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待ち合わせの場所

午後の授業が、ようやく終わった。


荷物をまとめながら、僕は今日一日の出来事を振り返っていた。


昼休みには、新しい二人だけの場所を見つけた。


三年生になって初めての写真も撮った。


そして何より、ずっと避けてきたことについて、舞夜と話をした。


自分の気持ちについて。


まだ、それが何なのかを正確に言葉にすることはできない。


……いや、本当はわかっているのかもしれない。


ただ、それに名前をつけるのが怖いだけなのだ。


教室を出た僕は、昇降口へと向かった。


舞夜は、すでにそこで待っていた。


「大樹くん」


「ごめん。待った?」


「ううん」


舞夜は微笑んだ。


「でも、今日はいつもより遅かったね」


「結衣と話してたんだ」


「私のこと?」


「当然」


「やっぱり……」


舞夜は小さくため息をついた。


どうやら、結衣が僕に何を話していたのか、だいたい想像がついているらしい。


僕たちは並んで歩き始めた。


しばらくは、何気ない話をしていた。


授業のこと。

先生のこと。

昼休みに撮った写真のこと。

新しく見つけた秘密の場所のこと。


いつもと変わらない、穏やかな帰り道。


けれど、駅に近い静かな通りに差しかかったとき、舞夜が少しだけ歩く速度を落とした。


「大樹くん」


「ん?」


「ひとつ、お願いしてもいい?」


「どんなお願い?」


舞夜は前を向いたまま、少しだけ間を置いた。


「たとえ、違うクラスになっても……」


そして、そっと僕の方を見た。


「毎日、少しでも一緒に過ごす時間がほしいな」


僕は彼女を見つめた。


「毎日?」


「うん。できる限りでいいから」


舞夜は少し照れたように笑った。


「別に、特別なことじゃなくていいんだよ?」


「例えば?」


「休み時間にお話しするとか」


「いいよ」


「一緒にお昼を食べるとか」


「もちろん」


「放課後、一緒に帰るとか」


「それは僕も嬉しい」


そう答えると、舞夜の表情が明るくなった。


「じゃあ、できるだけそうしようね」


「うん」


「約束、してくれる?」


僕は舞夜を見た。


また、約束だ。


最近の僕たちの会話には、小さな約束がずいぶん増えた気がする。


けれど、今回の約束は、今までとは少し違うように感じた。


僕はそっと手を差し出した。


「約束」


舞夜は嬉しそうに笑い、僕の小指に自分の小指を絡めた。


「毎日だよ?」


「毎日」


僕たちは、そのまま数秒間、小指を絡めていた。


やがて、舞夜が顔を上げた。


「ねえ、大樹くん」


「何?」


「私、違うクラスになったのも、そんなに悪くない気がしてきた」


「どうして?」


「だって、今までより大樹くんに会いに行く理由が増えたから」


その言葉に、僕は思わず笑みをこぼした。


「僕も同じことを考えてたよ」


「本当?」


「うん」


舞夜は小さく笑った。


「そっか。じゃあ、お互い様だね」


やがて、駅に到着した。


ここで、僕たちの帰り道は別々になる。


電車に乗る前、舞夜は首元のペンダントにそっと触れた。


「明日も、これをつけてくるね」


「じゃあ、僕もカメラを持ってくるよ」


「どうして?」


「また写真を撮るために」


舞夜は目を輝かせた。


「そっか。じゃあ、明日も新しい思い出ができるね」


「うん」


ちょうどそのとき、ホームに電車が到着した。


扉が開き、舞夜は車内へと乗り込む。


けれど、完全に乗り込む直前、彼女はもう一度こちらを振り返った。


「大樹くん」


「ん?」


「今日はありがとう」


「こちらこそ、ありがとう」


「それから……」


舞夜は少し考えるようにしてから、微笑んだ。


「私たちの約束、忘れないでね」


僕も笑顔で頷いた。


「忘れないよ」


扉が閉まった。


電車がゆっくりと動き始める。


僕は片手を上げた。


舞夜も車内から手を振り返してくれた。


そして、彼女の姿は少しずつ遠ざかり、やがて見えなくなった。


僕はしばらく、電車が走り去った線路を眺めていた。


それから、ふと思った。


もしかすると、クラスが別々になったことは、僕たちにとって悪いことばかりではなかったのかもしれない。


二年生の頃、僕たちは同じ教室にいた。


だから、何気なく顔を合わせることができたし、特別に約束をしなくても、一緒に過ごす時間が自然と生まれていた。


でも、今は違う。


会いたいと思ったら、自分から会いに行かなければならない。


一緒に過ごしたいと思ったら、そのための時間を作らなければならない。


そして、僕たちはお互いに、そうすることを選んでいる。


つまり、今こうして一緒にいるのは、ただ同じ教室にいたからじゃない。


二人とも、相手と一緒にいたいと思っているからだ。


帰り道を歩きながら、僕は昼間の会話を思い出していた。


『何かが変わった気がする』


……そうだ。


確かに、何かが変わった。


そして、日が経つにつれて、その変化を無視することが難しくなっている。


まだ、自分の気持ちをはっきりと言葉にする覚悟はできていない。


けれど、最近は、ある疑問が何度も頭に浮かぶようになっていた。


僕は、いつから舞夜を好きになろうとしていたんだろう。


そして、いつから――ただ、舞夜のことが好きになっていたんだろう。

今回も読んでくださって、ありがとうございます!


クラスが別々になったからこそ、互いに会いに行くことを選ぶようになった大樹と舞夜。

大樹自身も、少しずつ自分の本当の気持ちに気づき始めています。


二人の関係がこれからどう変わっていくのか、引き続き見守っていただけると嬉しいです。


ブックマークや評価も励みになります。

次回もよろしくお願いします!

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