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一日の始まりに届いたメッセージ

火曜日の朝、朝食を食べ終えようとしていたとき、スマートフォンが震えた。


画面を見ると、舞夜からのメッセージだった。


『おはよう、大樹くん。もう起きてる?』


僕は数秒、その文字を見つめた。


もうすぐ学校へ出かけるところなのだから、聞くまでもない質問だ。


それでも、自然と笑みがこぼれた。


『いや、寝ながら返信してる』


すぐに返事が届いた。


『えっ!? じゃあ、早く起きなきゃ!』


『おはよう、舞夜』


『もう! ひどいよ!』


『舞夜が先に聞いてきたんだろ』


『むぅ……。せっかく今日も頑張ってねって言おうと思ったのに、考え直そうかな』


『それは困るなあ』


『じゃあ、今日の授業でうまくいくように、応援してあげない!』


『待って! 今のは取り消すから!』


『もう遅いです』


思わず笑いながら、スマートフォンをポケットにしまった。


食器を片づけていた母さんが、不思議そうにこちらを見る。


「朝から何をそんなに笑ってるの?」


「別に、何でもないよ」


「……あの子からのメッセージ?」


思わずスマートフォンを落としそうになった。


「ど、どの子?」


母さんは面白そうな顔で僕を見つめた。


「画面を見るたびに笑顔になる相手よ」


「母さん……」


「何も言ってないでしょう?」


母さんは微笑むと、再び台所へ向かった。


「でも、機嫌がよさそうで何よりね」


僕は何も言い返せなかった。


慌てて母さんに挨拶をして家を出る。


これ以上質問されたら、まともに答えられる自信がなかった。


それでも、駅へ向かって歩きながら、母さんの言葉を思い返していた。


機嫌がよさそうで何より。


確かに、僕は舞夜からのメッセージを読んで笑っていた。


しかも、それが特別なことだとも思わなくなっている。


いつの間にか、そんな朝が当たり前になりつつあった。


駅に着く前に、もう一度スマートフォンを取り出す。


『そういえば、舞夜もいい一日になるといいね』


今度は、少しだけ返事が遅かった。


『それって、私の応援のおかげで元気が出たってこと?』


『たぶんね』


『じゃあ、許してあげる』


『寛大な心に感謝します』


『どういたしまして。お礼に、いつかおいしいものをごちそうしてくれてもいいよ』


僕は歩道の真ん中で立ち止まった。


……これは、お誘いなのだろうか。


それとも、ただの冗談?


