うん?」


俺は彼女の目を見つめた。


「卒業したあとにやりたいことを考えると、いつも舞夜が一緒にいるところを想像してしまうんだ」


舞夜が、一瞬息を止めたように見えた。


「大樹……」


「俺が単純すぎるのか、それとも舞夜と一緒にいることに慣れたのかは分からないけど」


頬が熱くなるのを感じながら、俺は笑おうとした。


「でも、そういう未来を想像するのをやめたくないと思う」


舞夜は片手を口元に添えた。


瞳が輝いていた。


数秒間、彼女は言葉を見つけられないようだった。


それから、ゆっくりと笑った。


「じゃあ、これからも一緒に想像していこうね」


俺は頷いた。


「ああ」


舞夜はそっと近づき、俺の肩に頭を預けた。


俺たちは、そのまま庭園を眺めていた。


もう、何かを付け加える必要はなかった。


しばらくして、舞夜が身体を離し、カメラを持ち上げた。


「よし! 今度こそ写真を撮ろう!」


俺は笑った。


「すっかり忘れてた」


「私は忘れてないよ! 大切な思い出なんだから!」


俺たちは池のそばに移動し、バッグに入れていた小さなスタンドにカメラを設置した。


タイマーを設定してから、急いでカメラの前へと走る。


舞夜が俺の手を握った。


「大樹、笑って!」


「もう笑ってるだろ!」


「もっと自然な笑顔!」


「これが俺の自然な笑顔だよ!」


カメラが合図の音を鳴らした。


撮影される直前に舞夜が吹き出し、俺もつられて笑ってしまった。


写真を確認してみると、俺たちは少しだけ傾いて写っていた。


舞夜は笑いすぎて目を細めていて、俺はカメラではなく彼女を見ていた。


「また私を見てる!」


舞夜が声を上げた。


「わざとじゃないって!」


「じゃあ、癖なのかな?」


彼女はいたずらっぽく笑う。


「結構、可愛い癖だけどね」


俺はため息をついた。


それでも、笑わずにはいられなかった。


結局、その写真をアルバムに残すことにした。


完璧な写真ではない。


けれど、そこには二人で笑い合う俺たちがいた。


手を繋いで、春の庭園を背景にして。


舞夜がその写真を大切そうに保存するのを見ながら、俺は考えた。


いつか、またこの写真を見る日が来るのかもしれない。


別の街で、別の季節に、あるいは今とはまったく違う人生の段階で。


そのとき、俺たちは今日のことを笑いながら思い出すのだろう。


そして、舞夜を見つめながら、今日の土曜日が大切だった理由を伝えられたらいい。


彼女はまだ知らない。


今日が、俺にとって告白を「正しくしなければならないこと」だと考えるのをやめた日だったということを。


そして、告白を彼女と共有したい願いとして、少しずつ理解し始めた日だったということを。


彼女を驚かせたいわけじゃない。


一番美しい言葉を見つけて、自分の気持ちを証明したいわけでもない。


ただ、俺が彼女を選んだことを知ってほしい。


今も、彼女を選び続けていることを。


春の花が散り、夏が訪れても。


そして、俺たちの高校最後の一年が終わりに近づいても。


俺は舞夜を見た。


彼女は新しい写真を眺めながら、まだ笑っていた。


「舞夜」


彼女が顔を上げる。


「なに?」


俺は、もう少しでその言葉を口にするところだった。


言葉が唇まで届き、ほんの一歩踏み出せば伝えられるような気がした。


けれど、俺はまだ言わなかった。


緊張に押し戻されることなく、自分の気持ちを伝えられる瞬間を、もう少しだけ大切にしたかった。


代わりに笑って、彼女に手を差し出した。


「もう少し歩こうか」


舞夜はすぐに俺の手を取った。


「うん!」


俺たちは池から離れ、並んで遊歩道を歩き始めた。


その途中で、俺は理解した。


さっき撮った写真は、ただアルバムに追加する一枚ではない。


俺たちが、これから築いていくものの証だった。


二人とも、未来のすべてを知っているわけじゃない。


それでも、二人で想像したいと思っている未来がある。


そして俺は、舞夜が一人で夢を見ているわけではないと、知ってほしかった。


まだ、決定的な言葉は口にしていない。


それでも、俺の心はすでに答えを出していた。


未来の写真に、俺の隣に写っていてほしい人。


その人は、これからもずっと、舞夜であってほしい。

今回も読んでくださり、ありがとうございます。

二人が思い描く未来は、少しずつ形になってきました。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

引き続き、応援よろしくお願いいたします。

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