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残しておきたい思い出

放課後、僕は数日前に舞夜と見つけた小さな場所へ向かった。


きっと、彼女もそこにいる。


そう思っていたら、案の定だった。


舞夜はベンチに座り、僕たちの小さなカメラを手にしていた。


「来たね、大樹くん」


「うん」


僕は彼女の隣に腰を下ろした。


「何してるの?」


「写真を見てたの」


舞夜はカメラの小さな画面をつけた。


「見てみて」


最初に表示されたのは、数日前に撮った写真だった。


木々の下に並んで立つ僕たち。


少しぎこちないけれど、二人とも笑っている。


「三年生になって、最初に撮った写真だね」


「そうだね」


舞夜は次の写真へと画面を切り替えた。


そこに映っていたのは、試し撮りをしていたとき、偶然撮れてしまった空の写真だった。


さらに次の写真には、テーブルの上に置かれた飲み物が写っていた。


「……なんで、これを撮ったの?」


「だって、大樹くんが私の好きな飲み物を買ってくれた日だったから」


「いや、それは写真に残すほどのことじゃないだろ」


「私にとっては、残しておきたいことなの」


舞夜は楽しそうに微笑んだ。


そのまま、次々と写真を切り替えていく。


一枚一枚は、どれも小さな出来事だった。


花。


通りの風景。


食べ物。


学校の片隅。


そして、なぜかピントがずれている結衣の写真まであった。


「待って」


「何?」


「それは、いらないんじゃないかな……」


舞夜は声を上げて笑った。


「これを消したら、結衣が怒りそうだよ?」


「……たぶんね」


僕たちは、そのまま写真を見続けた。


やがて、去年撮った写真も表示された。


修学旅行。


神社。


お祭り。


クリスマス。


きれいに撮れたものもあれば、少しぼやけてしまったものもある。


それでも、一枚一枚が違う記憶を呼び起こしてくれた。


舞夜は、ある写真の前で指を止めた。


「これ、好きだな」


それは修学旅行のときに撮った写真だった。


みんなで一緒に写っている。


その中で、僕と舞夜は隣同士に並んでいた。


「この日は楽しかったね」


「うん」


「大樹くんが、私に気づかれないように写真を撮ろうとしてたの、覚えてるよ」


「そんなことしてないって」


「してたよ」


「ただ、いい写真を撮りたかっただけだよ」


舞夜はくすっと笑った。


「でも、ちゃんといい写真が撮れたね」


そう言って、また次の写真へと進めた。


今度は、お正月の写真だった。


淡いラベンダー色の振袖に、濃い紫色のかんざしを合わせた舞夜。


その後ろでは、雪が静かに降っていた。


舞夜は画面にそっと触れた。


「これ、私のお気に入りの一枚なの」


「僕も好きだよ」


「だって、二人で迎えた初めてのお正月だったから」


「そうだね」


その次に表示されたのは、ホワイトデーの日の写真だった。


舞夜の首元には、星と花を組み合わせた小さなペンダントが輝いている。


舞夜は嬉しそうに笑った。


「これも好き」


「……もしかして、全部お気に入り?」


「選べないんだもん」


「それじゃ、決まらないじゃないか」


「だったら、もっとたくさん撮ればいいんだよ」


僕は彼女を見た。


「どれくらい?」


舞夜は少し考えたあと、にっこりと笑った。


「どれを選べばいいのかわからなくなるくらい!」


「それ、何年かかるんだろうね」


「何年でもいいよ」


舞夜は、まるで当たり前のことのように答えた。


僕は思わず笑ってしまった。


しばらくして、舞夜はカメラの電源を切った。


「ねえ、大樹くん」


「ん?」


「大樹くんにとって、一番好きな思い出って何?」


突然の質問に、僕は少し驚いた。


「今までの全部の中から?」


「うん」


僕は考え込んだ。


思い出が多すぎて、すぐには決められなかった。


修学旅行。


お祭り。


クリスマス。


お正月。


バレンタイン。


ホワイトデー。


どれも大切な思い出だった。


けれど、そのどれよりも先に、ひとつの出来事が頭に浮かんだ。


「……舞夜が、自分の過去と向き合った日かな」


舞夜は、ぴたりと動きを止めた。


「……あの日?」


僕は頷いた。


「うん」


「もっと、ロマンチックな思い出を選ぶと思ってた」


「そういう思い出も、もちろん大切だよ」


僕は微笑んだ。


「でも、あの日は少し違ったんだ」


舞夜は静かに視線を落とした。


「……どうして?」


僕は、ゆっくりと言葉を選んだ。


「大変なことがあっても、舞夜のそばにいたいって、初めてはっきり思った日だったから」


舞夜の紫色の瞳が、わずかに潤んだ。


「大樹くん……」


「どうすれば力になれるのか、あのときはわからなかった」


僕は続けた。


「何かを解決できたわけでもないし、過去を変えられたわけでもない。ただ、そばにいただけだった」


「ううん」


舞夜は小さく首を振った。


「大樹くんは、ちゃんと力になってくれたよ」


「……そうかな」


「うん。そばにいてくれただけで、十分だったの」


僕たちは、しばらく黙っていた。


やがて、舞夜がそっと僕の手を取った。


「じゃあ、その思い出は私にとっても、一番好きな思い出のひとつだよ」


僕は驚いて彼女を見た。


「本当に?」


「うん」


舞夜は、僕の手を優しく握った。


「あの日、大樹くんになら、心から頼ってもいいんだって思えたから」


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


僕は、つないだ手を見つめた。


それから、舞夜の顔を見た。


そして、結衣に言われた言葉を思い出した。


『その告白を、特別なものにしてあげてね』


……もしかすると、少しずつわかってきたのかもしれない。


僕は、ただ舞夜が好きだと伝えたいわけじゃない。


どうして好きになったのか。


彼女と過ごしてきた時間が、自分にとってどれほど大切だったのか。


それを、きちんと伝えたい。


恋愛らしい出来事だけじゃない。


何気ない会話も。


一緒に笑った時間も。


彼女が苦しんでいたときに、そばにいたことも。


二人で交わしてきた、小さな約束も。


きっと、いつか告白するときには、そんな思い出についても話したいのだと思う。


だって、僕が舞夜を好きになったのは、たったひとつの瞬間がきっかけだったわけじゃない。


一緒に過ごした時間の、そのすべてが積み重なっていた。


僕は、そのひとつひとつを大切に思っている。


そして、何よりも……。


そのすべての時間を、僕と一緒に過ごしてくれた彼女のことが、好きなのだ。

今回も読んでくださって、ありがとうございます!


大樹にとって一番大切な思い出は、楽しかった日だけではありませんでした。

舞夜が苦しんでいたとき、そばにいたこと。そして、二人で支え合えたことも、大切な記憶になっています。


大樹は、いつか舞夜に自分の気持ちを伝えるとき、どんな言葉を選ぶのでしょうか。


これからも二人を見守っていただけたら嬉しいです。

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次回もよろしくお願いします!

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