あるいは、舞夜なりに何かを伝えようとしているのだろうか。


返事を考えていると、すぐに次のメッセージが届いた。


『なーんて、冗談だよ! 別に何かをごちそうしてほしいわけじゃないからね!』


僕は画面を見つめたあと、思わず笑った。


『もう遅いよ。何を食べに行こうか、考え始めちゃった』


今度は、すぐに返事が届いた。


『……』


『大樹くん』


『何?』


『ときどき、私に対してずるいよね』


笑いをこらえながら、スマートフォンをしまった。


そのまま駅へ向かって歩き出す。


今朝は、何か特別なことが起きたわけじゃない。


ただ、何通かメッセージをやり取りしただけだ。


それなのに、僕は返事が届くたびに、胸の奥が少し弾むのを感じていた。


そして、ここ数日の間に気づいたことを思い出した。


僕は、何か大切な話があるときだけ舞夜と話したいわけじゃない。


小さな出来事だって、彼女と共有したい。


くだらない冗談。


授業へのちょっとした不満。


道端で見つけた、何となく気になったものの写真。


特に目的のない、何気ない会話だっていい。


自分の一日がどんなふうに始まったのか、彼女に知ってほしい。


そして、彼女の一日がどんなふうに始まったのか、僕も知りたい。


学校に着くと、スマートフォンをしまって教室へ向かった。


「大樹!」


自分の席に座っていた松が、片手を上げた。


「おはよう」


「おはよう。……お前、何でそんな顔してるんだ?」


「どんな顔?」


「何かいいことがあったやつの顔」


僕は思わず立ち止まった。


……そんなに分かりやすいのだろうか。


「別に、いつもと変わらないだろ」


松は目を細めた。


「なるほどな」


立ち上がり、こちらへ近づいてくる。


「じゃあ、一つ聞いてもいいか?」


「質問の内容による」


「今朝、起きてから舞夜とメッセージのやり取りをしたか?」


「……何で分かったんだ?」


松は口を開いた。


そして、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「はい、引っかかった!」


しまった。


自分から答えを教えてしまった。


「そういう聞き方は反則だろ!」


「俺は答えろなんて言ってないぞ?」


「松!」


松は笑いながら自分の席へ戻った。


「安心しろ。誰にも言わないから」


「そもそも、何も隠すようなことはないって」


「はいはい」


自分の席に座り、松の笑い声を無視しようとする。


しかし、教科書を取り出す前に、今度は結衣がやってきた。


松を見る。


次に僕を見る。


そして、にっこりと笑った。


「……何か面白いことでもあった?」


「何もないよ」


僕は即答した。


「じゃあ、絶対に何かあったんだね!」


「どうしてそうなるんだよ!」


結衣は前の席の机に腰掛け、頬杖をついた。


「だって、大樹のことはよく知ってるもん」


そして、楽しそうに続けた。


「最近、特定の誰かのことを考えてる人の顔をしてるんだよね」


僕は黙り込んだ。


結衣の笑みが深くなる。


「当ててあげようか? 舞夜でしょ?」


僕はため息をついた。


「……別の話をしない?」


「いいよ」


結衣はあっさりと立ち上がった。


「じゃあ、放課後は舞夜と何をする予定なの?」


「何でまた舞夜の話に戻るんだよ!?」


松が大笑いし始め、結衣もつられて笑い出した。


僕は片手で顔を覆った。


友達がいるというのは、時々、本当に大変だ。


……とはいえ、二人が本気で僕を困らせようとしているわけではないことも分かっていた。


僕自身が隠しきれなくなっている変化に、二人も気づいているだけなのだ。


舞夜との関係は、少しずつ変わり始めている。


そして、そのことを友達も知っている。


やがて授業が始まった。


先生の説明に集中しようとしたけれど、休み時間になると、またスマートフォンを手に取ってしまった。


新しいメッセージが届いていた。


『大樹くん、授業はどう?』


『順調だよ。舞夜は?』


『私も順調。でも、先生が宿題を出しすぎだと思う!』


『それは大変だね』


『大変だよ! 休憩が必要です!』


『じゃあ、休み時間に会う?』


返信が届くまで、数秒かかった。


『うん!』


さらに、もう一通。


『本当は私から聞こうと思ってたんだけど、大樹くんが忙しかったら悪いなって』


僕は画面を見つめた。


そして、微笑んだ。


『舞夜が会いたいと思ってくれるなら、迷惑なわけないよ』


今度は、すぐには返事が来なかった。


数秒後、ようやくメッセージが表示される。


『じゃあ、チャイムが鳴ったら会いに行くね』


『待ってるよ』


スマートフォンをしまう。


胸の奥に、穏やかな温かさが広がった。


特別なことをしたわけではない。


ただ、自分が本当に思っていることを伝えただけだ。


それなのに、言えてよかったと思った。


舞夜には、知っていてほしかったのだ。


僕に会いたいと思ったとき、わざわざ理由を探さなくてもいいことを。


僕も彼女に会いたいと思っていることを。


僕だって、二人で過ごす時間を楽しみにしていることを。


まだ告白はしていない。


それでも、最後の言葉を見つける前に、気持ちを伝える方法はいくらでもあるのかもしれない。


チャイムが鳴ると、僕はすぐに立ち上がった。


「おい、大樹! 走るなよ!」


席から松の声が飛んできた。


「走ってないよ!」


「じゃあ、何でそんなに歩くのが速いんだよ!」


僕は無視して廊下へ出た。


階段の近くで、舞夜が待っていた。


目が合った瞬間、彼女が笑顔になる。


「大樹くん!」


「舞夜」


彼女のもとへ歩み寄った。


「授業はどうだった?」


「普通だったよ。でも、今はもっと楽しい気分!」


「どうして?」


舞夜は、まるで答えが決まっているかのように僕を見た。


「大樹くんと一緒にいるから」


心臓が、大きく跳ねた。


舞夜は僕の反応に気づいたらしく、いたずらっぽく笑った。


「……あれ? 何か変なこと言った?」


「い、いや」


「じゃあ、どうして顔が赤いの?」


「赤くないよ!」


「そうかなあ?」


くすくすと笑いながら、舞夜が僕の手を取った。


「ほら、行こ。あんまり時間がないから」


僕たちは並んで、二人だけの秘密の場所へ向かった。


歩きながら、僕は今朝の出来事を思い返していた。


あのメッセージがなかったら、こんなふうに朝から笑うこともなかったかもしれない。


そして、今こうして舞夜と会うことを、こんなにも楽しみにしていたかどうかも分からない。


けれど、もう分かっていた。


一日が幸せに始まるために、特別な出来事なんて必要ないのだ。


ときには、一通のメッセージだけでいい。


何気ない冗談でもいい。


休み時間に会おうという、小さな約束でもいい。


あるいは、会った瞬間に笑顔を見せてくれる女の子が、ただ一緒にいられることを喜んでくれるだけでもいい。


僕は舞夜を見た。


彼女は楽しそうに、自分のクラスで起きた出来事を話していた。


身振りを交えながら、夢中になって説明している。


僕は笑顔で、その話に耳を傾けた。


彼女の日常の、小さな部分まで知りたい。


僕の日常も、彼女と共有したい。


そして、毎朝目を覚ますたびに、今日もどこかで彼女に会えるのだと思える日々を、これからも続けていきたい。


もしかしたら、恋に落ちるというのは、特別な瞬間を誰かと過ごしたいと願うことだけではないのかもしれない。


何でもない火曜日の始まりさえも、その人と分かち合いたいと思うこと。


それもまた、誰かを好きになるということなのだろう。

今回も読んでくださって、ありがとうございます!


何気ないメッセージから始まった大樹の一日。

特別な出来事がなくても、舞夜と過ごす時間は少しずつ大切なものになっていますね。


これから二人の関係がどう変わっていくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!

次回もよろしくお願いします!

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