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舞夜も気づいている

授業が終わると、僕は写真をもう一度ノートのページの間に挟んだ。


なくしたくなかった。


ただの写真かもしれない。


けれど、僕にとっては、それ以上の意味があった。


席を立ち、廊下へ出る。


休み時間になると、いつもの習慣のように三年二組へ向かった。


舞夜は教室の入口近くで僕を待っていた。


「大樹くん」


「やあ」


「元気?」


「元気だよ」


舞夜は数秒間、僕の顔をじっと見つめた。


「そうは見えないけど」


「どういう意味?」


「今日、いつもと違うよ」


僕は思わず立ち止まった。


「違う?」


舞夜は頷いた。


「うん」


「どんなふうに?」


「うまく説明できないんだけど……」


彼女は考えるように指先を唇に当てた。


「何か、大切なことを考えているように見えるの」


僕は小さく笑った。


「そうかもしれない」


「それって、私に関係あること?」


あまりにも真っ直ぐな質問に、僕はすぐに答えられなかった。


舞夜は僕の顔を注意深く見つめている。


「……そうなの?」


「少しだけ」


舞夜の頬が、ほんのりと赤くなった。


「私、何かした?」


「いや、何も」


「じゃあ、どうして私に関係あるの?」


僕は小さく息を吐いた。


「昔のことを思い出してたんだ」


「私たちのこと?」


「うん」


舞夜は少しだけ視線を落とした。


「どんなこと?」


答えようか迷った。


でも、まだすべてを話す準備はできていなかった。


「去年のことだよ」


「修学旅行?」


「それも」


「クリスマス?」


「うん」


「お正月?」


「そうだね」


舞夜は楽しそうに微笑んだ。


「バレンタイン?」


「うん」


「ホワイトデー?」


「うん」


そこまで聞いていた舞夜の表情が、わずかに変わった。


「それで……?」


「それで、何?」


「文芸部のことも思い出した?」


僕は驚いて彼女を見た。


図星だった。


舞夜は何も言わず、静かに僕の返事を待っていた。


「……うん」


そう答えると、彼女はそっと微笑んだ。


「嬉しい」


「嬉しいの?」


「うん」


舞夜は首元の小さなペンダントに、優しく触れた。


「あの頃のことって、今でもまだ、自分のすぐそばにあるように感じるときがあるんだ」


「……ごめん」


思わずそう口にすると、舞夜はすぐに首を横に振った。


「謝らなくていいよ」


そして、僕の目をまっすぐに見つめた。


「今、あの頃のことを思い出しても、もう痛みだけを感じるわけじゃないの」


「どうして?」


「だって、あのとき大樹くんが一緒にいてくれたことも思い出すから」


僕は何も言えなかった。


舞夜は、ゆっくりと話を続けた。


「前はね、あの出来事は、ただ過去にあったことだと思ってた」


「今は違うの?」


「うん。今は、私たちの思い出の一部でもあるんだよ」


舞夜は微笑んだ。


「そう考えると、同じ記憶でも、少し違って感じられるの」


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


「舞夜……」


「何?」


「……あのとき、そばにいられてよかった」


舞夜は嬉しそうに笑った。


「私もだよ」


僕たちは、しばらく何も言わずに見つめ合っていた。


やがて、舞夜が少しだけ首を傾げた。


「でもね、ひとつ気になることがあるの」


「何?」


「最近、大樹くんの私を見る目が変わった気がする」


僕は完全に固まった。


「……変わった?」


「うん」


「どんなふうに?」


舞夜は頬を赤くした。


「それが、うまく説明できないんだけど……」


「嫌な感じ?」


「違うよ!」


舞夜は慌てて首を振った。


「むしろ、その反対」


「じゃあ……?」


彼女は少しだけ視線を落とした。


「大樹くんにそんなふうに見つめられると、心臓がドキドキするの」


今度は、僕の心臓まで速くなった。


「……ごめん」


「だから、謝らなくていいってば」


舞夜は照れくさそうに笑った。


「私、嫌じゃないよ。むしろ……嬉しい」


僕は彼女を見つめた。


何と答えればいいのかわからなかった。


舞夜も、どうすればいいのかわからない様子だった。


数秒後、彼女は小さく笑った。


「なんだか、私たち二人とも大変なことになってるね」


「どうして?」


「だって、二人とも何を言えばいいのかわからなくなってるんだもん」


「……確かに」


「でもね」


舞夜は顔を上げた。


「これからも、そんなふうに私を見てほしいな」


また、心臓が大きく跳ねた。


「……たぶん、もう無理だと思う」


「えっ?」


「今までどおりには、戻れない気がする」


口にしてから、自分の言葉の意味を意識した。


舞夜の目が、わずかに大きくなる。


そして、彼女は微笑んだ。


小さな笑顔だった。


けれど、そこには少しの迷いもなかった。


「……そっか。じゃあ、いいよ」


そのとき、チャイムが鳴った。


僕たちは、それぞれの教室へ戻らなければならなかった。


でも、別れる直前、舞夜がそっと僕の手を取った。


「大樹くん」


「うん?」


「今、何を考えているのか……」


彼女は少しだけ間を置いた。


「話せるようになったら、私に聞かせてね」


僕は彼女の手を、そっと握り返した。


「……ありがとう」


「待ってるから」


僕たちはゆっくりと手を離した。


舞夜は自分の教室へ戻り、僕も自分の教室へと歩き始めた。


けれど、廊下を進みながら、僕の中ではひとつのことがはっきりしていた。


舞夜も、気づいている。


僕たちの間で、何かが変わり始めていることに。


そして、もしかすると彼女は、僕がまだ口にする勇気を持てずにいる答えに、とっくに気づいているのかもしれなかった。

今回も読んでくださって、ありがとうございます!


大樹の変化に気づき始めた舞夜。

そして彼女自身も、その視線に胸を高鳴らせています。


二人とも、もう以前と同じ気持ちではいられないのかもしれません。

大樹が自分の想いを言葉にする日は、少しずつ近づいているのでしょうか。


これからも二人を見守っていただけたら嬉しいです。

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次回もよろしくお願いします!

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