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考えずにはいられないこと

三年生になってから、数日が過ぎた。


僕たちの新しい日常も、少しずつ形になり始めていた。


朝、登校する前にメッセージを送り合う。


休み時間になれば、どちらかが相手を探しに行く。


時間割が合えば、一緒に昼食を食べる。


放課後は、並んで駅まで歩く。


そして、少し時間に余裕があるときは、二人だけの秘密の場所へ向かう。


特別なことは何もない。


でも、僕はそんな毎日が好きだった。


……もしかすると、自分で思っている以上に。


なぜなら、あることに気づき始めていたからだ。


舞夜がそばにいないときでさえ、僕は彼女のことを考えてしまう。


授業中。


廊下を歩いているとき。


店先でカメラを見かけたとき。


彼女が好きだと知っている飲み物を見つけたときでさえ。


いつの間にか、一日の中にある何気ないものが、舞夜と結びつくようになっていた。


「大樹」


顔を上げると、結衣が僕を見つめていた。


「何?」


「二回も呼んだんだけど」


「あれ?」


「何を考えてたの?」


「別に何も」


結衣は疑わしそうに目を細めた。


「嘘」


「嘘じゃないって」


「窓の外を見ながら、ニヤニヤしてたくせに」


「……僕、笑ってた?」


「うん。すっごく」


後ろの席に座っていた松が、会話に割り込んできた。


「どうせ舞夜のことでも考えてたんだろ」


「松!」


「違うのか?」


僕は反論しようと口を開いた。


けれど、言葉が出てこなかった。


結衣がにっこりと笑う。


「やっぱりね」


「別に、舞夜のことを考えてたわけじゃ……」


「じゃあ、何を考えてたの?」


「それは……」


僕は黙り込んだ。


説得力のある答えが、どうしても思いつかなかった。


結衣は片手で頬杖をついた。


「ねえ、大樹」


「何だよ」


「完全に迷子になってるよね」


「迷子?」


「そう。自分がいつ舞夜のことを考えてるのかさえ、わからなくなってるんじゃない?」


松が声を上げて笑った。


「確かに!」


「お前ら、ほんとにうるさいな……」


「でも、間違ったことは言ってないでしょ?」


結衣は悪びれる様子もなく言った。


僕は何も答えなかった。


認めるのは悔しいけれど……。


たぶん、二人の言うとおりだった。


昼休みになり、僕は教室を出て廊下へ向かった。


それほど歩かないうちに、探していた相手が見つかった。


舞夜が僕を待っていた。


「大樹くん」


「やあ」


「授業、どうだった?」


「普通だったよ」


「何か考え事してた?」


僕は驚いて彼女を見た。


「……どうしてわかったの?」


舞夜は楽しそうに笑った。


「大樹くんのこと、よく知ってるから」


「結衣にも気づかれたよ」


「本当?」


「うん」


舞夜は少し首を傾げた。


「何かあったの?」


「いや、別に」


「本当に?」


「ああ」


彼女はしばらく僕の顔をじっと見つめていた。


やがて、ふっと微笑む。


「そっか。じゃあ、いいよ」


それ以上、無理に聞こうとはしなかった。


僕たちは並んで歩き始めた。


他愛のない話をしているうちに、僕はまた、あの感覚を覚えていた。


舞夜が隣にいるだけで、心が落ち着いていく。


特別な出来事なんて必要ない。


きれいな景色がある場所に行かなくてもいい。


写真を撮らなくてもいい。


無理に話し続ける必要さえない。


ただ、一緒にいる。


それだけで十分だった。


そして、ふと思った。


僕にとって、舞夜はいつからこんなにも大切な存在になったんだろう。


答えは見つからなかった。


……いや、もしかしたら、もう答えはわかっているのかもしれない。


ただ、それを認める覚悟が、まだできていないだけで。


「大樹くん」


「ん?」


「また考え事?」


僕は思わず目を見開いた。


「どうしてわかるの?」


舞夜はくすっと笑った。


「その顔をしてるから」


「どんな顔だよ」


「うーん……説明するのは難しいかな」


「じゃあ、わからないじゃないか」


「ううん。わかるよ」


舞夜は僕の顔を覗き込むようにして、まっすぐに見つめてきた。


「だって、私、大樹くんのことをよく見てるもん」


心臓が、小さく跳ねた。


僕は思わず視線を逸らした。


「……それは、ずるいだろ」


「えっ? どうして?」


「今ので、こっちまで意識しちゃったじゃないか」


口にしてから、自分が何を言ったのかに気づいた。


舞夜の頬も、みるみるうちに赤くなっていく。


「わ、私だって……ちょっと恥ずかしいよ」


「……そうなの?」


「そうだよ!」


少しだけ強い口調で返されて、僕たちは顔を見合わせた。


次の瞬間、どちらからともなく笑い出してしまった。


やがて休み時間の終わりが近づき、僕たちはそれぞれの教室へ戻るために歩き始めた。


その途中、僕はようやく、ひとつのことを理解した。


僕はもう、ただ舞夜のことを頻繁に考えているだけじゃない。


彼女がいないと、一日がどこか物足りなく感じるようになっていたのだ。


そして、その感覚を――


ただの友情と呼び続けることが、日に日に難しくなっていた。

今回も読んでくださって、ありがとうございます!


何気ない毎日の中で、舞夜の存在がますます大きくなっていく大樹。

自分の気持ちに気づき始めた彼が、いつかその想いを言葉にできるのか……。


二人のゆっくりとした変化を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。


ブックマークや評価も励みになります。

次回もよろしくお願いします!

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